「生活保護」における「世帯分離」の意味と目的とは?事例も紹介

生活保護は世帯単位で行われますが、その世帯についての判断基準は生活保護独自のものです。特別な事情がある場合は世帯分離を行い、生活保護受給の要件が考慮される場合があります。

生活保護における世帯分離の意味は、住民票の世帯を分ける世帯分離とは異なるため、整理が必要です。この記事では、生活保護における世帯分離の意味と目的について解説します。

「生活保護」における「世帯分離」の意味とは?

生活保護の世帯とは「世帯認定」された世帯

生活保護における「世帯」とは、生活保護が適用できるかどうか、また適用できる場合はどのような扶助がいくら必要かを判断するために行われる「世帯認定」で認定された世帯のことを指します。

世帯認定とは、「同一の住居に居住し、生計を一にしている者は、原則として、同一世帯員として認定すること」および「居住を一にしていない場合であっても、同一世帯として認定することが適当であるときは、同様とすること」と生活保護法で定めた基準にのっとり福祉事務所が行うものです。

簡単に言えば、同じ家に住み、共同の生活費で生活している人が「同じ世帯」と認定されるということです。加えて、同じ家に住んでいなくとも、生計を一にしている場合は同じ世帯とされます。つまり、生活保護が適用されるかどうかで重要な点は、共同の生活費で生活している人を同じ世帯として考えるという原則です。

生活保護における「世帯」とは、「住民票の世帯」とは異なる概念であり、生活の実態から判断される性格のものです。

生活保護における「世帯分離」とは「世帯認定」から外れること

生活保護において「世帯分離」の言葉が使われるときは、「世帯認定」から外れることを意味します。つまり、実態としての生計が分かれることを意味します。

「生活保護における世帯分離」は「住民票を分ける世帯分離」とは異なる

生活保護は世帯単位が基本となり、同じ世帯の人の全員の総収入をもっても最低限度の生活を維持できない場合に世帯ごとに生活保護費が給付されます。

そこで、同じ世帯の一人が高齢や病気などなんらかの事情により勤労収入が得られなくなり、残りの世帯の人の収入でその人を支えると、生活保護を受けなければならない世帯となるなどの事情が発生したとき、その一人を「世帯分離」して生活保護を受けさせることができないかと考える人は多いようです。

そのような考えを生む根拠として、親の介護保険料などを節約するために、同じ住民票の世帯であっても親を自分の住民票から外す「世帯分離」の仕組みが念頭にあると考えられます。

しかし、生活保護の「世帯分離」と、社会保険料を節約するために住民票の世帯を分ける「世帯分離」とは、概念が異なります。

「生活保護」における「世帯分離」の目的とは?

生活保護において、世帯分離はどのようなときに行われるのでしょうか?その目的は主に2つあります。「世帯分離を行わなければその世帯が要保護世帯となるとき」と、「被保護世帯員の一人が大学に進学するとき」です。

「世帯分離」を行わなければその世帯が「要保護世帯」となるときに行われる

生活保護を受けていない世帯の一員の一人について、世帯分離を行なわなければ、その世帯が要保護世帯となる場合に世帯分離が行われます。

たとえば同じ世帯の父親が老人ホームに入所することになり、その費用を負担するとその世帯が要保護世帯となる場合、父親の世帯分離(世帯認定から外す)を行って父親のみが生活保護を受けるという選択肢があります。

「被保護世帯」に行われる世帯分離の目的は「大学進学」

生活保護受給者が生活保護費を用いて大学に進学することは原則として認められていません。そのため、生活保護を受けている世帯の子どもが大学に進学する場合は、子どもだけを被保護世帯から外す「世帯分離」を行います。

子どもは被保護世帯から外れるため、大学にかかる費用や生活費は自分でアルバイトをするなどして用意する必要があります。しかし両親と同居することはでき、住宅扶助はそのまま据え置かれて支給されます。また、進学の際の新生活準備金として一時給付が受けられます。

この措置の目的は、生活保護の受給が認められない大学生のいる世帯が保護を受けられないことを救済するため、同居であっても大学生を世帯から外して他の世帯員を保護することにあります。

なお、高等学校や高等専門学校等への進学は自立支援の観点から認められており、就学に関する費用については、「生業扶助」として生活保護費が支給されます。

同居する「夫婦・子供・兄弟」の世帯分離はできるのか?

事情により世帯分離することがある

同居しており、生計を共にする夫婦や子供、兄弟であってもその事情により世帯分離を行う場合があります。

たとえば、同居する夫婦のうち夫が働く能力があるにもかかわらず、収入を得るための努力をしなければ生活保護の要件を欠き、その世帯は困窮していても保護を受けることはできません。しかしその結果、夫婦ともに困窮する場合には、世帯分離を行って妻を保護することがあります。

「世帯分離手続き」は福祉事務所が判断して行う

先に説明したような特別措置は、あくまでも事例ごとに福祉事務所が判断します。その目的は、世帯ごとの保護という前提に沿うと、かえって生活保護の目的から逸れてしまい、必要な保護が行えない事態を回避するための手段です。そのため、被保護者がなんらかの手続きを行うものではありません。

まとめ

生活保護は世帯単位が基本です。その世帯とは、同じ住民票に登録された世帯という意味ではなく、実態として生計を同じくする者を同一世帯として考えます。同じ世帯と認定されると、世帯員の全員について、働ける能力があればそれをまず活用することが要件となります。

被保護世帯員の一人が、義務教育を修了して働くことができる年齢に達したときは、働く能力がある人は原則として就労し、世帯を支えることが求められます。(※高校生は働かなくてもよいとされています)

しかし大学へ進学する場合は、同じ世帯で暮らしていても特例として世帯分離を行い、他の家族の保護を継続します。当の大学生は世帯分離によって生活扶助が受けられなくなるため、奨学金を利用したりアルバイトをするなどして資金を工面しなければなりません。

生活保護世帯の子どもの大学への進学率が低いことが問題とされ、2018年には生活保護法が改正され、世帯分離している大学生にも住宅扶助が支給されることになりました。

このように、生活保護における世帯分離とは、世帯単位で保護を行う原則を貫くと、かえって生活保護の目的から外れてしまう結果となる場合に、特別に行われる措置です。