「馬子にも衣装」ということわざに対して、「馬子とは?孫にも衣装では?」と思った人もいるかもしれません。読みは同じですが「孫にも衣装」という表記は誤用です。また、褒め言葉としては使えないことわざ・慣用句であることを知らない人も多いようです。
「馬子にも衣装」の意味や類語・反対語を確認していきましょう。また、褒め言葉にする場合の言い換え方もご紹介します。
「馬子にも衣装」の意味と由来
意味は「つまらない人でも着飾れば立派に見える」
「馬子(まご)にも衣装」の意味は「つまらない人でも着飾れば立派に見える」です。「馬子にも衣装髪かたち」と使うこともあります。
「つまらない人でも」に注視したネガティブな意味合いが強いことわざ・慣用句になります。ただし「立派な衣装が似合っている」「努力すれば見た目の印象を変えられる」などのポジティブな言葉だと勘違いしている人が増えているようです。本来はそのような意味は持ちませんので注意しましょう。
「馬子」とは「馬を引いて物を運ぶ仕事をする人」
「馬子(まご)」とは「馬を引いて人や荷物を運ぶ仕事をする人」です。「馬追い(うまおい)」「馬方(うまかた)」とも呼ばれます。中世後期頃は専業にしている人も多かったようですが、現在では馬で荷物を運ぶことはほとんどありません。なお、馬車を使う場合は「御者(ぎょしゃ)」と呼ばれて区別されます。
身分制度が厳しかった頃は、社会的身分が低い人の仕事だとされていました。また、馬を引いて長距離を歩くことから、服が汚れることが多かったようです。
由来は「馬子も良い衣装を着ると立派に見えること」
「馬子にも衣装」ということわざ・慣用句の由来は「普段は粗末な服を着ている馬子も、良い衣装を着ると立派に見える」だと言われています。
先ほど説明したように、当時の馬子は身分が低いため立派な着物を買う余裕がなかったと考えられます。また、仕事中は服がすぐ汚れるため、汚れても構わない粗末な服を着ていたようです。そんな馬子が、立派な羽織袴を着ると立派に見えたことが、由来になっています。
「馬子にも衣装」の使い方と例文
「馬子にも衣装」は自分や身内への謙遜として使う
「馬子にも衣装」は自分や身内を対象にする謙遜表現として使用します。自分から伝えるだけでなく、誰かに褒められた際の返事に「いえいえ。馬子にも衣装です」と使用可能です。
なお、身内に使う場合は、言われた本人の気持ちに配慮が必要な場面もあります。例えば、親が自分のおしゃれを「馬子にも衣装」だと言っていることを子どもが知ったら、ショックを受けるかもしれません。謙遜ではなく、本気で貶されていると勘違いすることがあり得るからです。
「馬子にも衣装」の謙遜表現としての例文
- 「土曜日なら空いてるけど、どうしたの?」
「合コンに着ていく服を一緒に選んでほしいんだ。馬子にも衣装って言うし、私でも人気者になれるかもしれないでしょう?」 - 「久しぶりにお会いしましたが、息子さんはとてもご立派になりましたね」
「いえいえ。今日は馬子にも衣装ですよ」
親しい相手に限れば照れ隠しや冗談として使える
「馬子にも衣装」は素直に誉められないときの照れ隠しや冗談として使われることもあります。基本的にはネガティブな表現のため、誤解される恐れのない親しい相手だけに使うようにしましょう。誤解された際にすぐにフォローできないメールやSNSで使う場合は、特に注意する必要があります。
「馬子にも衣裳」の照れ隠し・冗談としての例文
- 「成人式の写真が出てきたんだ」「きれいだね。馬子にも衣装ってやつかな」
- タキシードを着た彼に見惚れてしまったが、恥ずかしくて素直に誉められず「馬子にも衣装だね」と言ってしまった。
- 馬子にも衣装と言うし、あんたでも着飾ればそこそこになるわよ。諦めないでちゃんとおしゃれしなさい。
「馬子にも衣装」を使うときの注意点
「馬子にも衣装」は褒め言葉には向いていない
「馬子にも衣装」はネガティブなニュアンスの言葉のため、褒め言葉には向きません。他人に使った場合、怒らせたり悲しませたりしてしまう可能性があります。
「立派な服を着て見栄えが良い」「努力が実ってきれいになった」などの誉め言葉だと誤解する人が増えていますが、それを前提にして使用するのは避けた方が無難です。誤解が広がっていることを相手が知らないこともあり得るためです。言葉の意味は時代とともに変わっていくものですが、「馬子にも衣裳」が褒め言葉として安定して使えるとはまだ言えません。
褒め言葉に言い換える場合は「見違える」
誤用を避けて褒め言葉に言い換えたい場合は「見違える」が良いでしょう。「見たときに他の人・ものかと思う」という意味です。「他の人かと思うほど(良い意味で)違って見える」というニュアンスで使います。「見違えるほど」「見違えるように」と、比喩のように使うこともあります。
- ドレスを着ると、やっぱ違うね。見違えたよ。
- タキシードを着た彼は、見違えるほどかっこよかった。
読み方が同じ「孫」と混同すると誤用につながる
「馬子」と読み方が同じ「孫」には注意が必要です。混同して「孫にも衣装」と誤用してしまう可能性があります。同じアクセントで発音する人が多いため、聞いただけでは同じ言葉に聞こえてしまうのが混同の原因かもしれません。本来のアクセントは「馬子」は「ま」、「孫」は「ご」です。しかし、実際にはどちらもアクセントを「ご」にしている人が多くいます。
「孫にも衣装」だと勘違いして「孫はなにを着ても可愛い」や「大切な孫に服を贈る」という意味だと思っている人もいるようです。本来の意味と大きく違うため、勘違いして使用するとトラブルの元になる可能性があります。
「馬子にも衣装」の類語・反対語
「馬子にも衣装」の類語は「鬼瓦にも化粧」
「馬子にも衣装」の言い換えに使えることわざは「鬼瓦(おにがわら)にも化粧」です。「容姿が悪くても、化粧すれば美しくなること」を意味します。
「鬼瓦」とは、屋根の端に設置する、飾りとしての役割も兼ねる瓦です。一般的には鬼の装飾がなくても「鬼瓦」と呼びます。ただし、この言葉にでてくるのは、魔除けとして鬼の顔が彫られた鬼瓦です。「鬼瓦のように恐ろしい容姿の人でも、化粧すれば美しく見える」ことを表現しています。
反対語は「馬子に褞袍」「君飾らざれば臣敬わず」
「馬子にも衣装」の反対語のことわざ・慣用句は「馬子に褞袍」です。「褞袍」は「どてら」か「わんぼう」と読みます。「物事や現状が、その人の身分・能力にふさわしいこと」を例える表現です。直接的には「馬子には褞袍のような粗末な服が相応しい」を意味します。
「君飾らざれば臣敬わず」も反対語と言えます。衣装によって人の見栄えが変わることに注視した反対語です。「身分が高くても、粗末な服では下品に見えて誰も敬わない」という意味です。
「豚に真珠」も反対語に近い
「豚に真珠」も「馬子にも衣装」の反対語に近いことわざです。意味は「価値がわからない人には、貴重なものでも無意味である」です。「馬子にも衣装」は貴重なもの(立派な衣装)を役立てていることわざのため、反対の意味になっています。
ただし「豚に真珠」は「価値が分からない人」、「馬子にも衣装」は「つまらない人」と、対象のニュアンスに違いがあります。
まとめ
「馬子にも衣装」は「つまらない人でも着飾れば立派に見える」という意味のことわざです。「つまらない人」が意味の中心になるネガティブな言葉で、基本的には謙遜に使われます。
誉め言葉だと勘違いする人も多いようです。言葉の意味は時代の中で変わることもありますが、今はまだ誤用だとされています。正しく使うようにしましょう。