「一所懸命」という四字熟語は、現代では派生した類語「一生懸命」が一般的に使われるため、見たり聞いたりする機会が減ってきました。しかし、由来を考えると全く同じ意味だとは言えません。「一所懸命」と「一生懸命」の意味の違いや、使い方をご紹介します。
「一所懸命」の意味とは?
「一所懸命」の意味は”全力で物事に打ち込むこと”
「一所懸命」の意味は、“全力で物事に打ち込むこと”です。「命をかけて領地を守ること」という意味もありますが、現在ではほとんど使われません。読み方は「いっしょけんめい」になります。
後ほど紹介する「一生懸命」と混同して”いっしょうけんめい”と読むと勘違いしている人もいるかもしれません。意味はほぼ同じでも読み方は違いますので、区別して覚えておきましょう。
「一所懸命」の由来は鎌倉時代に領地を守る様子
「一所懸命」の由来は鎌倉時代の武士と言われています。武士が主君から授かった一ヶ所の領地(一所)を命がけで守ることが言葉の始まりです。
次第に領地の意味合いが消えて、どんな物事にも使えるようになりました。その後、江戸時代頃に「一所」が「一生」と混同され「一生懸命」が派生したようです。読み方は「いっしょうけんめい」です。
「一所懸命」と「一生懸命」の違いとは?
「一所懸命」から派生した類語が”一生懸命”
先ほど説明した通り「一生懸命」は”一所懸命”から派生した言葉です。「全力で物事に打ち込む」という意味は共通ですが、派生した時期から考えて、「一生懸命」には”命をかけて領地を守る”という意味は持ちません。
ここでは「一生」は”生きている間に二度とないようなこと・人生にかかわる重大なこと”という意味で使われています。
現代では「一生懸命」が一般的に使われる
「一所懸命」から派生した「一生懸命」は、長らく誤用だとされてきました。しかし、現在では誤用とはされず、むしろ「一生懸命」を一般的に用いることになっています。理由は「一生の方が、現在使われる意味が伝わりやすいため・一生懸命の使用者が多く、定着しているため」です。辞書でも「一生懸命」をメインに扱うものが多くあります。
ただし「『一生懸命は誤用』と学生時代に習ったため現状に違和感を覚える」という人もいます。相手の印象が心配な場合は別の言葉に言い換えるのもひとつの方法です。
意図がない場合は「一生懸命」を使う
「一所懸命」は”全力で物事に打ち込む”場面に使用します。ただし、先ほどお伝えした通り、現在では「一所懸命」は”一生懸命”に統一するのが一般的です。そのため、意味を使い分けたいなどの意図がある場合を除き「一生懸命」を使用します。
教科書や新聞、ニュース番組でも基本的に「一生懸命」を使用しています。ただし、外部からの寄稿や、文学作品などは原文通り「一所懸命」を使用することもあるようです。
「一所懸命」の使い方と例文とは?
「一所懸命」は”ひとつのものを全力で守る”ために使用する
「一所懸命」を使うのは「一生懸命」では表現できないニュアンスがあるときです。由来から考えると自分の土地を守ることに使う言葉ですが、少し意味を広げて「大切なひとつのものを全力で守る」ための行動に使用するのが良いでしょう。
例えば、歌舞伎の世界では挨拶の言葉に”一門の者達とともに、一所懸命に精進いたします”のように「一所懸命」を使うことがあります。単に伝統的な言葉を選んでいるのではなく、代々伝わる屋号を受け継ぎ守っていくという意気込みを表現していると推測できます。
「一所懸命」から”一生懸命”への修正は慎重に行う
他の人の文章や発言に「一所懸命」があった場合、「一生懸命」に修正するべきかは慎重に判断する必要があります。意図があって使い分けている可能性があるためです。可能ならば本人に意図を確認しましょう。
文章を掲載する場所によっても対応は変わってくるでしょう。例えば、若い人向けのWebサイトや雑誌の場合は「一所懸命」だと誤用だと受け取られることもあり得ます。「一生懸命」に直さない場合は、注釈を付け加える方が良いかもしれません。
「一所懸命」の例文
「一所懸命」の例文をご紹介しましょう。
- 「一所懸命」のままの方が良い可能性がある例
最近はすっかり赤字だが、ご先祖様から受け継いだ店だ。一所懸命守っていこう。
町の人たちが早く元の生活に戻れるよう、一所懸命に復興作業を進める。
- 「一生懸命」に直した方が分かりやすい例
算数のテストに備えて、息子は一所懸命勉強している。
書類審査を合格できるように履歴書を一所懸命作成した。
片思いの相手に好かれるために、一所懸命おしゃれした。
「一所懸命」の類語とは?
「一所懸命」の類語は”一心不乱”や”ひたむき”
「一生懸命」以外では、“一心不乱(いっしんふらん)”と“ひたむき”も「一所懸命」の類語です。どちらも「ひとつの物事に集中して取り組む様子」を表します。「一所懸命」が使いづらい場面で、言い換えに使える言葉です。
まとめ
「一所懸命」は”全力で物事に打ち込むこと”という意味です。派生した「一生懸命」は誤用だとされる時代もありましたが、現在では誤用とされず「一生懸命」の方が一般的に使われています。
将来「一所懸命」は古語として扱われるかもしれません。しかし「一所懸命」でしか表現できないニュアンスもありますので、意味を把握しておきましょう。
→一心不乱に取り組む。
→彼はいつもひたむきな人だ。