「恙」の意味とは?語源や「恙無い」のビジネスでの使い方も

「つつがない」「つつがなく〜」という言葉。漢字で表すと「恙」(つつが)ですが、この漢字は常用漢字ではないため、聞いたことはあるけどどんな意味を表しているのかわからない、という人も多いかもしれません。

今回は「恙(つつが)」の意味や「恙無い」(つつがない)の使い方について解説します。

「恙」の意味・読み方・漢字

「恙」という漢字のそもそもの意味は「ダニ・病気・災難」

「恙」の意味は、「ダニ、病気、災難」です。漢字一文字では「病気などの災難、やまい、わずらい」のことで、同時に刺されると急性伝染病に感染することもある「ツツガムシ(ケダ二)」を表します(出典:広辞苑)。もともと「つつが」とは病をあらわす古語で、英単語では「illness(病気)」が対応しています。

中国語(台湾・香港)では「別來無恙(なんでもないよ)」という具合で日常会話として使われています。意味は「うれい(憂)、やまい、病気」で、やはり「ツツガムシ(人をかむ毒虫の名)」のことも指します(出典:新漢語林)。そんな「恙(つつが)」と縁がないことが「無恙(つつがない・心配ない)」状態というわけです。

「恙」の読み方は「つつが」

羊に心と書いて「つつが」と読みます。

「恙」の漢字の成り立ち

「恙」の部首にある「羊」という字は、単なるヒツジのことではなく「痒(ヨウ/かゆ・い)」という漢字を略したものです。「痒」には「腫れ物・やまい・やむ」という意味があり、ここから「羊(痒)」に「心」で「心がやむ(憂える)」という意味が生れ、「恙なし」とい言葉が生まれました。

「恙無く」や「恙無し」の意味と使い方

「恙なく」のビジネスでの使い方場合

古典的な言い回しである「つつがなく」はどこか慎ましやかで気品を感じさせますが、あまり日常的に使われる言葉ではないために個人的な解釈が先行してしまう傾向があり、社会通念(常識)として相手と意味を共有できない可能性があります。

縁起が良くないので結婚披露宴で使うべきではない、目上の人に対して使うべきではない、謙譲語として使うべきなど人によってさまざまな見解がありますので、ビジネスシーンでは類語である「とどこおりなく」「無事に」「順調に」「円滑に」といったシンプルで意味が通りやすいフレーズを選ぶのもひとつの方法です。

「恙なく」のフォーマルなシーンでの使い方

「恙(つつが)」は、「つつがなく」という慣用句として今も残っています。一般的な結婚披露パーティーの開宴あいさつでは、司会者が「ただいま、新郎~さんと新婦~さんの挙式がつつがなく執り行われ…」と新郎新婦が晴れて夫婦になったことを出席者に報告するのが慣例です。

「恙なく」の手紙での使い方

手紙やメールによる書き言葉としての表現では、「おかげさまで、つつがなく新年を迎えることができました」「つつがなくお過ごしください」などが一般的です。前者の場合は「自分も人並みに年が越せました」という遜った印象を受け、後者からは神仏に加護を祈るような気持ちで相手の息災を願っている様子が感じられます。

「つつがなし」は、言葉本来の意味だけでなく、日本語ならではの微妙なニュアンスを含んだ表現といえるかもしれません。相手との関係性に応じて使い分けてみてください。

(豆知識)「恙」は神獣・霊獣だった?

「ツツガムシ病」は怖い病気だった

人が健康を害する病気は数々あれど、「恙」という漢字が日本にやって来るよりはるか昔の古代エジプト時代から、虫さされによる疾患は人類にとって大きな驚異でした。先述の「ツツガムシ病」は現代の日本でも風土病として警戒されている伝染病ですが、原因が特定されず対処療法しかできなかった時代には死亡率が50%にも達する恐ろしい病気でした。

病と死をもたらす見えない存在

現代のように科学も医学も発達していなかった時代、日本人は恐ろしい伝染病を妖怪「恙(つつが)」のしわざと考えており、室町時代の書物には、陰陽師(おんみょうじ)が「恙(つつが)」を退治したという表記も残っています。

肉眼では見えない妖怪は夜になると民家に忍び込み、血を吸われた者は病気になって死ぬこともあったといいますから当たらずとも遠からず。現代人が聞いたら「それ、ダニのこと?」と分かるレベルの鋭い設定です。

古代中国では獅子の姿をした妖怪

栃木県・日光東照宮にある唐門の屋根には、夜を守る霊獣として獅子のような姿をした「恙(つつが)」が安置されています。古い中国の言い伝えによれば、恙は虎や豹よりも凶暴で人を喰い殺します。

唐門には恙と対をなすようにして龍も鎮座していますが、恙だけが脚に金の足輪を嵌められているのが特徴的です。人智を超えた力で社殿を守ってほしいけど勝手に暴れないでねといったところでしょうか。

そんな恐ろしい霊獣も、日光東照宮の御祭神である徳川家康の手にかかれば簡単に飼い慣らされてしまうという意味も込められているのだそうです。

まとめ

現在では「恙(つつが)」が「病気」という意味で使われることはありませんが、医学の発達した現代を生きるわたしたちも日々を”つつがなく”過ごしたいと願う気持ちは同じです。思いやりや温かみを感じる美しい日本語として大切にしたいものです。