「のたまう(宣う)」とは皮肉をこめて相手をからかうときに使うことが多い言葉です。しかし本来は「言う」の尊敬語として使われていて、古文でも「おっしゃる」の意味で出てきます。
今回は「のたまう」の意味と漢字表記、さらに使い方や類語を例文も併せて解説します。
「のたまう」の意味とは?
「のたまう」の意味は「言う」の尊敬語
「のたまう」には意味が2つあります。ひとつは「言う」の尊敬語です。しかしこの意味で使われることは比較的少なく、現代ではもうひとつの意味がよく使われています。
「のたまう」のもうひとつの意味は「言ってやる」
「のたまう」のもう一つの意味は“言ってやる”です。話しかける相手に対して、時にはからかったり、時には皮肉的なニュアンスを込めたりして大げさに言うときに使われます。
また相手を低めるようにしながら、大きな態度でもっともらしく物事を言うときにも使われます。この場合は、相手をへりくだらせるという意図があるだけでなく、かしこまらせる気持ちを促しています。
「のたまう(宣う)」は古文で「おっしゃる」
「のたまう」は「のたまふ(宣ふ)」と記されて古文でよく使われています。古文で使われる場合には、「言ふ」の尊敬語の「おっしゃる」の意味のほかに「申し聞かせる」「言い聞かせる」の意味があります。
身分の上の人が目下の人または身内の人に、身分の高い人の言ったことを話して伝えるときに使われます。
「のたまう」とは「のりたまふ」という古語が語源
「のたまう」とは”のりたまふ”という古語が語源です。「のりたまふ」は「告る(のる)」と「給ふ(たまふ)」から成ります。「告る」とは神聖なものや天皇が、人々に対して表明することという意味。「給ふ」は「給う(たまう)」の古い仮名遣いで、軽い敬意を表し男性が使う表現です。
この「のりたまふ」の音が変化して「のたまう」という言葉が生まれました。
「のたまう」の漢字表記
「のたまう」は「宣う」または「曰う」と漢字で書き表されます。ここでは、それぞれの意味について見ていきましょう。
「のたまう」の漢字は「宣う」
「のたまう」を漢字で書き表すときによく使われるのが「宣う」で、文語で使われます。
「宣う」で使われる「宣」は「のたまう」の意味で使われるときは、勅旨(ちょくし)を広く伝えるという意味があります。勅旨とは天皇の意思、または律令制が敷かれていた古代日本で天皇の勅名を伝える文書のことです。
また「宣」が「宣す(せんす)」と読まれるときには、述べるという意味があります。「宣言」のように使われるときには、この述べるという意味で使われています。
漢字で「曰う」とも表記する
「のたまう」は”曰う”という漢字も使われます。「曰う」の意味は”言う”で、特に人が発言した内容を導くときに使われる表現です。
古文などで、「古人曰く」(意味:「古人が言ったことには」)と言った副詞的な使い方がよくされます。
「のたまう」の使い方と例文
「のたまう」は皮肉を込めて相手に言うときに使う
「のたまう」は”言う”の尊敬語としての使い方よりも、人がなにかを言っているということを、からかったり皮肉を込めたりして第三者に伝えるときに、「のたまう」は使われることが多いでしょう。
- 「あいつはまた酔っぱらってのたまっていたそうだ」
- 「殴られて横たわる僕に向かって、先輩は「俺を倒せるとでも思ったのか」とわずかに笑みを見せながらのたまった」
相手を貶めるような状況でも使われる
「のたまう」を使うことで相手を持ち上げるようなふりをして、実際には相手を貶めるようとするときに使われます。そのようなときの物言いは、態度が大きくなる傾向があるでしょう。
- 「そんな風にのたまってばかりだから、いつまでたっても情けないままなんだよ」
- 「つまらないことを偉そうにのたまって、よくも恥ずかしくないよな」
「言う」の尊敬語として使う
現代ではあまり使われなくなりましたが、天皇など君主のような地位にある人が語られたことを伝えるときに「のたまう」が使われることがあります。
「王が国民に祝辞をのたまう」
「のたまわる」や「のたまわって」は誤用
「のたまう」の語尾を変化させて”のたまわる”や”のたまわって”という表現が聞かれることがありますが、これは誤用です。「のたまう」の語尾を活用させても「のたまわる」という表現はありません。
「のたまう」を活用させるなら「のたまって」となるのですが、聞き慣れていないので不思議に感じられるかもしれません。
「彼は先輩に向かって生意気なことをのたまわっていた」
「のたまう」の類語
「おっしゃる」は「言う」の尊敬語
「のたまう」の類語は、同じく”言う”という意味の尊敬語である「おっしゃる」が挙げられます。「おっしゃる」とは漢字では”仰る”と書き、相手に敬意を表するときに使います。
- 「社長が訓辞をおっしゃられる」
- 「部長がおっしゃられたことを信じたからここまでやってこれた」
「のたまう」と「おっしゃる」の違い
「言う」の尊敬語としての意味合いにおいて「のたまう」と「おっしゃる」に違いはありません。ただし、現代では「言う」の尊敬語としては「おっしゃる」を使うことが多く、「のたまう」はあまり使われないという違いがあります。
まとめ
「のたまう」とは「言う」という意味の尊敬語ですが、現代では”相手をからかったニュアンスを含めて大げさに言う”という意味で使われることが多い言葉です。「ほざく」という意味合いで使われることもありますが、この使い方には賛否両論ありますので、相手を罵る意味合いで「のたまう」を使うときには注意しましょう。