「柔よく剛を制す」は柔道の戦い方でも使われることわざですが、本来の意味とはどのようなものなのでしょうか?この記事では、「柔よく剛を制す」の意味や由来とその原文を紹介します。あわせて類語や英語表現も解説しています。
「柔よく剛を制す」の意味や由来とは?
意味は「柔軟なものでも強いものを制すことができる」
「柔よく剛を制す(じゅうよくごうをせいす)」とは、柔軟なものでも強いものを制すことができるという意味のことわざです。
柔道用語としても知られており、体の小さい人が相手の力を利用して大きい人に勝つことを指して使われます。
「柔よく剛を制す」の四字熟語と類語とは?
「柔よく剛を制す」の四字熟語は「柔能制剛」
「柔よく剛を制す」の四字熟語は「柔能制剛(じゅうのうせいごう)」と書きます。先に紹介した『三略』の一節から「柔能制剛」を取り出したものです。
柔らかいものはよく耐えるという意味の類語「柳に雪折れなし」
「柳に雪折れなし」とは、柳の枝は柔らかくよくしなるので、雪が積もっても折れたりせずよく持ちこたえるという意味です。転じて、柔らかくしなやかなものは堅いものよりもかえってよく持ちこたえるというたとえとして使われます。
柔らかいものが強いものより強いという意味で使われることもある「柔よく剛を制す」と近い意味を持ちます。
「柔よく剛を制す」の由来
「柔よく剛を制す」の由来は中国古代の兵法書
「柔よく剛を制す」の由来は中国古代の兵法書『三略(さんりゃく)』にあります。上略、中略、下略の3つで構成されていることから「三略」と称されます。
『参略』の中で、戦い方について書かれた書を紹介する形で、「柔は能く剛を制し、弱は能く強を制す」と日本語で書き下す中国語の一節が由来となっています。
なお、「柔よく」は「柔能く」と書きます。「柔良く」と書くのは誤りです。
「柔よく剛を制す」の原文とその意味
「柔よく剛を制す」の由来となった戦い方を説いた文章の原文と書き下し文、現代語訳を紹介します。
原文:
軍識曰、柔能制剛、弱能制強、柔者徳也、剛者賊也。弱者人之所助、強者人之所攻。柔有所設、剛有所施、弱者所用、強者所加。兼此四者、而制其宣。
書き下し文:
軍識ぐんしきに曰いわく、柔能よく剛を制し、弱能く強を制す、と。柔は徳なり、剛は賊なり。弱は人の助くる所、強は人の攻むる所なり。柔は設くる所有り、剛は施す所有り、弱は用うる所有り、強は加うる所有り。此この四者を兼ねて、其の宣よろしきを制す。
現代語訳:
戦法の書『軍識(ぐんしき)』にはこう書かれている。「柔は剛を制し、弱は強を制す」と。柔とは徳であり、剛とは賊である。弱は人に助けられ、強は人に攻められる。柔も設けるところがあり、剛には施すところがある。弱には用いるところがあり、強には加えるところがある。この四つのものを兼ね備え、自在に用いるのがよい。
「柔よく剛を制す」原文の意味:補足
原文からわかるように、「柔能制剛、弱能制強」の対句が由来の箇所であり、「柔和な者でも剛直な者を制することが出来る。弱い者でも強い者を制することが出来る」という意味が本来の意味です。
「弱い者こそが強い者に勝てる」といった意味で使われることもありますが、原文から離れた意味で使われていることになります。
また、原文の現代語訳をよく読んでみると、実際には「柔よく剛を制す」の説だけでなく、柔・剛・弱・強のそれぞれを兼ね備えてうまく使うのがよいと述べられています。
「柔よく剛を制す」の英語表現とは?
「柔よく剛を制す」は英語で「Soft and fair goes far.」
「柔よく剛を制す」の英語表現はいくつかありますが、代表的なものに「Soft and fair goes far.」があります。
「soft」とは「穏やかな、柔らかな」という意味で、「fair」は「公正な、公平な」という意味です。そして、「(事が)進行する、運ぶ」という意味の「go」と「ずっと先まで、大いに」という意味の「far」で「柔よく剛を制す」(穏やかかつ公正に、が目的達成に肝要)となります。
他には「Soft words win hard hearts.」「The soft can conquer the hard.」などとも表現されます。「word」とは「言葉」、「win」は「勝つ」という意味で、「hard」は「かたい」、「heart」は「心」という意味です。また、「conquer」は「打ち勝つ」という意味です。
まとめ
「柔よく剛を制す」とは、「柔軟なものでも強いものを制すことができる」という意味の、古代中国の兵法書を由来とすることわざです。
柔道においては、体の小さい人が相手の力を利用して大きい人に勝つことを指して「柔よく剛を制す」と表現します。
また、しばしば「弱い者こそが強い者に勝てる」という意味で使われることがありますが、原文から考えるとむしろ「押してだめなら引いてみな」といったような、強い力で進めるだけでなく、状況を見極めて柔軟をうまく使い分けることが大切だという意味の戦法であることがわかります。