「咀嚼」の意味と使い方とは?類語や小説『こころ』での表現も解説

「咀嚼」は食べ物をかみくだくという意味ですが、転じて気持ちの動きを表す比喩表現としても使われます。この記事では、「咀嚼」の持つ複数の意味を解説します。あわせて夏目漱石の『こころ』に登場する「咀嚼」の表現を例にとりながら使い方も紹介します。類語についても触れています。

「咀嚼」の意味とは?

「咀嚼」の意味は「口の中で食べ物をかみくだくこと」

「咀嚼(そしゃく)」とは、「口の中で食べ物をかみくだくこと」という意味です。「かみくだいて味わうこと」という意味も含めて使われることもあります。

「文章などの意味を味わう」という意味もある

「咀嚼」は、食べ物をかみくだくという意味のほかに、「文章や言葉などの意味をよく考えて味わう」という意味もあります。食べ物をかみくだいて味わうという意味が転じた比喩としての使い方です。たとえば「名文を咀嚼して味わう」などと用います。

「咀嚼」の漢字はどちらも「かむ」という意味

「咀嚼」を構成する「咀・嚼」とも「かむ」という意味があります。同じ意味の言葉をふたつ重ねて意味を強調した熟語が「咀嚼」です。

「咀嚼」の使い方と例文

「言葉を咀嚼する」とは「意味を深く考える」

「文章や言葉の深い意味を理解しようとよく考える」という意味でも「咀嚼」は使われます。たとえば、夏目漱石の『こころ』に書かれた「彼の言葉を頭のなかで何遍も咀嚼していた」という表現です。「名言の美しい響きを味わう」という意味の「咀嚼」というより、「何度もその意味を繰り返し深く考える・理解しようとつとめる」という意味で使われています。

「咀嚼」を印象的に使った夏目漱石『こころ』

夏目漱石の小説『こころ』では、登場人物の内面を表す表現としても「咀嚼」が印象的に使われています。例えば、登場人物がある人の事で頭がいっぱいになりながら歩き回る場面において、「彼の姿を咀嚼しながらうろついていた」との一文が登場します。

ここでの「咀嚼」は、その対象が食べ物でも文書でもなく「姿」であることが印象的です。「何度も口の中で食べ物をかみ砕く」という物理的な動作を表す表現を、ある人のことを一心不乱に考えている様子の比喩として用いたことが臨場的な効果を与えています。

「咀嚼できない」は「意味を理解できない」

「咀嚼」は、「咀嚼できない」という否定形で「言葉や文章などの意味を理解できない」という意味で使われることもあります。「咀嚼」の言葉に「よく噛んで飲み込む」イメージが重なり、「飲み込めない」というニュアンスでも使われますが、「咀嚼」に飲み込むという意味はありません。

例文
  • 彼の発言は突飛すぎて咀嚼できない
  • 議論が咀嚼できないまま進んでしまった

「咀嚼」の類語とは?

咀嚼の類語1「反芻」:深く考える

食べ物をかみ砕くという意味の比喩として「深く考える」という意味が「咀嚼する」にあることと同様の表現に「反芻(はんすう)する」があります。

「反芻」とは、「一度飲み込んだ食べ物を口の中に戻し、噛みなおしてまた飲み込むこと」という意味です。牛などの反芻動物が行います。加えて、「くりかえし考えること、味わうこと」という意味で比喩的にも用いられます。

たとえば、「父の言葉を何度も反芻した」などと使います。この場合は「咀嚼」よりも、頭の中で何度もくりかえし考えるといった反復の意味が強いです。

咀嚼の類語2「堪能」:意味を味わう

美しい文章や示唆に富む言葉などを味わうという意味の「咀嚼する」については、「堪能(たんのう)する」が類語に挙げられます。

「堪能」とは、「十分に満足すること・納得すること」という意味です。「名言を咀嚼する」は「名言を堪能する」というニュアンスも含んで使われることがあります。

「咀嚼」は「よく噛み砕く」と言い換えられる

食べ物をかみ砕くという意味での「咀嚼」について、類語にあたる熟語はありませんが、「よく噛み砕く・噛みしだく」などが言い換えられる言葉です。

「噛み砕く」は、「丁寧に噛み砕いて説明する」というように、咀嚼と同じく比喩としても用いられます。

「咀嚼」の英語表現とは?

「咀嚼」は英語で「mastication」

食べ物を噛み砕く「咀嚼」は英語で「mastication」。「噛むこと」という意味では他に「chew」という表現もあります。

「よく考えて理解すること」という意味で「咀嚼」を表現する場合は「digestion」と訳します。そのほかに「理解すること」という意味で使える表現は「understanding」や「taking in」などです。

「咀嚼」の英語訳を使った例文

  • Today people have their food with less mastication than in the past I had no time to take in what he said.
    今日、人々は食べ物を咀嚼する回数が前よりも減っている。
  • I had no time to take in what he said.
    私は彼の言ったことを咀嚼する時間的余裕は無かった。

まとめ

「咀嚼」は、食べ物を口の中でよく噛むという意味の他に、言葉や文章の意味をよく考える・味わうという意味でも使われます。

口の中で時間をかけて食べ物が何度もかみ砕かれることにより、やわらかく形を変え、すんなりと飲み込むことができるようになるという「咀嚼」の言葉は、頭の中で言葉の意味などをよく考え、時には味わうという思索行為の意味に使うとき、身体的な実感を呼び起させる表現だといえるでしょう。