「ご教示」という言葉は、ビジネスシーンでしばしば見聞きされます。「ご教示」と似た言葉として「ご教授」がありますが、これは間違いではないのでしょうか?
この記事では「ご教示」と「ご教授」の意味を深堀りすることでそれぞれの違いを明らかにし、ビジネスメールで使える例文や類語も紹介しています。
「ご教示」の意味とは?
意味は「知識を教え示すこと」読み方は「ごきょうじ」
「ご教示(ごきょうじ)」は、知識などを教え示すという意味の「教示」という言葉に、敬語をつくる接頭辞の「ご」がついたものです。
「教示」という熟語に用いられている「教」という文字は、校舎に子どもたちを集め、鞭を手にした教師が物事を伝える様子がもとになってできており、「さとす」「告げる」という意味合いを持っています。
「教示」は指導者が情報や知識を示し伝えることを指しているもので、主にビジネスシーンで目上から目下へ伝えることを表します。
「教示」は法令の条文にもみられる
「教示」はビジネスだけでなく、法令の条文にもみられます。この場合の「教示」は、行政から市民へ情報を伝えるという意味合いで用いられており、「教示を求める」というような名詞の形だけでなく、「教示しなければならない」というように動詞の形でも使われるものです。
「ご教示」の使い方とは?
「ご教示ください」はビジネスシーンで多く使われる
ビジネスにおいて「ご教示」は、「ご教示ください」や「ご教示いただき~」という言い回しで用いられているケースが多くみられます。
目上の方や上司に対して教えを請うときには「ご教示ください」、教えを受けたことへのお礼としては「ご教示いただき、ありがとうございました」がよく使われている表現です。
なお「ください」は、命令形「くれ」の丁寧語であるため、謙譲語の「いただく」を使ったほうが相手への強い敬意を示すことができます。「ご教示」に続ける謙譲語としては、ほかにも「~を仰ぐ」「~を賜る」などがよく用いられているものです。
「ご教示」は教える側の動作に対する尊敬語
「ご教示」の「ご」は、教える側(目上)の動作に対して教わる側(目下)が用いることで尊敬の意味になります。
反対に、相手に対して何かを教える場合の表現では「ご」をつけるだけでなく「~いたします」や「~申し上げます」を続けて謙譲語の形にすることが望ましいでしょう。その場合は「ご教示」より「ご説明」などの言葉に言い換えることをおすすめします。
なお、「ご教示」は目上の方に対して用いるものであり、同僚や後輩に何かを教えてもらうときに使うと誤りとなります。
「ご教示いただけますでしょうか」は間違い
「ご教示」の用法としてよくみられる「ご教示いただけますでしょうか」は、文法的には間違いです。
「~ますでしょうか」は、「~ます」に「~ですか」の推測表現である「~でしょうか」が重なっています。これが丁寧語を二重に重ねた二重敬語にあたることから、「ご教示いただけますでしょうか」は敬語の誤用となるのです。
しかし、文法的に誤った用法ではあるものの、「ご教示いただけますでしょうか」はビジネスの場においても広く用いられるようになっています。
「ご教示」とは「ご教授」の間違い?
「ご教授」とは学問・技能を伝授すること
「ご教授(ごきょうじゅ)」は、学問や技能などの専門的な知識・技術を伝授することを指す「教授」に、敬語をつくる接頭辞の「ご」がついた言葉です。
熟語に用いられている「授」という文字は、手から手へ者を受け渡す様子がもとになってできたもので、「手渡しで与える」という意味を表しています。
「ご教授」で伝えるものは習熟に時間が必要なもの
「ご教示」とは一字違いで、見た目も耳にしたときの音もよく似ている「ご教授」ですが、両者が対象とするものには違いがあります。
「ご教授」で伝えられるものは、習熟にある程度の時間が必要となる専門的な知識や技術です。対する「ご教示」で伝えられるものは、一度見ればわかるものや説明を受ければ事足りるものが対象となっています。
具体的には、長期間にわたって継続的な指導が伴うものや、教授や研究者などから専門的な分野の知識・技能を教わりたいときには「ご教授」を、スケジュールなどの情報や簡単な方法・手順、規則などの知識を知りたいときには「ご教示」を用いるという違いがポイントです。
「ご教授」も目上の方に使う敬語
「ご教授」も「ご教示」と同様に、目上の方に教えを請うときに使う言葉です。したがって、会社の同僚や後輩に「ご教授」を使うことはありません。
なお、自分が師匠的な立場にあるときには、「〇〇を教授する」という言い回しで表すことができます。相手が目上の方である場合、「ご教授いたします」という表現は文法的に問題ありませんが、わざわざ使う必要はないでしょう。
「ご教示」のメールでの使い方と例文
「ご教示」はメールや文書で用いる書き言葉
「ご教示」は口頭で使うこともありますが、主にビジネスメールや手紙などで書き言葉として用いられるものです。
目上の方や上司などに対して、分からないことや確認したいことについて問い合わせたいときに重宝する言葉で、必要事項を記載したあと文末に置く定型的な用法もよくみられます。その他「ご教示」いただいたことへのお礼を伝えるメールや手紙などでも使用が可能です。
「ご教示」は込み入った質問には向かない
「ご教示」は、相手がすでに持っている情報や簡単な知識といった、一言ですぐに説明できることがらに対して使うものです。したがって、相手がよく知らないであろうことや、簡単には説明できないようなことがらを尋ねるときには使いません。
また、たとえ簡単なことがらであっても、「ご教示」を求めることで相手に時間を取らせてしまうことになるため、「ご教示ください」のような断定的な表現は避けたほうが無難です。
「ご教示」を使った例文
- 来月のご予定についてご教示いただければ幸いです
- ご教示のほど、何卒よろしくお願い申し上げます
- ご教示を賜り、まことにありがとうございました
「ご教示」の類語・言い換え
口頭では「教えてください」と言い換える
「ご教示」を使った表現を口頭で言い換えたいときには、「教えてください」を丁寧にした表現を使います。
「教え」に敬語をつくる接頭辞「お」をつけた「お教えください」をはじめ、「お教え願います」や謙譲語の「いただく」を用いた「お教えいただけませんか」などがおすすめです。
「ご指導」はある方向へ教え導く類語
「ご指導(ごしどう)」は、目的を持ってある方向へと教え導くことを表した言葉です。「指」という文字は「指し示す」「意図」ということを示すもので、熟語にその意味合いが表れています。
目上の方や上司に教えてほしいことがある場合全般で使いやすい言葉で、「ご指導のほど~」や「ご指導を賜りますよう~」というように表現します。
「ご鞭撻」は努力するよう励ますこと
「ご鞭撻(ごべんたつ)」は、もともと鞭で打つことを指していましたが、転じて努力するよう励ますという意味で用いられることが多くなった言葉です。
「ご指導」とあわさった「ご指導ご鞭撻」という言い回しも、よく見聞きされるものです。「ご指導ご鞭撻」は具体的な教えを請いたいときだけでなく、新しい部署に配属されたときの自己紹介や、新しく取引が始まる際の挨拶としても用いられます。
「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」という表現は、これから長期的にお世話になりますというニュアンスを持つもので、定型的な挨拶として文章や後述の末尾に置かれます。
「ご指南」は武術などを教えること
「ご指南(ごしなん)」とは、古代中国で常に南を指すように作られた「指南車」が語源となっている言葉で、武術や芸能などを教えることやその指導者のことを指します。
「指南」は目上の人からの指導を表しており、「ご」をつけた「ご指南」はさらに敬意を高めたものです。なお、「ご指南」は師匠や先生と呼ばれる人に対して使うことが一般的であるため、ビジネスの場で用いる機会は少ないでしょう。
まとめ
「ご教示」は「ご教授」の間違いではなく、使い分けを必要とする別の言葉であることを解説しました。口頭で使用する場合なら両者の区別は不明瞭ですが、メールや手紙ではきちんと使い分けることが大切です。また「ご教示」は定型的に使われることが多いため、言い換えに使える言葉も知っておくと便利でしょう。