「抄訳」の意味と使い方とは?要約との違いや類語・対義語も解説

「抄訳」は出版会社で仕事をしていたり翻訳業を行っている人なら周知の表現かもしれませんが、一般の人にはなじみの薄い言葉の一つでしょう。ぜひ、要約や全訳との違いについても把握しておきたいものです。

今回は「抄訳」の意味、要約との違い、使い方の例文、類語と対義語、英語表現について解説させていただきます。

「抄訳」とは?

「抄訳」の意味は”原文の一部を翻訳をすること”

「抄訳」の意味は、“本の原文にある一部分を抜き出し翻訳をすること”です。一般的な書籍を始め、文庫本、小説、研究書物、図鑑、雑誌、新聞などを、全ての書籍物を対象に、その中味の一部分や指定箇所を抜粋し、翻訳をすることを指します。

「抄訳」の「抄」には、多数ある中から少しを抜き取るという意味があります。その「抄」に、他の言語や別の体系の言葉を意味の通じるものにするという意味の「訳」を後続させた言葉が「抄訳」です。

「抄訳」は古文や外国語が対象となる

そもそも「抄訳」とは意味の通じない言語や言葉を普通の言葉に直し、意味を通じるようにするという意味があります。そのため、英語やスペイン語、中国語や韓国語などの外国語はもちろん、古文や漢文など、体系の違う言語も対象となります。

「抄訳」の使い方と例文とは?

「抄訳」は全部の文章を訳す時には使われない

「抄訳」は文章の一部を抜き出して、その部分だけを訳すことです。「訳」という漢字がつかわれているため、うっかり勘違いをしてしまいがちですが、「抄訳して下さい」と依頼された場合は、指定の書籍を全て丸まる訳す必要はないということになります。

逆に、書籍翻訳者やメディア関係のインタープリターをしている人は、依頼主から「抄訳」の部分抜きがない場合、どの箇所を訳すのかを確認しなければなりません。報酬にも関係してくる大切な部分となりますので、しっかり把握しておきましょう。

「抄訳」を使った例文

「抄訳」を使った例文をご紹介しましょう。

  • この部分の抄訳をお願いできますか?
  • 動物の生態を包括的に説明しているこの部分だけ抄訳が必要だ。
  • 分厚い研究論文だが、下線部で示した通り、一項目につき一抄訳という契約で依頼をかけるつもりだ。
  • 5行ほどの抄訳なので、できるだけ忠実に訳してもらいたい。

「抄訳」の類語と対義語とは?

抄訳の類語①「抄録」とは原文から要点の抜き書きをすること

「抄訳」の類語として考えられるのは、原文から要点の抜き書きをするという意味の“抄録”でしょう。学術論文や研究書などに対し、重要な個所を抜き出して、短くまとめること、またその文章を指します。極めて「要点」と近い意味合いとなりますが、やはり「抄訳」が意味する「訳し」の部分が欠けています。言葉の選択や使い方には気をつけましょう。

抄訳の類語②「要約」とは論旨を短くまとめることの意味

「抄訳」と似たような表現に“要約”があります。「要約」とは論旨をできるだけ短くまとめることを意味し、筆者や書き手の最も言いたいことや、内容の要点を相手にわかりやすくまとめ、仕上げたものを指します。

また「要約」は言語に関係なく使われる言葉です。たとえば、英語の書籍をそのまま英語で「要約」することもできますし、英語の書籍を意味の通じる日本語に「要約」することもできます。つまり「要約」とは言語や言葉の体系に関わらず純粋に”短くまとめる”という意味を持つ言葉となります。

また、別の言語で要約を行う際は、言葉を足して「英語要約・日本語要約」などと表現することがあります。

「抄訳」の対義語は”全訳・完訳”

「抄訳」の対義語となるのは“全訳”“完訳”です。「抄訳」が意味する”部分的な訳”ではなく、言葉通り「全訳」は全てを訳すこと、「完訳」は完全に訳すことという意味になります。これらの場合、タイトルから項目、筋書、注意書き、また巻末の挨拶部分まで含むことがあります。

「抄訳」の英語表現とは?

「抄訳」は英語で”abridged translation”

「抄訳」は英語の定型フレーズ“abridged translation(アブリッジド・トランスレーション)”を使いましょう。ちなみに、対義語にあたる全訳は英語で「complete and unabridged translation」と言います。ぜひ、関連させて覚えておくとよいでしょう。

「抄訳」を使った英語例文

「抄訳」を使った英語例文をご紹介しましょう。

  • 一週間前に依頼した抄訳をいただけませんでほうか?
    Can I please get an abridged translation I asked a week ago? 
  • 今回は抄訳ではなく全訳したものをお願いしたいと思います。
    I would like to offer you not a abridged but complete and unabridged translation this time.

まとめ

「抄訳」とは 翻訳の世界では必須用語で、英語や中国などの主要言語のみならす、古文や漢文などを含む体系の異なる言語を部分的に訳すことを意味します。似た言葉である「要約」は言語に関係なく「短くまとめる」という意味を持つため、基本的に趣旨が異なることを留意しておきましょう。

海外の文学や新聞など馴染みのない言語を目にすると「大切な部分だけが知りたい」という思いにかられるものです。「抄訳」は読者の興味のある部分だけ、また重要なポイントが網羅されている書き出しの部分だけというように、決められた箇所だけを訳す意味を持ちます。この機会に「抄訳」理解を深めてみませんか?