「嘗て(かつて)」とは?意味・類語や「曾て」との違いを解説

「嘗て」は漢文・古文の書き下し文で使われることもある言葉です。なじみがなく読み方が分からない人も多いかもしれません。実は「嘗て」は日常会話でも使う「かつて」の漢字表記です。意味や類語、「曾て」との違いについてご説明します。

「嘗て」とは?

「嘗て」の意味とは”過去のとある時点”

「嘗て(かつて)」の意味は、具体的な時期を定めない“過去のとある時点・時期”です。「昔・今まで」とも言い換えられます。後ろに否定や打消しの言葉を続けて「今まで一度もない・全くない」という意味で使われることもあります。

「嘗て」は常用漢字(日常的に使われる漢字)ではないため、漢字で表記されることはあまりありません。自分が使用する際も、漢字にする必要のある場面は少ないでしょう。

「嘗て」の読み方は”かつて”

「嘗て」の読み方は“かつて”です。

「曾て」は別表記のため違いはない

「曾て」も「かつて」の漢字表記のひとつです。「嘗て」と意味の違いはありません。

「曾」は「曽」の旧字になるため「曽て」と書いても正しい日本語になります。ただし「曽て」は漢字自体は常用漢字ですが、「かつて」という読み方は常用外になります。そのため「かつて」は平仮名で書かれるのが一般的です。

以前は漢文・古文の書き下し文にのみ使用された

「嘗て」は、平安時代ごろには漢文・古文の書き下し文にしか使用されませんでした。また、その頃は「以前・今まで」という意味では使用されていません。「今までにない・全くない」のどちらかで使われていたとされています。

「嘗て」の使い方と例文とは?

「嘗て」で過去の話題に使用する

「嘗て」は過去の話題を、具体的な時期を明言せずに表現する際に使用されます。どれぐらい過去なのかは厳密には定まっていませんが、「かなり昔」の話題に利用されることが多いようです。「嘗ては」と使うこともあります。

会話・文章ともに使用されますが、やや改まった印象になります。

例文
  • 嘗ての恋人が新しい恋をしていると聞いてしまった。
  • 嘗て通っていた小学校が取り壊されることになったらしい。
  • 嘗ては美しかった野山が、今は住宅街に変わってしまった。

「嘗てない」で”今まで一度もない”ことを表現する

「嘗てない」や「嘗て〇〇ない」と使うことで「今まで一度もない」ことを表現します。「いまだ嘗て」のように、強調して使うことも可能です。

例文
  • 嘗てないほどに斬新で感動する映画だった。
  • いまだ嘗てない食感のケーキだと聞いて買ってみたが、そこまでではなかった。
  • いまだ嘗て、彼の記録は破られていない。

カジュアルな会話では「かって」とも言う

正式な読み方ではありませんが、カジュアルな会話では「かって」と使っても問題ありません。ただし、かしこまった場では正しい読み方である「かつて」を使いましょう。

「かって」という読み方は、誤読から生まれたと言われています。日本語は第二次世界大戦後まで書き言葉に「っ」を使う習慣がなかったためです。例えば「買つてきて」と書いて「かってきて」と読んでいました。そのため「かつて」を「かって」と誤読する人が多かったと考えられています。

「嘗て」の類語とは?

「嘗て」の類語は”以前”

「嘗て」の類語は“以前(いぜん)”です。「話題になっている時点より前・今より前」という意味になります。

かなり昔の話題に使われやすい「嘗て」と違って、「以前」は最近の話題に使われることが多い表現です。

印象の違い
  • 嘗て、ここは空き地だった。
    (「かなり昔の話」のことが多い)
  • 以前、ここは空き地だった。
    (「少し前の話」のことが多い)

「嘗てない」の類語は”未曾有”

「嘗てない」の類語は“未曾有(みぞう)”です。「未曽有」とも表記します。「今まで一度もなかったような、珍しい事態」という意味です。「未曾有」の「曾」は、先ほどお伝えした通り「嘗て」の別表記です。書き下すと「未だ曾て有らず」になります。

由来は「仏の神秘」や「仏の尊さ」を表す仏教用語です。本来はポジティブな表現に使われていましたが、現代ではネガティブな出来事を表現する際に使われることが多くなっています。

「嘗て」の対義語とは?

「嘗て」の対義語は”いつか”

「嘗て」の対義語は“いつか”です。漢字表記は「何時か」です。「具体的な時期が分からない・決められない未来の時点」を意味します。数日のうちにできそうなことに使う人もいれば、何年も実現できなそうなことに使う人もいます。

例文
  • 新しくできたレストランができたから、いつか一緒に行こう。
  • いつか宝くじをあてて、世界一周ツアーに参加したい。

「いつか」は類語としても使用できる

対義語である「いつか」ですが、類語のように、過去の話題に使用することも可能です。「具体的な時期が分からない過去の時点」を意味します。

「嘗て」と同じく過去を表現しますが「時期が分からない」という印象が強い点が違いになります。

例文

このお店、いつか来たことがある気がする。

まとめ

「嘗て」の意味は”過去のとある時点・時期”です。具体的な時期は定まっていませんが、「かなり昔」の表現に使う人が多いようです。

「かって」と読んでも問題にはなりませんが、正式な読み方ではありません。かしこまった場では避けた方が無難です。