「盛者必衰」の意味とは?『平家物語』の「盛者必衰の理」も解説

「盛者必衰」は『平家物語』の一節として有名な中世の言葉ですが、現代のビジネスシーンにおける企業の盛衰を表現するのにもしばしば用いられています。しかし意味や読み方が難しいと感じる人もいるのではないでしょうか?

この記事では、「盛者必衰」の意味や読み方、また『平家物語』で語られている内容などを解説します。あわせて使い方と例文や類語も紹介しています。

「盛者必衰」の意味と読み方とは?

「盛者必衰」の意味は”勢いが盛んな者も必ず衰え滅びる”

「盛者必衰」の意味は、“ひとたび勢いが盛んとなった者でも、いつかは必ず衰え滅びる時が来る”ことです。人の世のはかなさを憂う気持ちとともに用いられます。

「盛者必衰」は中世の古い表現ですが、現代のビジネス情報を扱った記事などでも比喩としてしばしば用いられます。

「盛者必衰」の根底には仏教の無常観がある

「盛者必衰」は、もともとは仏教の無常観に基づいた仏教用語です。この世は「無常」であるから、栄華を極めた者は必ず衰えるという「有為転変」の法則を表現しています。

「無常(むじょう)」とは、世の中の一切のものは、生じたり、変化したり、滅したりするもので、常住(一定)では無いという意味です。

「有為転変(ういてんぺん)」とは、「無常」と同じく、世の中のすべての存在や現象は、決して一定することはなく、常に移り変わってゆくはかないものであるという意味です。「有為」とは、さまざまな因果関係(因縁)によって生じた現象のことです。

つまり、「盛者必衰」の”栄える者も必ず滅びる”という意味は、因縁によって生じるものは全て無常であるという仏教の世界観を表わしたものなのです。

「盛者必衰」の読み方は”じょうしゃひっすい”

「盛者必衰」の読み方は“じょうしゃひっすい”です。「しょうじゃひっすい」の読み方が示されている辞書もありますが、「じょうしゃひっすい」の読み方が一般的です。

なお、「盛者必衰」の類語に「生者必滅(しょうじゃひつめつ)」があるため、それと混同した「生者必衰(しょうじゃひっすい)」の書き方は誤りです。

平家物語の「盛者必衰の理」の意味と読み方とは?

「盛者必衰」の言葉は、中学校で習った『平家物語』の中の一節「盛者必衰の理」として覚えている人が多いかもしれません。ここからは『平家物語』に関連する「盛者必衰」を解説します。

「盛者必衰の理」の意味は”栄えた者も必ず滅びるという道理”

『平家物語』は、平安時代に起こった源氏と平氏の戦いを扱った軍記物です。仏教思想の影響のもと、七五調を主体として、平氏の興亡を叙事詩的に描いた歴史文学です。鎌倉時代に書かれ、盲目僧の琵琶法師が琵琶の音とともに語り歩きました。

『平家物語』の冒頭に始まる「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)」の一節に「盛者必衰の理」が登場します。「理(ことわり)」とは、”物事の筋道・道理”という意味です。つまり、「盛者必衰の理」とは、”栄えた者も必ず滅びるという道理”という意味です。

原文と訳文例を紹介します。

<原文>

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

おごれる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。

たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

現代語訳

祇園精舎の鐘の音には、物事はつねに変化して、同じところにとどまることはないという諸行無常の響きを感じます。

沙羅双樹の花の色は、栄華を極めた者であっても、必ず衰えていくものだという盛者必衰の理を見せています。

大きな権力を持つ人も長く続くことはなく、それはまるで、春の夜の夢のようなものです。

勇ましい者も最後には滅びるのであり、風の前の塵と同じことなのです。

「盛者必衰の理」の読み方は”じょうしゃひっすいのことわり”

「盛者必衰の理」の読み方は”じょうしゃひっすいのことわり”です。この音から、「盛者必衰の断り(じょうしゃひっすいのことわり)」という漢字を想像する人がいるようですが、「ことわり」は「理」のことであり、「断り」ではないので注意しましょう。

「盛者必衰」の使い方と例文とは?

ビジネスシーンにおける「盛者必衰の理」の使い方と例文

「盛者必衰」は、ビジネスの興亡を表現する語としてビジネスシーンでもしばしば用いられます。「盛者必衰」はビジネスの法則でもあることから、「盛者必衰の理」の表現がよく使われます。

例文
  • IT技術の競争が激化するなか、盛者必衰の理に即して、トップ企業は常に入れ替わっている
  • 現代社会の覇者はGAFAだが、歴史の教訓である盛者必衰にならえばその英華も永遠ではないだろう
  • 20年前の企業の時価総額ランキングと現在とを比較すると、まさに盛者必衰の理が導き出される

「盛者必衰」の類語とは?

「盛者必衰」の真髄を意味する”諸行無常”

「盛者必衰」の真髄となる仏教の基本的な考え方に“諸行無常(しょぎょうむじょう)”があります。諸行無常とは、世の中のあらゆる物事は絶えず変化し続ける、という仏教の真理を表す言葉です。

『平家物語』にも、祇園精舎の鐘の声は諸行無常の響きがするという一節があります。世の中は諸行無常のはかないものだという考え方は、栄える者も必ず滅びるという「盛者必衰」につながるものです。

栄えたり衰えたりするという意味の「栄枯盛衰」

仏教の無常観を基盤として中世に作られた熟語に「栄枯盛衰(えいこせいすい)」があります。「栄枯」とは草木が盛んに茂ることと枯れることを意味し、「盛衰」とは物事が盛んになることと衰えることを意味します。

「栄枯盛衰は世の習い」や「栄枯盛衰は世の常」などと使われ、国家や人、物事などについて、勢いが盛んな時もあれば、衰える時もある、そしてそれは世の常だ、という意味で用いられます。

「栄枯盛衰」は「盛者必衰」よりもいくぶんソフトな表現ですが、良い時が常に続くわけではないという比喩として同じ意味で使われています。

まとめ

「盛者必衰」とは、仏教の真理である「無常」を人の世に起こる現象として表現した言葉です。無常とは、世の中の一切の物事は因縁によって仮に存在するものであり、生じては滅する、常に移り変わる存在であるということです。

平安時代の平氏の興亡を描いた『平家物語』で用いられた表現ですが、その思想的背景には仏教の無常観が色濃く反映されています。

現代のビジネスシーンにおいても、企業の興亡を占う語として比喩的に用いられたりしますが、世のはかなさを憂いた平家物語の時代の仏教的な感覚が、無意識的に根底に引き継がれ、使われているのかもしれません。