「お申し付けください」は正しい敬語?目上への使い方と例文

「お申し付けください」という敬語表現に違和感を覚える人も多いかもしれません。その理由の1つは「申す」が謙譲語であるため。「お申し付けください」は敬語として間違っている?ほかの言い方は?と思ったときにチェックしたいポイントをまとめました。

「お申し付けください」の意味とは?

原型の「申し付ける」は「言い渡す」の意味

「申しつける」とは、立場の上の者が下の者に言いわたすこと。「申し付け」とは「いいつけ」のことで、「申し付け」に「お~ください」を付けて敬語表現としたのが「お申し付けください」です。

「お申し付けください」は「言いつけてください」という意味

本来の意味からすれば「命令を与えてください」となりますが、身分制度が廃止された現代ではもちろんそのような意味はありません。あくまでもマナーやサービスの一環として「希望があれば言ってください・遠慮なく依頼してください・すぐに対応できます」といったニュアンスで使用されます。

「お申し付けください」は尊敬語?謙譲語?

「敬語」は5つのタイプに分かれる

敬語といえば、かつては「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3つでしたが、文化審議会が2007年に公開した「敬語の指針」によれば、敬語には「尊敬語・謙譲語1・謙譲語2(丁重語)・丁寧語・美化語」の5種類があります。

「お申し付けください」の「申す」は「謙譲語2(丁重語)」

ふたつの謙譲語のうち「謙譲語1」は相手を立てる表現で、「謙譲語2(丁重語)」は自分自身のことを相手に対して丁重に述べるときに使います。「申す」は通常なら後者に属します。

「お申し付けください」は誤用ではない

相手への丁重な気持ちを表現する用法として定着している「お申し付けください」の場合、「申す」には「謙譲」の意味はなく、例外で、相手に対して「申す」を使うことは誤用ではないとされています。そのため、「お申し付けください」は「謙譲語」では”なく”使用しても問題ないと解釈されています。

「お申し付けください」に似た例外

「お申し付けください」に似た例として、「ご持参ください・お申込みください」などがあります。「持参(持って参る)」は「持っていく・持って来る」で「謙譲語2」ですが、「お申し付けください」と同様で現在は慣用句として定着しています。

ずいぶん面倒だと思われるかも知れませんが、専門家の中には敬語をキッチリ説明するには5種類どころか11種の分類が必要と主張する人もいるほどで、それほど難解なのが日本語の敬語だということです。

「お申し付けください」の類語・言い換え

「仰せ付けください」でかしこまった言い方に

「お申し付けください」という用法が間違いではないと分かっても、何となく気持ち悪いと感じる人は少なくないようで、前述の「敬語の指針」も対処法として他の表現に言い換えることをすすめています。もっともニュアンスが近い表現は「仰せ付け(おおせつけ)ください」ですが、やや大げさで、少し古い印象を与えてしまうかもしれません。

「お問い合わせください」で丁寧に表現

民主主義の現代にあって、一部のサービス業を除くビジネスシーンで必要以上に遜ることは相手に卑屈な印象を与えかねず、誤解を招く要因になるなどあまりプラスになりません。

「いつでも遠慮なく連絡してきてください」と伝えたい場合には、率直に「お気軽にご連絡ください」「お問い合わせくださいませ」「お知らせください」のように言い換えることができます。

「ご用命ください」はシーンに合わせて

「用命」は、「お申し付けください」と同じく「用事を言いつける・命じる」という意味で、「当社の製品を使ってください・注文してください」というアピールを表します。

「お申し付けください」の英語表現と言い換え

英語の「お申し付けください」は、オープンマインドの表現です。「I am always at your service.(ご用の際は遠慮なくお申し付けください)」などがあり、似たような表現で「Please do not hesitate to contact me should you have any queries.(ご不明な点は遠慮なくおたずねください)」などの慣用句も使えます。

「お申し付けください」の使い方と例文

「お申し付けください」は社内の上司に使える?

文化庁の世論調査によれば、20代女性や30代男性の間で「敬語に自信がない」という人が増えています。敬語の中でも特に難しいと感じるのは「ウチ・ソト」の使い分けでしょう。「ソト」は「ウチ」よりも上位で、「お申し付けください」はより上位の人に対して使う表現です。

具体的には「顧客・上司・自分」の場面では顧客が「ソト」ですが、「上司・自分・自分の家族」では上司が「ソト」です。自分の上司に向かって「お申し付けください」を使うことは間違いではありませんが、社外の人が多い場面では同じシチュエーションでも「仰ってください」が自然です。

「お申し付けください」をお客様や目上の人に使う場合

顧客や目上の方に対して使う場合は、「何なりとお申し付けください。/お気軽にお申し付けください。/遠慮なさらずにお申し付けください。/いつでもお申し付けください。/ぜひ私どもにお申し付けください。」などの言い方ができます。

まとめ

「敬語の指針」でも示されているように、言葉の意味・用法は時代とともに変化しています。わたしたちが使用している現在の敬語も長い歴史の通過点に過ぎません。

細かい用法の間違いが気になって緊張しすぎてしまうときには、「相手に敬意が伝わればOK」と割り切ることが上策です。同時に相手の言葉づかいに寛容になることで、余計な肩の力が抜けることでしょう。まずは敬語に慣れ親しんでください。