かつては、安いけれど品質が悪い製品のことを「安かろう悪かろう」と言っていました。昨今は安くても品質の良い製品が世の中にあふれており、言葉の使い方も「モノ」から「コト(サービス)」へと移り変わっています。
今回は「安かろう悪かろう」の意味と使い方の例文、類語「安物買いの銭失い」との使い分けを解説します。この言葉が使われるようになった社会的な背景もまとめました。
「安かろう悪かろう」とは?
「安かろう悪かろう」の意味は「安い物に良いものはない」
「安かろう悪かろう」の意味は、「値段が安い物に良いものはない」です。大量に安売りされている商品などを揶揄(やゆ)したり、問題提起したりするときに使われる言葉です。
または、品質は悪いが価格は安い品物そのものを指して「これは『安かろう悪かろう』だから仕方がない」などと使います。
「安かろう悪かろう」は大量消費社会によく使われる言葉
「安かろう悪かろう」は、戦後の高度経済成長期とともに始まった、大量消費社会の時代によく使われるようになった言葉です。
戦後の復興とともに、小売りの新しい業態としてスーパーマーケットが日本にも持ち込まれ、大量仕入れの大量販売を行った結果、品質よりも低価格を重視した商品が世の中に行き渡りました。その後、経済が発展し消費者に余裕が出てくると、値段だけではなく品質も重視するという消費者志向の変化が生まれ、「安かろう悪かろう」では品物が売れなくなりました。
「安かろう悪かろう」はそのように変化した、消費者志向に合わない品物に対する批判としても使われるようになったのです。
現代の「安かろう悪かろう」の対象は、人材やサービスに変化
その後の企業努力により、現在の日本では、安くても品質の良い製品があふれるようになりました。しかしそのメリットを消費者が享受する裏では、安い品物を生産するためのコストカットによる弊害が出ていることはあまり注目されていません。
そのことから、昨今の「安かろう悪かろう」の対象は、品物ではなく、人材やサービス、あるいは企業のあり方などの抽象的なものへと変化してきています。
具体的には、コスト削減を目的とした、無理な日程を組んだ格安バスツアーで人為事故が起きた時や、格安で家のリフォームを行ったところ、手抜きが発覚した時など、企業体制や手抜き工事などにも「安かろう悪かろう」の比喩が使われます。
「安かろう悪かろう」の例文
「安かろう悪かろう」を使った例文
「安かろう悪かろう」を使った例文をいくつかご紹介しましょう。
- 労働力を搾取することで価格を抑えて作られた品物は、品質が良くても「安かろう悪かろう」だ。
- 世の中にあらゆるサービスがあふれているが、「安かろう悪かろう」を見抜く目を持ちたいものだ。
- 生産方法に疑いのある「安かろう悪かろう」の食品は控えて、信頼のおける生産元から購入することにしている。
「安かろう悪かろう」の類語・反対語
類語は「安物買いの銭失い」
「安かろう悪かろう」の類語として挙げられるのが「安物買いの銭失い」です。安さにつられて買い物をすると、使い物にならなかったり、すぐに壊れて買いなおすことになったりするから、結局は損をするという意味のことわざです。
このことわざは、安い物を目の前にすると、つい理性が働かなくなって衝動的に買い物をしてしまうことへの教訓です。また、この時の「安物」とは、「安かろう悪かろう」の品物を指すこともあれば、品質が悪くなくても安い物を指す場合もあります。
- 半額セールで新品のフライパンを買ったが、たくさん持っていたので結局使っていない。安物買いの銭失いだった。
- 100円ショップで大量に収納ボックスを買ったが、結局使い道がなかった。安物買いの銭失いをしてしまった。
「安かろう悪かろう」と「安物買いの銭失い」の違い
「安かろう悪かろう」は品物や事柄のあり方に向かう言葉ですが、「安物買いの銭失い」は買うという行動に対する教訓です。
しかし現代は「お得なことはいいことだ」という価値観を植え付けられてしまっているため、「安かろう悪かろう」と「安物買いの銭失い」は、どちらも「どのような商品を選んで買い物をするべきか」ということを考えさせてくれる意味では、共通していることわざだといえるでしょう。
反対語は「高かろう良かろう」
「安かろう悪かろう」の反対は、対の言葉を使った「高かろう良かろう」です。意味はそのまま「値段が高いものは、品質も良いものだ」ということを表します。
ファストファッションは「安かろう悪かろう」なのか?
いわゆるファストファッションと呼ばれる、価格の安い衣料ブランドが人気です。世界的に進出している日本のファストファッションブランドもあり、高い品質で低価格を打ち出すのに成功しています。
労働環境が「悪かろう」の指摘
その製品にはすでに「安かろう悪かろう」の面影はなく、高い品質であることは世界も認めていますが、低価格で高品質の製品を生産する労働環境に問題があるとの指摘もあります。
このようなことから、戦後よく使われた「安かろう悪かろう」のたとえは、消費社会が飽和してきている現代への警告として使われることが多くなっているといえます。
まとめ
「安かろう悪かろう」は「安い物は品質が悪い」だから「安い物に良い物はない」という意味で、戦後の大量消費社会の幕開けとともに、当時の製品の品質の悪さを指摘するのによく使われた言葉でした。
現代の日本では、安くて品質の良い品物があふれています。しかしその代償として、安くて品質の良いものを生み出すために誰かが犠牲になったり、不必要なものを無駄に買ってしまう「安物買いの銭失い」に私たちは知らず知らずのうちに陥ったりしているといえます。
身の回りにあふれる現代の「安かろう悪かろう」とは何かを、しっかりと考えてみたいものです。