「生活保護受給者」や生活保護申請中の「医療費」は扶助される?

最後のセーフティネットと呼ばれる生活保護。世界が不安定な今日、誰もが突然に困窮に陥る可能性があります。今回は社会保障制度の知識として生活保護を取り上げ、その中でも「医療費(医療扶助)」について解説します。

生活保護受給者が医療機関にかかった場合の医療扶助の仕組みや、生活保護申請中はどうなるのか、さらに診療の範囲についても解説しています。

「生活保護受給者」の医療費の仕組みとは?

困窮のため、最低限度の生活を維持することができない国民は、申請により生活保護制度の適用を受け、生活扶助を受けることができます。生活保護を受給している人が病気やけがなどで医療機関等を利用した場合、その医療費は別途支給されるのでしょうか?

「生活保護受給者」の医療費は「医療扶助」で負担

生活保護受給者の医療費は、原則として生活保護制度の「医療扶助」がすべてを保障します。他の公費負担を受けている人や、被用者保険の被保険者・被扶養者はそれらの制度から支給されない部分が支給されます。つまり原則として医療費の全額が給付され、本人負担はありません。

医療扶助を受けるためには被保護者がまず福祉事務所に申請を行い、支給された医療券を持って指定医療機関にて受診します。次に受診の流れを詳しく説明します。

事前に受診申請を行った上で「指定医療機関」で受診する

生活保護制度の受給者は、国民健康保険制度および75歳になると加入する後期高齢者医療制度から除外されています。これらの保険に加入している人が生活保護を受給すると、被保険者の資格がなくなり保険証を返却することになります。

医療扶助のための保険証はないため、生活保護受給者は事前に福祉事務所において受診の申請を行い、「生活保護法医療券・調剤券」を入手し、生活保護指定医療機関にて受診します。

ただし、勤務先の被用者保険や日雇健康保険に加入している人、および被用者保険の被扶養者は、生活保護を受給していても保険証を使うことができ、各制度において自己負担となる部分が医療扶助から給付されます。

なお、緊急の場合等で生活保護指定医療機関以外の医療機関を受診した場合は、本人が立替払いを行うか、それが出来ない場合には未払いとして医療機関から福祉事務所に請求が行われます。

「生活保護申請中」の医療費については相談が可能

生活保護の認定を申請中に医療機関を利用した場合はどうなるのでしょうか?

基本的には生活保護を受給している期間に医療扶助を受けることができるため、申請中は対象外となりますが、多くの場合は医療機関と福祉事務所がそのケースごとになんらかの対応を取ることが多いようです。

たとえば健康保険証のある人は窓口負担分をいったん支払い、生活保護申請が通ったのちに返金される形としたり、保険証がなく手持ちの現金も不足している場合は福祉事務所が貸付を行う場合等があります。

「生活保護の医療扶助」診療費用や範囲は?

診療費は医療保険(国民健康保険や社会保険)と同じ

指定医療機関の診療内容や診療費は、国民健康保険や社会保険(被用者が加入する健康保険)と同じです。75歳以上で後期高齢者医療の対象となる人は、後期高齢者医療制度の方針にならいます。

つまり保険診療内の診療費や手術費が医療扶助の対象です。

医療扶助を受けられる範囲

医療扶助を受けられる範囲は次の通りです。

・医療機関における診察費
・薬剤・治療材料費
・医学的処置・手術・その他の治療及び施術
・居宅における療養上の管理や療養に伴う世話と看護
・病院等への入院および療養に伴う世話と看護
・移送(通院のための移動費等)

疾病の種類や重篤度は問われない

生活保護法により、医療扶助では規定された医療費の全額を公費で負担することが定められています。疾病の種類や重篤度、病気やけがに至った理由なども問われません。

つまり、生活保護受給者であることを理由に、疾病の種類が区別されたり、病気に至った理由を問われたりすることはありません。

「保険外併用療養費」に係るものは適用されない

ただし、医療扶助では「保険外併用療養費」に係るものは原則として適用されません。保険外併用療養費とは、保険が適用されないある一定の診療について、保険診療と併用できる制度です。

具体的には高度先進医療や特別の療養環境の提供、時間外診察などがあります。

「生活保護費」における「医療扶助」の位置づけとは?

「医療扶助」は「生活扶助」とは別に支給されることを説明しましたが、生活保護には8種類の扶助があり、その人に必要な扶助が組み合わされて支給される仕組みとなっています。

最後に生活保護の扶助の種類について整理しておきましょう。

「医療扶助」は生活保護の8つの扶助のうちの一つ

生活保護法では、生活保護の基準を「要保護者の状況や必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつこれを超えないものでなければならない」と定めています。

生活保護の扶助はその性格によって8種類に区分されています。その人の状況に応じて、必要な扶助を必要な分だけ組み合わせて受けることができます。生活扶助は金銭給付となり、医療扶助や介護扶助は医療や介護サービスとして現物給付されます。

生活保護の8つの扶助
  1. 生活扶助 食費や光熱水費など、日常の暮らしに必要な費用
  2. 住宅扶助 家賃など、住むために必要な費用
  3. 教育扶助 義務教育を受ける上で必要となる費用
  4. 医療扶助 病気やケガの治療や療養のために必要な費用
  5. 介護扶助 介護保険サービス利用で必要となる費用
  6. 出産扶助 分べん等に要する費用
  7. 生業扶助 小規模な事業に必要となる費用や技能を修得するための費用
  8. 葬祭扶助 葬祭に必要な費用

まとめ

厚生労働省の資料によれば、平成29年における生活保護負担金のうち、医療扶助が占める割合は全体の約半分を占める48.6%と最も多くなっており、2番目に多い生活扶助の31.6%を上回っています。生活保護受給者のうち、65歳以上の高齢者の割合が全体の51%となっていることがその要因のひとつと考えられます。

高齢者が年金だけでは生活できず、生活保護を受けるケースが増えていることに加え、高齢化が今後も急速に進展していくことも確実であることから、生活保護の医療扶助を受給する人は増え続けることが予想されます。

生活保護費の財源は、国が3/4、地方自治体が1/4を負担しています。つまり国民の税金が支えている生活保護費ですが、持続可能な制度として存続させるためには多くの課題が山積しているといえます。