「忸怩たる」の意味とは?正しい使い方やよくある誤用(例文つき)

政治家の会見などで聞くことがある「忸怩たる」という言葉。恥じ入る気持ちを表す言葉なのですが、間違った意味で解釈している人も多いようです。取引先に謝罪しなければならない時などに正しく使用できるよう、誤用例も含めて解説します。

「忸怩たる」の語源と意味は?

「忸怩たる」の意味は「恥ずかしい気持ちが沸き起こること」

「忸怩たる」の意味は、「恥ずかしい気持ちが沸き起こること」です。読み方は「じくじたる」です。「忸怩たる思い」のように用いられ、一般的な会話の中でというより、スピーチや公の改まった席で、反省や謝罪の意味も含めて使用されます。

「忸」も「怩」も恥じて顔が赤くなるという意味

【忸】も【怩】も恥じて顔が赤くなるという意味を示す感じで、「忸怩」は「すっかり恥じ入る」という意味を示す漢語的な表現です。恥じるという意味を2つも重ねている言葉で、たいへん恥ずかしい様子を重みのある言葉で表現したい時に用いられる言葉です。

明治・大正時代に表された森鴎外の小説においては、登場人物の口語として「忸怩たる思いであった」との表現もありますが、現代においてはいささか古く難しい表現となっています。そのため、恥じ入っていることについての言葉に重みを持たせたい現代のビジネス場面において、便利に使われている言葉といえます。

「忸怩たる思い」の正しい使い方

「忸怩たる思い」が使われる場面

上述したように謝罪の意味や反省しているという気持ちを含んで用いられることがあるため、政治家が不祥事を起こした時のコメントや、大企業の社長の謝罪会見などで使われることが多いです。

ビジネスシーンにおいては、当社に何らかの不手際があり、取引先に謝罪する場面などで、「このような事態となり大変恥ずかしく反省している。」という気持ちを丁寧に表したい時などに用いられます。

いずれにしても個人的な出来事についての恥ずかしい思いというより、組織や公の事柄における何らかの深刻な事態について、深く恥じ入っている様子を表します。

「忸怩たる思い」の使用文例

ビジネス上で大きな失敗を引き起こしてしまった時など、迷惑をかけた取引先に対して心から恥ずかしく反省しております、という気持ちを表す時や、会社内部での不始末の報告書などにおいて、恥じ入る気持ちを上席者に伝える時に、次のような表現を用います。

  • 「内心忸怩たる思いがございます」
  • 「忸怩たる思いでございます」
  • 「忸怩たる思いにかられております」
  • 「忸怩たる思いを抱いております」
  • 「内心忸怩たる思いでいっぱいです」

よくある「忸怩たる」の誤用例

日常の会話で自分が用いることが無い言葉のため、聞いた時のイメージによって意味を取り違えてしまう例があります。誤用の例を挙げて解説します。

「忸怩たる」は「悔しい」という意味ではない

政治家が悔しそうな顔で「忸怩たる思いであります」などと言う場面が印象に残るからか、「忸怩たる思い」の意味を「悔しい」、あるいは「思う通りにならない」という意味だと思っている人も多いようです。

「忸怩たる」に「悔しい」という意味は無いので、イメージでなんとなく用いることは避けましょう。

「忸怩たる」はイライラするという意味でもない

「じくじ」という言葉の響きが「うじうじする」「ぐずぐずする」などの言葉の響きに似ているため、イライラと思い悩む様子を連想させるからか、そのような意味で用いる人も見受けられます。

ぐずぐずするという意味の熟語は「難渋」(なんじゅう)となるので、注意が必要です。

曖昧な表現はトラブルのもと

例を挙げて説明します。「昨年度の業績目標達成がならず、忸怩たる思いです」と書くとした場合、達成できなかったことが恥ずかしく反省している、という意味で用いられていれば正しいのですが、思い通りに達成できなかったことに納得できない、という意味であれば誤りとなります。ビジネスの場では些細なことからトラブルに発展することがありますので、正しい表現を心がけましょう。

「忸怩たる」の類語と英語

「忸怩たる」の類語は「慙愧に堪えない」「汗顔の至り」

「忸怩たる」の意味である「恥と思い悔いること」の類語には次のようなものがあります。状況に応じて適切な言葉を用いられるよう、類語も確認しておきましょう。

・慙愧に堪えない、慙愧の想い
⇒自分の言動を反省して恥ずかしく思う気持ちを表します。

・自責の念にかられる
⇒後悔して自分を責める気持ちを表します。

・汗顔の至り
⇒たいへん恥じ入る気持ちを表します。

「忸怩たる」の英語表現は「ashamed」

「忸怩」の意味である「恥と思い悔いること」という英語表現は無いため、「恥じている」、「恥ずかしい」を表す形容詞としての表現は「ashamed」になります。

…とは忸怩たる思いだ ⇒ …したことを恥じている
⇒ I am ashamed that …

「深く恥じている」ことを表現したい場合は「deeply」を付けます。
⇒I am deeply ashamed that …

まとめ

「忸怩たる」は「深く恥じ入る思い」をビジネスなどの公的な場面で表す際に用いる言葉でした。謝罪の際に出番となることが多いため、使用しないに越したことはない言葉ではありますが、だからこそ、ここぞという場面で間違わないよう、正しく理解しておきましょう。