「不言実行」は日本人の美徳を表す考え方として古くからなじみのある格言です。しかし近年はその逆の「有言実行」が推奨されることも多くなってきました。「不言実行」は時代遅れの考え方なのでしょうか?
この記事では「不言実行」の意味や使い方・例文を解説。あわせて類語や対義語の「有言実行」についても紹介しています。
「不言実行」の意味とは?
「不言実行」の意味は「何も言わずにすべきことを実行すること」
「不言実行(ふげんじっこう)」とは、「何も言わずにすべきことを実行すること」という意味の四字熟語です。良いことやなすべきことは、見えないところで寡黙に行うのが美徳とされる日本特有の価値観を示す言葉です。「不言」とは、「物を言わないこと」という意味です。
意味は違いますが、表に出ずに黒子に徹して他者に貢献する「縁の下の力持ち」の精神に通ずるものがあるといえます。
「不言実行」の使い方と例文
「不言実行」はポジティブな意味として使う
「不言実行」は、なすべきことや良いことは、理屈などをあれこれと言わずに、ただ黙って確実に実行するのが良い態度であるという意味で教訓的に使われます。つまり、推奨すべきポジティブな考え方として使われる表現です。
「不言実行」に示される「なすべきこと」とは、目標達成のための行動であったり、善意の行為であったりします。逆に、影で悪事を働くような行為に対しては「不言実行」は用いません。
「不言実行」を使った例文
- 父は「不言実行」を座右の銘として、決めたことは黙々とやり抜く人だった
- 「不言実行」をモットーに、目標達成に向かってやるべきことを粛々と進めたい
- 人の知らないところで善行を行う不言実行の人は尊敬に値する
「不言実行」の類語とは?
「不言実行」の類語①「言わぬが花」
「言わぬが花」とは、物事の本質などは露骨に言うと興ざめしてしまうものであり、あえて言わないところに味や趣があるという考えを表す表現です。
「不言実行」に表現される、すべきことは黙って行うべしとする考え方の中に、「言わぬが花」の粋の精神や、余計なことは言わないのがよいという考え方が含まれているといえます。
「不言実行」の類語②「沈黙は金」
「沈黙は金(ちんもくはきん)」とは、沈黙を価値のある金にたとえたもので、何も語らずに黙っていることの大切さを説く格言です。
本来は「沈黙は金、雄弁は銀」というイギリスの格言を語源とするもので、「何も語らないことは、すぐれた雄弁よりも大切である」という意味や、「雄弁に話すことも大事だが、黙るべきときに語らないことはもっと大切だ」という意味を持ちます。
日本においては、余計なことは言わずに黙々と行動することが美徳とされる「不言実行」の精神に共通する箇所である「沈黙は金」の言葉のみが使われる傾向があります。
「不言実行」の類語③「言わぬは言うにまさる」
言葉に出して言うよりも、何も言わずに沈黙している方が、心の中の思いが強くなる、あるいはその思いははるかに深い、という意味の、「言わぬは言うにまさる」ということわざがあります。「不言実行」の考え方の真髄を表す格言といえます。
「不言実行」の対義語とは
「不言実行」の対義語は「有言実行」
「不言実行」の反対の意味の言葉としてつくられた熟語に「有言実行(ゆうげんじっこう)」があります。スポーツ選手が、「次のオリンピックで必ず金メダルを取ります」などと公の場で宣言し、目標に向かって努力する態度が「有言実行」です。
「有言実行」は、心理学的な側面としても、周囲の人に目標を告げることで後に引けない状況に自分を追い込み、やる気を継続させるという目標達成のための手法としても知られています。
欧米の合理的な考え方が輸入されて定着したのが「有言実行」の考え方であるといえます。その観点から見ると、「不言実行」は非合理的な精神論だと感じる若い人が増えているのかもしれません。
「不言実行」の英語表現は?
「不言実行」は英語で「Actions, not words.」
「不言実行」の英語表現はいくつかありますが、代表的なものに「Actions, not words.」あるいは「Deeds, not words.」があります。「action」「deed」とは「行動、行為」という意味で、「words」とは「言葉」という意味です。
他には「action before words」「work before talk」などとも表現されます。「work」とは「仕事」という意味で、「before」は「~よりも前に」、「talk」は「話」という意味です。
「彼は不言実行の人だ」は「He is a man of actions (deeds), not of words.」と表現します。欧米でもこのように不言実行を表現する言葉があるように、状況によっては不言実行が称賛されることもあります。
まとめ
「不言実行」は、良いことは声高らかに主張せず、黙って行うのが良いとされる日本の風潮をよく表す言葉です。見えないところで静かに他者のために力を尽くす「縁の下の力持ち」が称賛されるのと同じ考え方が根底にあります。
古くから日本人の美徳ともされたそれらの精神ですが、近年は目標達成のためのメンタルの持ち方としてはその考えに変化がみられるようです。特に世界を舞台に戦うスポーツ選手や外国人と肩を並べる外資系などの職場においては、はっきりと明確な意志を言葉に出して伝え、それを確実に実行することが信頼を得ることに繋がるため、「不言実行」が受け入れられにくい状況も生まれています。