「個人の尊厳を尊重する」などと使われる「尊厳」という言葉。抽象的な概念であるため、その意味がとらえにくいと感じる人がいるかもしれません。この記事では、「尊厳」の意味や例文と使い方、類語を解説します。あわせて、法律で規定されている「個人の尊厳」についても紹介します。
「尊厳」の意味とは?
「尊厳」の意味は「厳かで尊いこと」
「尊厳(そんげん)」は、大きな概念の広がりを持つことから、その言葉が用いられる場面によってさまざまな意味に説明されます。一般的な意味では「厳か(おごそか)で尊いこと」という意味であると説明できます。
人に対しては「気高いさま」という意味で使われたり、「侵すことのできない権威」という意味で使われたりします。たとえば、「人間(個人)の尊厳」「法の尊厳」などといった対象とともに用いられます。
「尊厳」の使い方と例文
「人間の尊厳」とは「一人の人間の存在を尊いものとして尊重すること」
「尊厳」が用いられる対象としてよく使われるのが「人間」です。人間にとっての究極的な価値が「人間の尊厳」だといえます。
「人間の尊厳を尊重する」とは、その人が人として生き、存在していることをかけがえのないい価値として大切にすることを表す表現です。
- 人種を理由に人間が尊厳なく扱われることに抗議するデモが世界中で起こっている
- 人間個人の尊厳を守るとともに多様性の尊重が企業倫理にも求められている
「法の尊厳」とは「法の権威」の意味で使う
「法の尊厳」とは、侵すことのできない権威を法が持つことを示す表現です。たとえば、法を守る立場にある人が自ら法を破るなど、法の権威を侵すような行為を行った場合、「法の尊厳を傷つける行為だ」などと表現されます。
「尊厳死」とは「自分の意思で死を迎えること」
現在の医療技術では回復が見込めない病気にある人などが、延命治療を断り、自らの意思で死を迎えることを「尊厳死」と呼びます。
苦痛を取り除く処置を行う「安楽死」に対して、「尊厳死」はそのような処置によって患者自らの意思が尊重されず、個人の尊厳が損なわれることを避けるという意味で対比して用いられることがあります。
「尊厳死」における「尊厳」とは、侵すことのできない尊重すべき個人の権利という意味で使われています。
「尊厳」の類語とは?
「尊厳」の類語①「尊重」
「個人の尊厳」という意味で使われる「尊厳」に近い意味を持つ言葉には「尊重(そんちょう)」があります。「尊重」とは、尊いものとして重んずることを意味します。
尊重はそのような「行為」を表す言葉ですが、「尊厳」はその対象となる概念を指す言葉であることが両者の違いです。
「尊厳」の類語②「威厳」
「威厳(いげん)」とは、堂々として厳かな様子を表す言葉です。人以外にも、建物や芸術作品などに対しても用いられます。「威厳のある人物」「威厳のある作品」などと、堂々とした気高さを感じる対象を表現する言葉として用います。
「尊厳」は、「威厳」のようにその対象の状態を表現する言葉というより、威厳の持つ意味である気高さも含んだ大きな概念であるといえます。
「尊厳」の類語③「品格」
「品格(ひんかく)」とは、その人や物などに気高さや立派な姿の美しさなどが備わっていることを表現する言葉です。品位の高さを総合的に判断して用いられる抽象的な表現ですが、厳かで尊いことという意味の「尊厳」に共通する意味合いも含まれます。
「品格のある言葉」「品格のない行為」などと、対象が持つ特性を示す言葉として用いられます。それに対して「尊厳」は、品格の意味を含めた倫理的な概念であることが両者の違いです。
法律や世界宣言に明記される「個人の尊厳」とは
日本国憲法をはじめとして、様々な法律のなかで「個人の尊厳」がうたわれています。法で用いられる「尊厳」の意味を理解するために、いくつかを紹介します。
日本国憲法における「個人の尊厳」
日本国憲法の三大原理は「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」です。「基本的人権の尊重」を規定するのは第3章であり、その中の13条では、個人の尊厳がうたわれています。
国民一人一人が独立した個人として尊重され、幸福を追及する権利もまた尊重されるという一文であり、個人の尊厳をうたったものです。
日本国憲法第13条
「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、律法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」
「障害者基本法」への追加
障害者基本法は昭和45年に制定された法律で、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関して基本的理念等を定めたものです。平成16年に行われた改正の際には、すべての障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有するという一文が追加されました。
障害者基本法第3条第1項
「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提とし(後略)」
「社会福祉法」への明記
社会福祉について規定している法律である「社会福祉法」の第1章総則の第3条「福祉サービスの基本的理念」において、個人の尊厳の保持が明記されています。
第1章総則第3条
福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用
者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むこ
とができるように支援するものとしてて、良質かつ適切なものでなければならない。
国連「世界人権宣言」前文
1948年に採択された、国連の「世界人権宣言」前文は、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」との一文から始まり、第1条にもすべての人間の尊厳がうたわれています。
世界人権宣言第1条
すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
まとめ
「尊厳」とは、厳かで尊いことという普遍的な概念を表す言葉です。特に「個人(人間)の尊厳」という使い方が多くなされ、一人の人間の存在を尊いものとして尊重することという意味で用いられます。
個人の尊厳とは、人間の存在そのもの、英語で言うところの「being」を尊重するものであり、国連の世界人権宣言においては、個人の尊厳は世界平和の基礎であると明記されています。
「尊厳」は世界平和という大きな枠組みで規定されるとともに、身近な人との関係においても尊重すべき概念だといえるでしょう。