「狡兎死して走狗烹らる」の意味は?韓信の原文と類語・例も紹介

「狡兎死して走狗烹らる」という故事成語は、中国の武将・韓信が『史記』に残した言葉として有名です。現在ではビジネスシーンでも、会社や取引先に理不尽に裏切られた時などに使われますが、正しい意味を知っていますか?

ここでは「狡兎死して走狗烹らる」の意味や使い方の例、類語をご紹介します。

「狡兎死して走狗烹らる」の意味とは?

意味は「状況が変わり重宝されていた人が不要となる」

「狡兎死して走狗烹らる(こうとししてそうくにらる)」とは、状況が変わることで、今まで大切にしていた部下や手柄のあった者が要らなくなることを意味します。いくら出来がよく能力が高くても、その対象となるものや、実力が発揮できる場所や環境がなければ、価値がないとみなされることを指しています。

「狡兎」と「走狗」の関係と意味に注目

「狡兎(こうと)」とは、すばしっこく逃げ足の速い兎のこと、また「走狗(そうと)」は、優秀な猟犬という意味があります。つまり、兎が死んでしまえば、猟犬は邪魔者扱いとなり煮て殺されてしまうため、この時「足の速い兎と優秀な猟犬」には、ある種の相対関係が存在すると言えます。

「狡兎死して走狗烹らる」を理解するには、言葉が示す状況を思い浮かべてみるとよいでしょう。確かに、優秀な猟犬がいても、獲物がいなければ何の役にも立ちません。この時、その能力や実力が発揮できる対象物や適切な土俵がなければ、何の意味もない「用なし」となってしまいます。その状況を「足の速い兎と優秀な猟犬」で表したのが「狡兎死して走狗烹らる」です。

「狡兎死して走狗烹らる」の語源・原文は?

中国の戦国武将・韓信が残した言葉

「狡兎死して走狗烹らる」の語源は「史記・越王勾践世家」の中にある「狡兎死良狗亨(原文)」という部分となります。中国で絶大な力を持っていた戦国武将「韓信」は、戦いの場面で敵国が滅亡すれば、たとえ自軍で活躍をしていた功臣でも必要なくなる」という意味の言葉を残しています。

「韓信」は戦においては、恐れを知らぬ勇者が必要であると考えていました。しかし、一旦敵が滅びてしまえば、その勇者たるものも価値がなくなり、あっさりと切り捨てられることを悟ったのです。

「狡兎死して走狗烹らる」の使い方と例文

職場ではリストラや転勤を皮肉って使われる

「狡兎死して走狗烹らる」は故事成語であるせいか、言葉の響きが堅苦しく、普段の生活では使いにくいと感じることもあるでしょう。しかし、ビジネス環境では思いのほか活用できる場面もあります。

たとえば、急成長を遂げる企業やライバルの多い企業では、能力の高い人材や優秀な部下に重要なポジションや業務を任せることもあります。つまり、企業は市場で何とか続けていくために「あなたの力が必要」「重要な存在である」と褒めながら、それはそれは大事にしてくれることでしょう。

しかし、一旦勝ちの軌道に乗り安定すると「技術は得たから必要ない」「給料が高すぎる」などと言って、いかにも簡単にリストラや転勤を命じることもあります。このような状況を皮肉って「狡兎死して走狗烹らる」を使うことがあります。

「狡兎死して走狗烹らる」を使った例文

  • 野球部の監督はチームを5年連続で優勝に導いた。狡兎死して走狗烹らるではないが、学校側は念願の優勝旗を手にしたので、監督の契約を今年で打ち切る予定だ。
  • 狡兎死して走狗烹らるというように、開発部長として活躍したAさんは、企業が特許を取得した後、転勤させられ、結局は退職することになった。

「狡兎死して走狗烹らる」の類語は?

「飛鳥尽きて良弓蔵る」は語源も意味も同じ

「飛鳥尽きて良弓蔵る(ひちょうつきてりょうきゅうかくる)」は、語源も意味も「狡兎死して走狗烹らる」と同じ故事成語です。

「史記・越王勾践世家」の中でも、捕獲するべき鳥がいなくなれば、良い弓も必要なくなって捨てられてしまう、つまり「優秀でも対象や活躍する場がなくなれば、闇に葬られる」というようなニュアンスで使われています。

例文

  • 飛鳥尽きて良弓蔵るというように、立派な料理教室でも生徒が止めてしまえば、優秀な腕を持つ料理人も先生としては必要なくなる。
  • 優秀なアーティストがいても、メディアに注目されなければ売れることはない。飛鳥尽きて良弓蔵るではないが、活躍の場がなければ、才能も埋もれてしまうものだ。

まとめ

「狡兎死して走狗烹らる(こうとししてそうくにらる)」とは、中国の戦国武将・韓信が残した言葉で「足の速い兎が死んでしまえば、優秀な猟犬も煮て殺されてしまう」という意味の故事成語です。一般的には「対象となるものや活躍の場がなければ、いくら優秀でも不必要とみなされる」という意味で使われています。

ある一定の期間は重宝されても、いざ能力が発揮できる場がなくなってしまえば「用なし」となるとはあまりにも酷かもしれません。しかし、新たに活躍の場を求めて、別の土俵で実力を発揮することはできるはずです。ぜひ能力のある人は「狡兎死して走狗烹らる」とならないように周囲にアンテナをはっておきましょう。