「混沌の時代」というキーワードをよく見かけるようになりました。なんらかの世界観が背景にあるように思える「混沌」とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか?
この記事では「混沌」の意味や使い方と例文を紹介します。あわせて「カオス」などの類語や対義語と、古代思想についても触れています。
「混沌」の意味とは?
「混沌」の意味は”互いに入り混じって秩序がないさま”
「混沌(こんとん)」の意味は、“互いに入り混じって秩序がないさま”です。あるいは「全てが混ざりあって区別がつかないさま」などとも説明され、いずれにしてもあらゆるものが「入り混じっている状態」を表します。
しかし単に入り混じっているというだけの状態ではなく、極端なほどの混乱と無秩序な状態を一言で言い表す際に使われることが多い言葉です。
なお「混沌」の「沌」は、”ふさがる・水が流れない”という意味を持ちます。
もともとは「宇宙生成の最初期に天地が未分であった状態」を意味する
「混沌」は、もともとは古代中国の思想で「宇宙生成の最初期に天地が未分であった状態」を表す言葉でした。天地が未分であったとき、すべては混ざりあい、姿かたちをなしていなかったとされます。一般的な会話などで「混沌」の語が使われるときも、そのような世界観を含んで使われることがあります。
また、宇宙が生まれる前の状態が「混沌」であることから、手が加えられていない無秩序の原始的な自然の状態を表すたとえとしても「混沌」は使われます。
「混沌」の使い方と例文とは?
秩序のない世界のありようを表現する使い方と例文
「混沌」は、秩序の乱れた世界のありようを表現するときにしばしば用いられます。混沌の意味に「すべてが形をなさなかった原初の状態」があることから、究極的な無秩序の世界を示唆することを含んで使われます。世界そのものや、政治の世界などが混乱するさまを端的に表現します。
- 世界は混沌とした様相を呈している
- コロナや気候変動に直面し、世界は答えの見えない混沌の時代に突入した
- 独裁者は混沌を生み出した
- 混沌とした政局が依然として続いている
- 混沌の覇権争いとなった
非常に混乱している状況を表現する使い方と例文
災害や暴動などの現場において、系統だった指揮命令がなく、非常に混乱した状況を表現する言葉として「混沌」が使われることがあります。
- 情報が混沌とする中で避難が開始された
- 現場は混沌として収拾がつかない状態だった
勝敗の予測がつかない波乱状態を表現する使い方と例文
スポーツなどの勝敗をめぐり、予想を超えた波乱の展開となり結果の予測がつかない状況を「混沌」の語で表現する使い方があります。
なお、勝敗をめぐる混乱の状態を「混沌」と表現するときは、「無秩序」という意味は含まれず、勝ち負けの区別がつかないほど接戦している状態を表現しています。
- 勝負は一進一退を続けながら混沌の様相を呈した
- ゲームは波乱含みの混沌の争いとなった
「混沌」の類語とは?
「混沌」の類語①カオス
秩序のない世界のことを「カオス」といいます。秩序を意味する「コスモス」に対立する古典ギリシャ語が語源です。「カオス」の日本語訳は「混沌」とされ、ほぼ同義語として用いられています。
また、「カオス」はギリシャ神話における原初の神の名前でもあります。世界の最初にカオスが生成され、続いてガイア(大地)が生まれたとされます。秩序のない混沌(カオス)から世界が誕生したとする神話は世界中にあるようです。
「混沌」の類語②無秩序
「混沌」の要素のひとつである「無秩序(むちつじょ)」も混沌の類語であるといえます。「無秩序」とは”秩序のないこと”という意味です。「秩序」の意味は”物事が正しい状態を保つための一定の順序や筋道”です。これらが整わない状態が「無秩序」です。
このような無秩序の状態が深まり、大きな混乱となった状態が「混沌」です。「無秩序な混沌」「秩序のない混沌」というように、二つの語を並列して使うことも多いです。
「混沌」の対義語とは?
「混沌」の対義語は”秩序”
「混沌」の対義語は”秩序”です。先に説明したように、「秩序」とは”物事が正しい状態を保つための一定の順序や筋道”のことです。
対義語の意味を考えることで、一定の順序や道筋が示されることが混沌の状態を脱するポイントであることがわかります。
『日本書紀』や中国神話に登場する「混沌」を紹介
『日本書紀』「天地開闢」の物語
『日本書紀』には、天地がつくられた「天地開闢(てんちかいびゃく:世界のはじまりのこと)」の神話が記されています。そこでは陰陽が分かれない「混沌」から天と地が分離したとされており、背景には中国の古代思想からの影響があるとされています。
中国神話では「混沌」は怪物の名前
「混沌」は古代中国思想における世界の原初の状態であるとともに、神話に登場する怪物や架空の人物の名前としても登場します。中国神話の『春秋左氏伝』に登場する異形の怪物の名前が「混沌」です。
また、中国古典の『荘子』においては、荘子の思想の中心である「道」を擬人化したとされる帝の名前が「混沌」です。
まとめ
「混沌」とは”互いに入り混じって秩序がないさま”という意味を持ちます。秩序がなく非常に混乱した状態にあることを一言で言い表すことができる言葉です。
同義語の「カオス」はその訳語が「混沌」であり、どちらもその語源が古代の思想にあることが共通点です。古代ギリシャや古代中国では、世界の始まりは秩序がなくすべてが混ざり合ったカオス・混沌であったと考えました。
「混沌の世界」と表現するときに、そのような究極の無秩序状態のニュアンスを含んで使われることがあるのは、世界の始まりが混沌であったとする古代思想が背景にあると考えられます。