「寡婦」の意味とは?「ひとり親」との違いや住民税の非課税も解説

「寡婦」は「未亡人」と同じ意味ですが、法律の上ではその定義がさらに細かく決められています。この記事では「寡婦」の一般的な意味と法律における意味について解説します。

あわせて、令和2年度から新設された所得税・住民税の「ひとり親控除」と「寡夫控除」の違いについても解説しましょう。

「寡婦」の意味とは?

「寡婦」をわかりやすくいうと「夫と死別し再婚していない婦人」

「寡婦(かふ)」とは、一般的な意味では「夫と死別し再婚していない婦人」のことをいいます。「寡婦」は、同じ意味を持つ言葉である「未亡人(みぼうじん)」の漢語的表現です。「寡」は「少ない」の意を表す漢語です。

一般的な会話においては、「寡婦」の表現を使うことはあまりなく、「未亡人」を使うことの方が多いといえます。「寡婦」は法律用語として使われることが多い言葉です。

「寡婦」を「やもめ」と読み「独身の男女」という意味も

古い時代には、夫を亡くした婦人や独身の女性を「やもめ」と呼び、「寡婦」や「寡」の字があてられていました。妻を亡くした夫は「やもお」と呼ばれ、「鰥」や「鰥夫」の字があてられました。現代では、「やもめ」は夫または妻を亡くした男女双方や、結婚せずに独身を通す者に対して男女を問わずに使われます。

「女やもめに花が咲く、男やもめにうじがわく」ということわざもあるように、寡婦を「女やもめ」、寡夫を「男やもめ」と呼ぶこともあります。

「寡婦」の定義は法律によって異なる

法律用語としての「寡婦」は、各法律によって定義が異なります。ただし、どの場合でも「配偶者と死別し、婚姻していない女子」が基本です。

「寡婦」は税金や年金制度において控除を受けることができたり、寡婦を対象とした福祉制度があったりします。しかしそれぞれの法律における「寡婦」の定義は細かく設定されていますので、のちほどくわしく解説します。

【所得税】寡婦とひとり親の違いとは?

「寡婦控除」の条件は「夫との死別離別/扶養親族/所得金額」

まず、所得税とは「1年間の所得金額」から「各種所得控除額」を差し引いた残りの所得金額に対して課税されるものです。「寡婦控除」とは「各種所得控除」のひとつで、控除額が27万円となっています。「寡婦控除」の対象となるには、次のいずれかの条件を満たす必要があります。

寡婦控除を受けられる条件(次のいずれかに当てはまる人)

(1) 夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人で、合計所得金額が500万円以下の人
(2) 夫と死別した後婚姻をしていない人又は夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人(扶養親族の要件はなし)

※「夫」とは、民法上の婚姻関係にある者をいう
※その年の12月31日の現況

なお、同一条件で夫が受けられる「寡夫控除」がありましたが、「ひとり親控除」に吸収され消滅しました。

「ひとり親控除」の対象は「生計を一にする子がいる未婚の人」

令和2年度分から、従来の「寡婦控除」の見直しと「ひとり親控除」の新設が行われています。夫と死別または離別し「子」以外を扶養する人は「寡婦控除」が受けられますが、新設された「ひとり親控除」では「未婚で生計を一にする子がいる人」が対象です。

つまり「ひとり親控除」の新設によって、未婚のシングルマザー・シングルファザーが「寡婦(寡夫)控除」の対象にならない不平等が解消されたことになります。

「ひとり親控除」の控除額は35万円、「寡婦控除」よりも大きい額の控除が受けられます。

ひとり親控除を受けられる条件(次の全てに当てはまる人)

婚姻をしていないこと又は配偶者の生死の明らかでない一定の人のうち

(1) その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと
(2) 生計を一にする子がいること
子は、その年分の総所得金額等が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない人に限られる
(3) 合計所得金額が500万円以下であること

※事実婚の人がいる場合は対象外であることに注意
※その年の12月31日の現況

「特別寡婦控除」は「ひとり親控除」の新設で消滅

以前の制度では「寡婦に該当する人で扶養親族である子がいる人」は「特別の寡婦」となり、控除額が35万円の「特別の寡婦控除」が受けられました。しかし新設された「ひとり親控除」に吸収される形となり、「特別寡婦控除」の制度は消滅しました。

【住民税】寡婦控除と非課税の条件とは?

「寡婦控除」「ひとり親控除」どちらも所得税と同一条件

住民税も所得税と同一条件で「寡夫控除」と「ひとり親控除」に対応しています。「寡婦控除」は26万円、「ひとり親控除」は30万円が控除されます。

所得額が一定以下の寡婦は「非課税」

「寡婦控除」の対象となる条件を満たす寡婦で、前年の所得額が135万円以下であり事実上の婚姻関係と認められる者がいない場合は、住民税が非課税となります。

「母子及び父子並びに寡婦福祉法」とは?

目的は「母子・父子家庭及び寡婦の福祉」を図ること

最後に、「寡婦」の名が冠された法律「母子及び父子並びに寡婦福祉法」について紹介します。この法律の目的は、経済的・社会的・精神的に苦しい状態に置かれがちなひとり親や寡婦の福祉を図ることです。

「母子及び父子並びに寡婦福祉法」は2014年に改正された際にこの法律名となりました。もともとは1964年にできた「母子福祉法」という法律で、その名称のとおり当初は母子のみが対象でした。1981年の改正時に「寡婦」が追加され、2002年の改正時には「母子・寡婦」に「父子」も追加されました。時代にあわせて対象が拡大されてきたのです。

「母子及び父子並びに寡婦福祉法」における「寡婦」

「母子及び父子並びに寡婦福祉法」における「寡婦」の定義は、「配偶者のない女子であり、かつ配偶者のない女子として児童を扶養していたことがある者」となっています。「配偶者のない女子」とは、配偶者と死別した女子であって、現に婚姻をしていない者をいいます。加えて、配偶者には婚姻届けをしていない事実婚の状況にある者も含まれます。

さらに、「配偶者のない女子」には、配偶者の生死が明らかでない女子や、配偶者が海外にあるためその扶養を受けることができない女子など、死別した者以外の条件も加えられています。

「母子及び父子並びに寡婦福祉法」では「事実婚」も

所得税・住民税の「寡婦控除」における条件では、配偶者に事実婚は含まれません(ただし住民税の非課税においては事実婚のある人は対象外)。しかし「母子及び父子並びに寡婦福祉法」における「寡婦」の定義においては、配偶者の中に事実婚が含まれます。

このように、「寡婦」の条件における配偶者の民法上の婚姻関係をどのように扱うかについては、法律により異なるため注意が必要です。

「寡婦控除」や「寡婦年金」の年齢制限

これまで紹介した税制における「寡婦控除」や「母子及び父子並びに寡婦福祉法」においては、寡婦の年齢制限は設けられていません

しかし、遺族年金のひとつである「寡婦年金」の受給には年齢が決められています。「寡婦」の年齢制限に関しても法律で違いがあるため必ず確認しましょう。

まとめ

「寡婦」とは、一般的な意味において夫と死別してその後再婚していない女性のことを指します。法律用語としての「寡婦」については、法律ごとにさまざまな要件が加わります。死別とともに離婚した人も寡婦の対象となる場合や、事実婚の相手がいると寡婦とならない場合などです。法律における「寡婦」は「未亡人」とイコールではないということを覚えておきましょう。