「罪を憎んで人を憎まず」の意味とは?孔子や聖書との関係も解説

「罪を憎んで人を憎まず」は誰もが耳にしたことがあるよく知られたことわざです。時代劇における情状酌量の裁きを行う際のセリフや、アニメのセリフなどとしても有名になりました。

この記事では「罪を憎んで人を憎まず」の意味や由来・語源を紹介します。あわせて使い方・例文と英語表現も紹介しています。

「罪を憎んで人を憎まず」の意味とは?

「罪を犯したその人まで憎んではならない」という意味の教え

「罪を憎んで人を憎まず」とは、罪を犯した人がいたとき、その罪は憎んだとしても、その人が罪を犯すに至るまでの事情をかんがみて、罪を犯した人そのものまでは憎んではならないとする格言です。

罪を犯した人、あるいは倫理・道徳に背く行為をした人などに対して、行った行為は許されるものではないが、あなた自身を裁くことはしません、といった寛容な態度を表現する際に用いられます。

「罪を憎んで人を憎まず」の使い方と例文

座右の銘とする人も多い「罪を憎んで人を憎まず」

「罪を憎んで人を憎まず」は、座右の銘とする人も多いことわざです。自分のことを棚に上げて他人を批判してしまいがちなのが人間ですが、そのような行動を理性によって慎みたいと考える人も多いことがうかがえます。

座右の銘として掲げる際には、理想とすべき生き方や人生観というよりも、戒めの意味を持つ格言としての性格が強いといえます。

寛容的な考え方を伝える際のたとえとして使う

「私は罪を憎んで人を憎まずの精神だから、〇〇さんの過ちは許します」などのように、自分の考え方の寛容性を伝える際のたとえとして「私は罪を憎んで人を憎まず」の言葉が使われます。

世間一般の常識から逸脱した悪いとされる行為を行ったり、犯罪を犯したりした人に対して、悪い行為は許されるものではないが、その行為を行なった人に対しては寛容な態度で臨む、ということを表明します。

「罪を憎んで人を憎まず」の由来・語源とは?

「罪を憎んで人を憎まず」の由来は「孔子」の言葉

中国の思想家「孔子」の言葉として、『孔叢子』刑論に記された一文が「罪を憎んで人を憎まず」の由来・出典だとされています。原文と訳文は次の通りです。

「古之聴訟者、悪其意、不悪其人」
(昔の裁判官は、罪人の心は憎んだが、その人そのものは憎まなかった)

訴訟の取り裁きに関して昔の裁判官は、罪を犯したことについては悪いことと認めたが、その人物自体を悪とすることはしなかったということです。

『聖書』にもある「罪を憎んで人を憎まず」の教え

「罪を憎んで人を憎まず」のことわざの由来となった教えではありませんが、キリスト教の『聖書』にもイエスの逸話として「罪を憎んで人を憎まず」に相当する内容が記されています。

『聖書』におさめられた「ヨハネによる福音書」8章に該当の既述があり、イエスの考える罪と救いのポイントがよく現れています。

その内容とは、イエスに敵対していた律法学者たちが、姦淫の罪を犯した女をイエスのもとに連れてゆき、その罪をどう裁くのか迫ることから始まります。イエスはそこで次の有名な言葉を投げかけます。

「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」

女を裁けと迫っていた人々は、それを聞いて皆立ち去ったと書かれています。最後にイエスのもとに残った女に、イエスは「あなたに罪を定めない」「これからは、もう罪を犯してはならない」と言い、女を赦し、帰しました。

ここに書かれた教えとは、罪を犯したことのない人はいない、人間はだれもが罪人である、そしてイエスとともにある人は赦されるという内容です。

「罪を憎んで人を憎まず」の英語表現は?

「罪を憎んで人を憎まず」は英語で「Condemn the crime, not the person.」

「罪を憎んで人を憎まず」の英語表現はいくつかありますが、代表的なものに「Condemn the crime, not the person.」があります。「condemn」とは「非難する、責める」という意味で、「crime」は「罪、犯罪」、「person」は「人」という意味です。

他には「Condemn the offense, but not the offender.」「Condemn the sin, but not the sinner.」などとも表現されます。「offense」は「(法律・慣習上の)罪、違反」、「sin」は「(宗教・道徳上の)罪、罪悪」という意味です。そして、「offender」「sinner」とは、それぞれそれらの罪を犯した「人」という意味です。

まとめ

「罪を憎んで人を憎まず」とは、「罪を犯したその人まで憎んではならない」という意味を持つ格言的なことわざです。罪の定義ではなく、人への赦しの定義に着目した教えであることがポイントです。

近年は、SNSなどにおける個人への誹謗中傷が問題となっています。著名人などが一般的な規範から外れた行為や発言を行うと、匿名のバッシングが大量に起こる現象などが増えています。

このような、一度過ちを犯すと徹底的に糾弾されるといった、一部の世間風潮に違和感を覚える人も多いのではないでしょうか。そのような時の考え方の指針として「罪を憎んで人を憎まず」の精神が今後大きく注目されるかもしれません。