「火の車」という表現を見聞きしたことはありませんか?「火の車」という言葉から「車が燃えている」イメージがありますが、正しい意味を理解して適切に使えているか自信がないという人もいるでしょう。
ここでは「火の車」の意味と語源のほか、使い方や類義語などについて例文を使いながらわかりやすく紹介します。
「火の車」の意味と語源とは?
「火の車」の意味は「金銭面や家計が非常に苦しいこと」
「火の車」とは「経済的に非常に苦しいこと」を意味します。「火の車」は金銭的に家計のやりくりが苦しかったり、借金に追い立てられたりすることを表す言葉です。生活していくためのお金がなく、生計を立てるのが非常に厳しい状態のことを「火の車」と呼んでいます。
語源は「妖怪が引く亡者を乗せるための火車」
「火の車」とは、仏教において悪事を犯した亡者を地獄に運ぶ際に使う「火車(かしゃ)」を語源とする言葉です。「火車」は火が燃え盛った地獄行きの車のことで、生前に悪事を犯し地獄へ行くことが決定した亡者を運ぶため、妖怪が引いてくる乗り物だとされています。
地獄に着くまでの間、亡者は苦しみ悶え酷く追い立てられます。赤々と燃え立つ火の車の中で地獄行きを味わうとは、どれだけ苦しいことでしょうか。このように、火車に乗せられた亡者の耐え難い苦しみを「生活苦」や「借金苦」にたとえたのが「火の車」です。
「火の車」の使い方と例文
「火の車」は憐みの感情を伴って使われる
「火の車」は経済的に生計が厳しくなることを意味するため、他人や第三者に対して「あの人は借金で首が回らない」「経済的に生活が厳しい」と、相手を哀れに思うニュアンスで使われます。
生計のやりくりができない状況は、非常につらく厳しいものです。傍から見ても心苦しく、気の毒な情景であることでしょう。そのようなシチュエーションを悲惨だと感じ、相手の気苦労を哀れむ意図で使われるのが「火の車」です。
また「火の車」とは決して他人を誉め称えたり、仰ぎ見るようなフレーズではありません。生活に困り食べていくことができない状態を哀れに感じ、使われる言葉です。また「火の車」である本人に面と向かって「火の車ですね」と告げるのも失礼になります。
「火の車」に「非常に忙しい」という意味はない
「火の車」を「非常に忙しい」という意味で使われていることがありますが、これは間違っているため注意しましょう。
間違いの原因として、「火の車」から火だるまになった車をイメージすることが考えられます。音を立てて燃え上がる火の勢いや、誰にも止めることができないほど火の回りが速い、というところから「非常に忙しい」という誤った意味で捉えてしまうケースです。
「火の車」は身体的に忙しく振舞うことではなく、借金で生活が苦しくなったり家計のやりくりが非常に大変になることを意味します。あくまで「金銭的、経済的にとてつもなく苦労する」という意味で使われます。
「火の車」と「火達磨」を混同しない
ごく稀に「火の車」と「火達磨(ひだるま)」を混同してしまうこともあるようです。これは「火の車」と「火達磨」の言葉の響きが似ているため、意味も混同してしまっているケースでしょう。
「火の車」は生活苦や借金苦などのように「金銭面」において非常に辛い状況を指しますが、「火達磨」は「全身に火が回り燃え盛ること」を意味します。このように、二つの言葉は全く異なる意味を持つことが理解できます。
「火の車」と「火達磨」のそれぞれの意味を確認して、適切な状況で正しい言葉を使うようにしましょう。
「火の車」を使った例文
- クレジットカードに頼っていた結果、火の車になった。
- 火の車になる前に、借金返済の目途はつけておいた方がいい。
- 父の会社は火の車になり、最終的に倒産を迫られた。
「火の車」の類語・類義語とは?
「借金地獄」とは「借金まみれであること」
「借金地獄(しゃっきんじごく)」とは「多額に負債を抱えているため、借金まみれになっていること」という意味です。借金の返済額や返済期間が尋常ではなく、まるでその返済が地獄のように映ることを「借金地獄」と呼んでいます。
そもそも「地獄」とは宗教における死生観をベースとする概念です。「地獄」とは、前世で悪行をした人が送られる場所だと言われており、現代でも「非常に過酷な状況」を比喩的に「地獄」と呼ぶことがあります。
借金があってもごく普通に生活ができ、返済が苦痛でない状態であれば「地獄」と称する必要もないでしょう。しかし「地獄」がつくほど辛い返済である場合、「火の車」の類語として使える表現だと言えます。
「金詰り」とは「仕事で資金が不足すること」
「金詰り(かねづまり)」とは「資金が不足し、お金のやりくりができないこと」を意味する類語です。資金が底をついてしまい、お金の切り盛りが困難である状態を「金詰り」といいます。
「金詰り」は個人で使うのではなく、商売を目的としている経営や運営のシーンで使われます。たとえば、企業や組織において資金繰りができなくなってしまったり、金銭の都合がつかなくなってしまった時に「金詰り」という表現を使います。
「首が回らない」とは「借金が多額でやりくりが不可能」
「首が回らない」とは「借金や負債などが多額を極め、工面がつかないこと」を意味します。もともと「首が回らない」は、借金苦による精神的な苦痛が原因となり首が回らなくなってしまうことから生まれた熟語表現の一つです。
「首が回らない」も「生計のやりくりができない」「資金がなく非常に苦しい」ということを表す言葉であるため、「火の車」の類語として使えます。
「火の車」を英語で表現すると?
「火の車」の英語1「finacial difficulties」
「火の車」は、経済的・金銭的な困難を意味する「financial difficulties(財政的困難)」というフレーズを使うことができます。これは個人的に生計が立てられないことの他、企業や組織において資金繰りができなくなっている状況も表すことができます。
また「financial difficulties」の「difficulties」の部分を「crisis(危機)」に変えると、より一段と深刻さが増すニュアンスとなります。
「火の車」の英語2「be deep in debt」
「火の車」を「多額な借金を背負っている」というニュアンスで訳すなら、「be deep in debt」というフレーズが使えます。「be deep in」は熟語表現で「どっぷり浸る」という意味です。「debt」が借金という意味で、「be deep in debt」は「借金まみれ」といった意味合いになります。
I was deep in debt for a long time.
私は長い間、火の車だった。
まとめ
「火の車」とは悪事を犯したものを地獄に運ぶ「火車(かしゃ)」を語源とし、その訓読読みが「火の車」となることから使われるようになった表現です。意味は「生計のやりくりが苦しいこと」や「借金に追われる生活を味わうこと」など、金銭的に生活が苦しい様子を表しています。実際の生活においては、「火の車」になる前に何とか鎮火させるよう努力したいものです。
Our company is facing financial difficulties.
私たちの会社は、まさに火の車である。