「人事を尽くして天命を待つ」の意味とは?出典の原文や例文も紹介

座右の銘とする人も多い「人事を尽くして天命を待つ」という格言ですが、その語源や言葉の正確な意味はあまり知られていません。

日本人になじみ深いことわざでありながら、その出典などはあまり知られていない「人事を尽くして天命を待つ」について、語源や原文とともに解説しますので参考にしてください。

「人事を尽くして天命を待つ」とは?

意味は「力を尽くして天の意思に任せる」

「人事を尽くして天命を待つ」の意味は、「力を尽くして天の意志に任せる」です。「人としてできる限りのことを尽くしたら、あとは静かに天の意思に任せる」という心境のことわざです。

「人事」と「天命」の意味

「人事を尽くして」の「人事」とは、人間の力でできる事柄という意味です。「人事を尽くす」とは、自分の力でやれることを全てやるという意味です。

「天命を待つ」の「天命」には二つの意味があります。ひとつは「天から与えられた使命」、もうひとつは「天から与えられた運命」という意味です。

「使命」とは「この世に生まれてきた、果たすべき役割」の意味があり、「運命」とは、「人の意思をこえて身の上に起きるめぐりあわせ」という意味があります。

いずれにしても、「天命」とは、自分の意思ではどうすることもできない、見えない大きな力によって定められていることという意味です。

出典は中国の儒学者の書物

「人事を尽くして天命を待つ」は、中国の『読史管見(とくしかんけん)』という書物が出典の故事成語です。

この書物は中国の儒学者であった「胡寅(こいん、1098年 – 1156年)」が「歴史を読んでの私見」としてまとめたものです。この本の中で胡寅は、名臣の謝安が淝水の戦いに勝った時の心境を「人事を尽くして天命に聴す」=「全てをやり切ったのだからあとは天命に任す」と表現しています。

「人事を尽くして天命を待つ」が誰の言葉かというなら、中国の儒学者「胡寅」の言葉であるということになります。

中国語のことわざの原文・漢文は「盡人事而待天命」

中国語のことわざとしての原文(漢文)は「盡人事而待天命」または「盡人事待天命」と書きます。

四字熟語は「人事天命」

日本で四字熟語として書かれる場合は「人事天命」と書くことがあります。

「人事を尽くして天命を待つ」の例文

「人事を尽くして天命を待つ」を使った例文

「人事を尽くして天命を待つ」はもともとは古代中国の戦いの場面で武将の気持ちを表した時の言葉がもととなった格言でしたが、現代の日本では、「人事を尽くす」とは「ベストを尽くす」という意味で使われています。

どのような結果になっても後悔しないほど、やるべきことはやりつくした、という時の心境を表すときに使います。例文を紹介します。

  • 試験にはベストを尽くした上で臨んだので、今は人事を尽くして天命を待つ心境だ。
  • 人事を尽くして天命を待つ気持ちで決勝に挑む。
  • 交渉の結果はまだわからないが、人事を尽くして天命を待つ、の気持ちで返事を待ちたい。

「人事を尽くして天命を待つ」の類語

「人事を尽くして天命を待つ」の類語を紹介します。

類語①「天は自ら助くる者を助く」の意味

この言葉は、イギリスの著述家サミュエル・スマイルズが著した『SELF HELP』の冒頭に引用されている格言「Heaven helps those who help themselves.」の翻訳です。

明治維新後の文明開化の時代に『SELF HELP』は『自助論』というタイトルで日本語に翻訳され、冒頭の格言は「天は自ら助くる者を助く」と訳され知識人の間に広まりました。

「人に頼らず努力する者には天の助けがあり成功する」という意味で、現代でも座右の銘としている人も多いようです。

類語②「運を天に任せる」の意味

「運を天に任せる」とは、うまくいくかどうかは天に任せる、という意味では「人事を尽くして天命を待つ」と同じ意味がありますが、「運を天に任せる」には「人事を尽くす」の意味が入っていないため、「成り行きにまかせる」の意味合いで用いられます。

「人事を尽くして天命を待つ」の英文

英語表現はGod helps those who help themselves.

「人事を尽くして天命を待つ」と同じ意味を表す英文を紹介します。なお、「天命」の英語表現はさまざまに訳すことができます。「天」という意味では「god 」または「 heaven」となり、「運命や宿命の意味」では「fate」「destiny」となります。また、「神の真意」の意味では「providence」があります。

  • Man does what man can do then awaits the verdict of heaven or fate.
  • Do your best and leave the rest to Providence.
  • Do your best and let the heavens do the rest.
  • God helps those who help themselves.

最後の例文は、先に説明した『SELF HELP』の書に引用された格言のもとになったことわざです。

まとめ

「人事を尽くして天命を待つ」とは、「ベストを尽くしたあとは、心を静かにして運を天に任せる」という心境をたとえる言葉です。自分自身を落ち着かせるために、そのような心境であるべきだと言い聞かせたり、あるいは理想の生き方として心に刻んだりする人がいることでしょう。

語源は古代中国の戦いの場面での名臣の心境を語ったものですが、あらゆるものと戦う現代のビジネスパーソンの心を静めてくれる格言として、これからも使い継がれてゆくのではないでしょうか。