「ヘゲモニー」の意味とは?イニシアチブとの違いや使い方の例文も

普段の生活ではあまり見聞きしない「ヘゲモニー」という言葉。日本では歴史本や政治関連の雑誌などで見かける、専門的な表現の一つで一般的に「覇権」という概念で浸透していますが、「イニシアチブ」とはどう異なるのでしょうか?

ここでは「ヘゲモニー」の意味や使い方の例文などをわかりやすくご紹介します。

「ヘゲモニー」とは?

「ヘゲモニー」の意味は「覇権」のこと

「ヘゲモニー(hegemony)」の意味は、“覇権(はけん)”のことです。「覇権」は特定の集団や人物が、長い期間にわたり確固たる地位や権力を持つことを意味します。わかりやすく言うと「支配権」や「優位のある指導的なポジション」の事です。

つまり「ヘゲモニー」とは、優位なポジションを掌握した覇者が、オーソリティや実権力を行使しリーダーシップをとること、そして、主に国や地域、政党などを支配し統治することを指しています。

また「ヘゲモニー」は、ある国が他国を権勢し圧倒する勢力を持つことも意味します。とくに軍事力においては、世界における国家の地位や、他国に与える影響力の偉大さを表す言葉でもあります。

「ヘゲモニー」は強制的な支配ではない

「ヘゲモニー」の特徴として、支配者と劣位者の間に「強制的」な関係がないという事が挙げられます。「ヘゲモニー」とは政治や文化において、双方の間で合意や協調を得ているのが特徴です。

たとえ、双方の間に「支配者」や「被支配者」という上下関係があっても、利益や特権を供与することで、安定した支配を維持しているのが「ヘゲモニー」です。

つまり「ヘゲモニー」とは強制的な行動や武力行使、また権力を手玉に取って圧力をかけるような背景を持ちません。あくまで双方の「優越」を活用し、お互いが良好的な関係であるのが「ヘゲモニー」のあり方となります。

「ヘゲモニー」は伊グラムシの提唱した概念

もともと「ヘゲモニー」は、イタリア出身のマルクス主義者である革命家「アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci)」が提唱した言葉です。

グラムシは1920年代にイタリア共産党の創設に関わり、戦後の構造改革を唱えた偉大なインフルエンサーでもあります。国家・文化論などへの強い意見を持ち、西欧マルクス主義における源泉となったもグラムシです。

「ヘゲモニー」と「イニシアチブ」の違いとは?

「イニシアチブ」とは”主導権のこと”

「ヘゲモニー」と意味を混同しやすいカタカナ語に「イニシアチブ(initiative)」があります。「イニシアチブ」も”指導権”や”主導権”と言った意味がありますが、「ヘゲモニー」とは若干ながらニュアンスが異なります。

もともと「イニシアチブ」は”自発力”や”先制”という意味があり、自分から進んで何かをすること、転じて「主導性を持つ行動」というニュアンスで使われます。

「ヘゲモニー」は、国家や政治における”確固たる優位性”や”指導権”を意味しますが、イニシアチブは「第一歩」や「自ら進んで何かをする」という意味を持つ言葉となります。

「イニシアチブ」は一般的な指導権に対して使われる

たとえば、企業や団体では「自分が先導して物事を始める、すすめる」という意味で「イニシアチブをとる」という表現を使います。この時「ヘゲモニーをとる」という表現は使いません。

「ヘゲモニー」と「イニシアチブ」の意味の違いを理解する時は、恋人同士、仲間同士、家族、スポーツチーム、企業など、広く一般的に使われるのがイニシアチブ、一方、国家や軍事など専門的に使われるのが「ヘゲモニー」と解釈しておきましょう。

「ヘゲモニー」の使い方と例文とは?

「ヘゲモニー」は専門用語であること意識する

「ヘゲモニー」は、会社や家族など一般的な環境で使われる言葉ではありません。主に国家や政治、文化などの領域での「優位性」や「主導権」を意味するため、文化や経済、社会や哲学的な領域で専門的に使われる言葉であることを理解しておくことが大切です。

よく使われる言い回し「ヘゲモニー主義」「文化ヘゲモニー」

学術的な書物や経済ニュースなどをはじめ、「ヘゲモニー」を使った言い回しで見聞きするのが「ヘゲモニー主義」や「文化ヘゲモニー」です。実際、この二つの言い回しは、ほぼ同じ意味で使われています。

たとえば、「ヘゲモニー主義」や「文化ヘゲモニー」を基軸とする国家は、支配者階級が武力によるものではなく、国民との合意や同意のもと、純粋なリーダーシップによって成り立っています。

そして、国民がこのような支配的状況を「常識・当たり前の現実」と受け止める風潮や概念こそが、「ヘゲモニー主義」であり「文化ヘゲモニー」となります。その他「ヘゲモニー国家・ヘゲモニー闘争・テクノヘゲモニー」などもよく使われます。あわせて覚えておきましょう。

「ヘゲモニー」を使った例文

「ヘゲモニー」を使った例文をご紹介しましょう。

  • 戦争でヘゲモニーを争うのは間違いである。
  • アメリカやドイツなど、世界にはヘゲモニー国家がいくつか存在すると言われている。
  • テクノロジーにおけるヘゲモニーを考えると、日本の立ち位置はかなり優位だ。
  • 政治でのヘゲモニーを覆すには、相当の時間がかかるだろう。

まとめ

「ヘゲモニー(hegemony)」とは、日本では一般的に「覇権」として知られ、ある集団や人が長期にわたり絶対的に優位な立場や地位にあり、指導や指揮、支配をすることを意味します。

「ヘゲモニー」は主に国家や政治のフィールドで使われることが多く、企業や一般的な関係においては、主導権という意味を持つ「イニシアチブ」を用います。また「ヘゲモニー」は人々の合意や同意に基づく支配権を表すため、決して強制的な行為や武力行使ではないのが特徴であることも、理解しておきましょう。