スイスではドイツ語、フランス語、イタリア語、そしてロマンシュ語の4つの公用語がありますが、4つも公用語もあって困ることはないのでしょうか。この記事では、スイスで公用語として認められている4つの言語の特徴と公用語が4つある理由のほかに、不便に感じられることや学校での外国語教育についても紹介します。
※この記事の担当:Light1(海外在住20年。スイス在住経験あり。アルプス山脈のトレッキングは最高です!)
スイスの言語とは?
スイスには4つの公用語がある
スイスの言語は、ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の4つが公用語として使われています。地域ごとに使われる言語がある程度限定されていますが、複数の言語が使われて地域もあります。
スイスでの言語の割合
スイスの言語で最も多く使われているのがドイツ語で、次にフランス語、イタリア語と続きます。ロマンシュ語はスイスで使われる機会が最も少ない希少な言語です。
言語ごとの分布
ドイツ語圏はスイス全州26州のうち19州で、ドイツ国境に接しているスイスの北部から東部にかけて、さらに中心部と南部まで広がっています。
フランス語圏はフランス国境沿いのスイスの西部、イタリア語圏はイタリア国境に接するスイスの南部に使われています。
ロマンシュ語が使われているグラウビュデン州はスイスの東部に位置しています。
観光地なら英語は通じる
英語はスイスの公用語ではないのですが、スイスは観光も盛んなので駅や3つ星以上のホテルなど観光慣れをしている場所では英語は通じます。レストランでも英語を併記したメニューを用意しているところもあります。
スイスの4つの言語の特徴とは?
スイスドイツ語は標準ドイツ語とはだいぶ違う言語
スイスドイツ語はドイツ語の方言で、ドイツの標準語とされる標準ドイツ語とはかなり違います。文法的には同じですが語彙や発音も違うため、ドイツ人でもスイスドイツ語をほとんど聞き取れません。
しかしスイス人は学校では標準ドイツ語を学習するので、日常会話やテレビやラジオではスイスドイツ語でも、相手がスイスドイツ語を理解しないとわかったら、標準ドイツ語に切り替えられるスイス人がほとんどです。
スイスでは標準フランス語が使われている
スイスでは標準のフランス語が話されています。一部ではジュラのパトワと呼ばれるフランス語の方言とフランコ・プロヴァンス語と呼ばれるフランス語とも異なるロマンス語が話されていますが、ほんのわずかです。
イタリア語は方言も話されている
スイスのイタリア語圏では標準イタリア語も話されているのですが、ロンバルディア地方の方言「ロンバルド系イタリア語」も強く残っています。イタリア語圏の3割程度の人はロンバルド系イタリア語を使っていると言われています。
ロマンシュ語は希少な言語
ロマンシュ語はスイスのグラウビュンデン州で使われている言語で、1938年2月に行われた国民投票によってスイスの公用語に決まりました。ラテン語から派生した言語ですが、たった0.5%のスイス人しか使っていない消滅の危機にある言語のひとつです。
ロマンシュ語を守るために、2001年に約5種類に分かれているロマンシュ語の共通の書き言葉としてルマンチュ・グリシュン(Rumantsch Grischun)を定めて、学校でもロマンシュ語の学習が行われています。
なぜスイスでは4つの言語が使われているのか?
スイスでは各州の独自性が尊重された
スイスはドイツ語圏だった地域を中心に、フランス語圏やイタリア語圏などの別の州との連合体です。すべての州を統合するような強力な政府が現れなかった代わりに、各州の独自の文化が尊重されました。各州の言語をそのまま公用語として認めた結果、4つの言語を公用語とする国家になりました。
複数の言語があって困ることとは?
国内なのに言葉の壁があり進学や就職が難しい
地域によって使われている公用語が限られていることで、別の言語圏に行くと国内なのに進学や仕事が難しいということがあります。そのためスイスでは外国語の教育に力を入れていて、早期の外国語教育が行われています。
複数言語の表示が当たり前
スイス製品やパンフレットなどの説明書きには、ロマンシュ語を除く3つの公用語で書かれていることが普通です。そのため説明書きには広いスペースが取られています。
長々と書かれた説明書きから自分がわかる言語を瞬時で探し出すためには慣れる必要があります。
スイスでの言語教育とは?
複数の公用語があるスイスでは、バイリンガルのスイス人が多いのですが、その背景には外国語の早期教育があります。ここではスイスの学校での外国語教育について紹介します。
小学3年生から外国語学習が始まる
日本でも英語の早期教育が行われていますが、スイスでは早くも小学3年生から外国語の学習が始まります。例えばドイツ語圏なら3年生で英語を、5年生からは第2外国語として別の公用語であるフランス語の学習が始まります。
英語が先か、公用語が先か
どの外国語を先に学ぶべきなのかについては、各州で意見が分かれます。スイス経済の中心であるチューリッヒがあるドイツ語圏では英語を重視する傾向があり、先に英語を学び、次に公用語であるフランス語を学ぶという流れが主流です。
一方、フランス語圏では先に公用語であるドイツ語を学び、英語は2番目に学びます。スイスの広い地域で話されるドイツ語はスイス人にとって重要なので、英語よりもドイツが重視されます。
どの外国語を学ぶかはスイスの言語文化を守るという視点から考えると大きな問題です。スイスに住んでいるのだから公用語を先に学ぶべきだという主張に対して、国際基準で考えれば英語が大切だという意見もあります。この議論について政府からの正式見解はなく、学校でどの外国語を先に学ぶのかは自治州ごとの判断になります。
まとめ
スイスでは4つの言語が公用語で、地域に合わせて使われる言語が違います。そのため言語の早期教育にも早くから取り組まれていました。スイス人にバイリンガルが多いのも頷けます。
※スイスドイツ語は標準ドイツの方言で、地域によってさらなる方言もあり種類が多い。