「言うは易く行うは難し」はビジネスシーンでもよく使われることわざです。身近な表現でありながら、実は意味や読み方、あるいは使い方がわからないという人もいるかもしれません。
この記事では、「言うは易く行うは難し」の意味を語源にさかのぼって解説します。あわせてビジネスでの使い方と例文や、反対の意味の四字熟語も紹介しながら意味を深堀りします。
「言うは易く行うは難し」の意味とは?
「口で言うのは簡単だがそれを実行するのは難しい」という意味
「言うは易く行うは難し」の意味は、“口で言うのは簡単だが、それを実行することは大変むずかしいことだ”ということです。
さまざまな場面で使われることわざですが、状況によって異なる意味のニュアンスが加わります。たとえば計画や提言を前にして、「口で言うのは簡単だが、それを実行することは大変むずかしいことだ(しかしやり遂げなければならない)」という難題を前向きに捉えようとするニュアンスや、あるいはある行為を行ったあとに「口で言うのは簡単だが、それを実行することは大変むずかしいことだ(ということがやってみてわかった)」といったニュアンスです。
「易い」は”簡単・たやすい”という意味
「言うは易く」の「易い」は”簡単・たやすい”という意味です。簡単にできることを「お易い御用だ」と言ったり、簡単にたやすく書けることを「書き易い」などと言ったりします。
つまり「言うは易く」とは”言うのはたやすい、簡単だ”という意味です。
「難い」は「むずかしい」という意味
「行うは難し」の「難い」とは”むずかしい”という意味です。断言することがむずかしいことを「言い難い(いいがたい)」などと表現します。
つまり「行うは難し」とは”実行するのはむずかしい”という意味です。
「言うは易く行うは難し」の語源と読み方とは?
語源・出典は古代中国の会議録『塩鉄論』
「言うは易く行うは難し」のことわざの語源は、古代中国の会議録『塩鉄論(えんてつろん)』に求められます。
『塩鉄論』とは、紀元前の前漢時代、古代中国の朝廷における塩・鉄・酒の専売制などの政策をめぐる論戦をまとめた著作です。議論の記録をまとめた桓寛は、この論争からしばらくのちの時代の官吏です。
儒教思想の派閥と法家思想の派閥との間に展開された論争は、当時の政治や経済の実態を知る上でも貴重な資料であるとされています。日本には平安時代にはすでに伝わっており、昭和初期には口語訳の翻訳書がいくつか出版されています。
『塩鉄論・利議』に、「言うは易く行うは難し」のことわざのもととなった一節があります。口が達者な者が必ずしも徳があるとはいえないというのはなぜか、という問いの答えが「これを言うは易くして、これを行うは難ければなり」でした。
つまり、口で言うだけで実行しなければ人としての徳はない、との批判的な視点からの回答であることがわかります。
「言うは易く行うは難し」の読み方は”いうはやすくおこなうはかたし”
「言うは易く行うは難し」の読み方は“いうはやすくおこなうはかたし”です。「難し」を”かたし”と読むのがむずかしいですが、「難(なん)」の字は”かたい・むずかしい・にくい”の読み方があります。
「言うは易く行うは難し」の使い方と例文とは?
ビジネスシーンでの使い方と例文
「言うは易く行うは難し」は、ビジネスシーンでも用いられることが多いことわざです。大きな目標を前にして、達成が不安視されるときに使われたり、提示された計画などについて、「絵に描いた餅」で終わらなければいいけどね、といったニュアンスで釘を指す意味で使われたりします。
ビジネスシーンでの使い方を例文で紹介します。
- プロジェクトの提言は手つかずに終わった。「言うは易く行うは難し」である。
- 「言うは易く行うは難し」で、さまざまな手法が試されたが有効性は確認できていない。
- 「言うは易く行うは難し」を乗り越えて目標を達成してほしい。
一般的なシーンでの使い方と例文
日常的なシーンでも「言うは易く行うは難し」のことわざを用いて実行の困難さを表現することがあります。コロナ禍における感染症予防対策を実行するにあたり、「言うは易く行うは難し」のことわざを用いての批判も見受けられました。
- 不要不急の外出自粛要請は「言うは易く行うは難し」である
- 感染症対策は「言うは易く行うは難し」のままでは効果が得られない
- つらいときこそ笑顔でというのは「言うは易く行うは難し」だ
「言うは易く行うは難し」の反対の意味の四字熟語とは?
反対の意味の四字熟語は「不言実行」「有言実行」
「不言実行(ふげんじっこう)」とは、”何も言わずにすべきことを実行すること”という意味の格言です。
「言うは易く行うは難し」には”口で言うのは簡単だが、それを実行することは大変むずかしいことだ”という意味があるとともに、「言うだけで実行しなければ意味がない」という批判的な意味も含まれています。
「言うだけで実行しなければ意味がない」の反対の意味を教える格言が「不言実行」であるといえます。
あわせて、「不言実行」をもとにつくられた俗語ですが格言としても浸透しつつある「有言実行」も、反対の意味の熟語だといってよいかもしれません。
「有言実行(ゆうげんじっこう)」とは、”すべきことを公言し、その言ったことは必ず実行すること”という意味です。「有言実行」との違いは、実行するにあたり、公言するかしないかの違いです。
まとめ
「言うは易く行うは難し」とは、”口で言うのは簡単だがそれを実行するのは難しい”という意味のことわざです。言うだけで実行できないのであれば絵に描いた餅だ、といったニュアンスで批判的に使われたり、「大切な提言だがそれを実行するのは相当に困難だ、しかしやり遂げなければならない」という中立的なニュアンスで使われたりします。
反対の意味としては「すべきことは何も言わずにやり遂げることが大切だ」という意味の「不言実行」の四字熟語をあげることができます。「言うは易く行うは難し」の語源をたどると、口で言うだけで実行しなければ人としての徳はない、といった意味を含む古代中国の議論がもとになっています。
「言うは易く行うは難し」について、語源や反対の意味の言葉を考えることで、理想にむかって実行することの難しさや大切さをより一層考えさせられるのではないでしょうか。