「貧すれば鈍する」の意味とは?対義語「衣食足りて礼節を知る」も

「貧すれば鈍する」は、ビジネス記事などでもしばしば引用されることわざです。貧しさを悪と考えるわけではなく、生活の貧しさが心の貧しさを生むという人間の傾向をとらえた自戒の言葉であると言えます。

この記事では、「貧すれば鈍する」の意味を解説するとともに、具体的な使い方を例文をまじえて紹介します。あわせて類語・対義語、英語表現も解説しましょう。

「貧すれば鈍する」の意味とは?

意味は「貧乏になると利口な人でも愚かになる」

「貧すれば鈍する(ひんすればどんする)」とは、「人は貧乏になると、利口な人でも愚かになる」ことを表します。

「貧すれば鈍する」は、生活の貧しさやゆとりのなさが本来の人の能力に悪い影響を与えることを示唆することわざです。警句的に使われたり、そのような状況を端的に言い表すために使われたりします。

「貧しさが心の貧しさを生む」という比喩

「貧する」の「貧」とは「まずしい」という意味で、「鈍する」の「鈍」とは「頭の働きがにぶい」という意味です。

しかし、「貧すれば鈍する」は「貧しくなれば頭の働きがにぶくなる」という字義通りの意味ではなく、物質的な貧しさは心の貧しさを生むという意味を比喩的に伝えるものです。

「貧すれば鈍する」は現実を言語化したリアリズム

「貧すれば鈍する」は、貧しさが悪であるとか、貧乏を否定する考え方を示すものではなく、物質的な貧しさは心の貧しさを生むという現実を言語化した、リアリズムであるといえます。

その意味では、「貧すれば鈍する」となった実例を身近で探すことは容易であるでしょう。

「貧すれば鈍する」の使い方と例文

「貧しさから愚かな行為をした人」に対して使う

「貧すれば鈍する」は、経済的な貧しさに追い詰められて、愚かな行為をしてしまった人に対して、その愚かな行為の原因は「貧」にあるという原因と結果を一言で言い表す際に使われます。

たとえば、本来は善良な市民であった人が、経済的な貧しさが原因となって反社会的な行動をとってしまったような出来事などです。

例文

十分な賃金が支払われないことに怒りを爆発させた従業員が略奪行為を働いた。貧すれば鈍するである。

「経済的な貧困は心の貧しさを生むこと」を表す

「貧すれば鈍する」は、経済的な貧困が心の貧しさを生み出すという現実を端的に表すときに使われます。

例文

彼は収入が激減したことで生活がすさみ、人間が変わってしまった。貧すれば鈍するというが、現実は残酷だ。

ビジネスシーンでは経済活動の比喩として使われる

「貧すれば鈍する」は、会社の業績の悪化が原因となって不正を働いたというような事件や、経済の悪化に起因する社会問題についてのビジネス記事などにおいても使われます。

例文
  • 業績の悪化に苦しんでいたA社は、データの改ざんが常態化していた。まさに貧すれば鈍するである。
  • 「貧すれば鈍する」というが、経済の凋落にともなって若者の知力が低下しているとささやかれている。

「貧すれば鈍する」の類語や反対語とは?

「衣食足りて礼節を知る」は類語でも反対語でもある

「衣食足りて礼節を知る(いしょくたりてれいせつをしる)」とは、「生活に余裕ができることで人は初めて礼儀や節度をわきまえられる」という意味のことわざです。

「生活に余裕がなくなると、愚かな行為をしてしまう」という意味の「貧すれば鈍する」の逆の意味を持つことわざです。しかし、表現が違うだけで、生活のゆとりが根本にあって心のゆとりが生まれるとする根本的な意味は両者とも共通しています

そういった意味では、「貧すれば鈍する」は、「衣食足りて礼節を知る」とは別の角度からゆとりのある生活の大切さを説くことわざだといえます。

例文

「貧すれば鈍する」に陥らないよう経済的に自立することが、やがて「衣食足りて礼節を知る」につながるだろう。

「貧すれば鈍する」の反対語「窮すれば通ず」

「窮すれば通ず(きゅうすればつうず)」とは、どうにもならない最悪の事態になるとかえって活路が開けるものだという意味のことわざです。

「貧すれば鈍する」とは反対の意味となることや、音の運びが似ていることもあり、双方を並べて対比的も使われることもあります。

例文

コロナ禍で「貧すれば鈍する」の状況だった外食チェーンのB社は、思い切った業態変更が功を奏している。「窮すれば通ず」である。

「清貧」は貧しさを肯定する思想

「貧すれば鈍する」とは、生活の余裕がなくなることが人の倫理観や精神に与える悪影響を示唆することわざですが、貧しさを否定する意味があるわけではありません。生活の貧しさが心の貧しさを生むことがあるという現実に目を向けた表現であり、貧しさに対しては肯定も否定もしていないといえます。

それとは違った視点で、貧しさを肯定するのが「清貧(せいひん)」という言葉または思想です。「清貧」とは、富を求めず、お金とは縁の遠い生活に安んじるという意味です。物質的な貧しさが豊かな人間性をはぐくむという視点で貧しさを捉えるものです。この考え方の根底には、富やお金は悪であり、貧は善(清い)という思想があります。

つまり、富を求めることは悪であるという考え方でもあるため、「貧すれば鈍する」とは逆の考え方であるといえます。同じような考え方に「足るを知る」もあります。しかし「貧すれば鈍する」は思想ではなく、一種のリアリズムであることから、「貧すれば鈍する」の対義語が「清貧」となるわけではありません。

「貧すれば鈍する」の英語表現は?

「貧すれば鈍する」は英語で「Poverty dulls the wit.」

「貧すれば鈍する」と同じ意味のことわざが英語にもあります。「Poverty dulls the wit.」と表現します。「poverty」とは「貧乏、貧困」という意味で、「wit」は「知力、思考力」という意味です。そして、「鈍くする、鈍らせる」という意味の「dull」で「貧すれば鈍する」(貧困は知力を鈍らせる)となります。

「mind」や「conscience」を使う英語訳も

他にも「貧すれば鈍する」の英語訳は、「Poverty dulls one’s mind.」「Poverty dulls the conscience.」とも表現されます。「mind」とは「知性、知力」、「conscience」は「良心」という意味です。

まとめ

「貧すれば鈍する」は、その字義どおり「貧しさが愚かさを生む」という意味のことわざで、人間が陥りがちな現実を表現しています。貧乏を悪ととらえたり、貧しさを否定するような思想や考え方ではなく、そのような現実があるという警句的な要素をもつ表現です。