「人の振り見て我が振り直せ」は、「人の失敗を笑ったり批判したりするのではなく自分の振る舞いを反省しよう」という意味をもつことわざですが、使い方によってはとても謙虚になったり独善的になったりしてしまうこともあります。ここでは「人の振り見て我が振り直せ」の意味や使い方についてまとめます。
「人の振り見て我が振り直せ」とは
意味は「動作や挙動」
「人の振り見て我が振り直せ」の意味は、「動作や挙動」です。相手の欠点や間違いを批判するのではなく、わが身を振り返り知徳を積むための便(よすが:手がかり)にしましょうということを指すことわざです。「他人の失敗を生かす」「人の経験から学ぶ」などの解釈も間違いではありませんが、より謙虚に「自分も同程度に違いないので、この機会に改めよう」という自戒の意味もあります。
「振り」の意味は「振る舞い」のこと
「振り」とは踊りの振り付けのことではなく、もともと人の動作をあらわす「振る舞い(ふるまい)」のことです。さらに「振る舞う」の語源は「振い舞う(ふるいまう)」で、辞書によれば「鳥が羽を振って空を自由に舞うようす」に由来する「やまとことば(日本古来の言葉)」です。「立ち振る舞い」といえば立って行う動作のことで、「立ち居振る舞い」は立ったり座ったりする所作のことです。
「人の振り見て我が振り直せ」の類語と四字熟語
「自分の立ち位置」で解釈が分かれる
「人の振り見て我が振り直せ」は「人を見て自分の行いを正せ」という意味のことわざですが、自分の立場をどう見るかによって解釈は2通りに分かれます。まず、人の失敗から教訓を得て同じ間違いを避けようとする場合、自分は失敗とは無関係なので「他者の失敗を生かす」ことになります。しかし相手の人格に難があって、それが言動にあらわれていると感じるような場合には、自分も似たようなものと自省して「この機会に改善しよう」「お互いさまの心をもつことが大切」といった解釈になります。
「自分も同類」の意味の類語は「どんぐりの背比べ」
「人の振り見て我が振り直せ」を自分も相手と同じに違いないと捉えるのであれば、「五十歩百歩(自分と大差ない相手を批判する)」「どっこいどっこい(お互い全力で戦っても同レベル)」などの成句が類語としてあげられるでしょう。人のことをあれこれ言っている場合ではないという意味では「己の頭の蝿を追え(頭の上の蝿を追え)」などのことわざも似ています。
「人の欠点から学ぶ」の意味の類語は「反面教師」
人の迷惑になる反社会的な言動を見て、道徳の大切さを再確認するような場合には「反面教師(悪いお手本)」「覆車之戒(ふくしゃのいましめ:同じ轍を踏まない)」「他山の石(よその山から出た価値のない石にも使い道はある。他人の欠点も自分の知徳を磨くのには役立つ)」などがあります。「下手は上手の手本、上手は下手の手本」は「秘すれば花」で知られる世阿弥の「風姿花伝」に出てくる一節です。
座右の銘としての使い方には注意
「人の振り見て我が振り直せ」という言葉には人を否定的に見たうえで自分を顧みるという独善的なニュアンスも含まれます。そのため、座右の銘として他者に紹介する場合は「万物我師・万象皆師(すべてのものが師である)」「人は鏡・人こそ人の鏡(人は自分自身の姿を映す鏡のようなものである)」など同じ意味をもつ別の言葉に言い換えてもよいでしょう。「鏡」は「鑑(かがみ:お手本)」に通じることから、「人の振り見て~」よりも謙虚で丁寧な印象になります。
「人の振り見て我が振り直せ」の使い方例文と英語表現
「人の振り見て我が振り直せ」の具体例と例文
「人の振り見て我が振り直せ」を使った具体例と例文をご紹介しましょう。
- いつまでもあの人上司のことで愚痴を言うのはやめよう。人の振り見て我が振り直せという言葉もあるだろう。
- 〇〇さんの行いが違法行為にあたるとは知りませんでした。「人の振り見て我が振り直せ」のことわざに従って、私もすこし言動を慎みたいと思います。
- 「人の振り見て我が振り直せ」という言葉は人の言動を遠回しに批判する場合に使われることも多いので、私はあまり好きではありません
英語表現は「You can better yourself by observing others.」
「人の振り見て我が振り直せ」の英語表現をご紹介しましょう。
- You can better yourself by observing others.(他人を観察することで自分自身を良くすることができる)
- Learn wisdom by the follies of others.(他者の愚行から知恵を学べ)
- One man’s fault is another’s lesson.(誰かの間違いは別の人には教訓です)
まとめ
人の欠点を批判することで自分の正当性を主張するのと、黙って自分の身に置きかえるのとでは雲泥の差がありますが、自分も人のことは言えないと自己成長の糧にする場合と、「人の振り見て我が振り直せ」という言葉で暗に相手の言動を批判する場合でも意味が違ってきます。人の欠点を見るたびに自己反省していたのでは疲れてしまうという場合は、まず批判的なものの見方が習慣化していないかを振り返ってみるのもひとつの方法かもしれません。