「憎まれっ子世に憚る」とは?理不尽な意味での表現や類語・例文も

「憎まれっ子世に憚る」は、いろはかるたでも知られることわざの一つです。一般的に「憎まれ者ほど世渡りが上手」という理不尽な意味で使われますが、「憚る」にはどのような意味があるのでしょうか?ここでは、なぜ憎まれっ子が世に憚るのか?という点にも触れながら紹介します。

「憎まれっ子世に憚る」の意味とは?

「憎まれっ子世に憚る」とは憎まれ者ほど世渡り上手

「憎まれっ子世に憚る」とは「他人から憎まれている人ほど、世間で上手にやっていける」という意味があります。つまり、周囲から嫌われたり、避けられるような人の方が、世の中を上手に渡っていくことができる、ということを表すことわざです。

世の中には、人に好かれて良好な人間関係を保てる人もいれば、逆に人から嫌われたり、怪訝な感情を持たれる「憎まれっ子」がいます。「憎まれっ子世に憚る」とは、理不尽にも周囲から憎まれるような人ほど、悠然と堂々と生きているものであることを示すことわざです。

「憚る」とは幅を利かすという意味

「憎まれっ子世に憚る」の「憚る」には「幅を利かす」「蔓延る(はびこる)」という意味があります。そもそも「憚る」とは、「人目を憚る」というように、「ためらう」「遠慮する」という意味を持つ言葉です。しかし、「はばかる」という発音が「幅を利かす」「蔓延る」という言葉に似ているため、そのような意味で長い間、誤用されてきました。

すでに、鎌倉時代の「平家物語」でも「幅を利かせる」「蔓延る」という意味で使われており、その後、誤用での意味が定着し現在に至ると考えられています。つまり「憚る」には「ためらう、遠慮する」、そして「幅を利かせる、蔓延る」の、2つの異なる意味があるということになります。

「憎まれっ子世に憚る」の別の言い回し

「憎まれっ子世に憚る」は、同じ意味でいくつかの別の言い方が存在します。「憎まれっ子世に憚る」は、いろはかるたの読み札「に」で使われていますが、京いろはかるたの読み札では「憎まれっ子頭堅し(かみかたし)」、または「憎まれっ子神直し(かみなおし)」という言い回しを使っています。

また、その他「憎まれ子(にくまれご)国にはびこる」「憎まれ子(にくまれご)世に出る」などの言い回しもあります。それぞれ言い方が異なりますが、これらが意味するところは「憎まれっ子世に憚る」と同じです。

「憎まれっ子世に憚る」のはなぜ?

理由1:他人に共鳴せず淡々と生きているから

なぜ、憎まれっ子の方が世渡り上手なのか?不思議に思う人もいるでしょう。何とも理不尽なことわざですが、それには理由があります。

憎まれっ子とは他人に共鳴したり、周囲の圧力に負けたりせず淡々と生きている場合が多いと言えます。他人に憎まれても、相手や周囲とペースや意見を合わせたりしないため、着実に自分が目指すゴールにたどり着くことができます。

理由2:芯が強いため成功することが多い

憎まれっ子は芯が強く、自分の考えや意思を曲げたりもしません。やりたいように物事を進めていく頑固の性質だからこそ、周囲に「憎まれ口」を叩かれるのでしょう。そうは言うものの、世間で幅を利かせ、上手に世渡りをしているのは「よい子」ではなく「憎まれっ子」の方なのです。

職場で出世するのも、世の中で成功を収めるのも、ある意味で周囲の意見に流されない意志の強さがあってこそだと言えます。

「憎まれっ子世に憚る」の使い方と例文

「憎まれっ子世に憚る」を理不尽の象徴や嫉妬の意味で使う

「憎まれっ子世に憚る」とは、非常に理不尽なことわざでもあります。嫌われ者が世間で成功したり、ストレスなく上手に世間を渡っていくとは何とも皮肉なことです。

「憎まれっ子世に憚る」は理不尽な有様に「なぜ?」という疑問の感情をもって使われます。そして多くの場合、嫉妬や皮肉などの捻じれた感情を伴います。つまり、理不尽の象徴や嫉妬・皮肉の意味で使われるのが「憎まれっ子世に憚る」となります。

例文
  • なぜ、人の批判ばかりしている芸能人が政界入りを果たすの?憎まれっ子世に憚るとは、まさにこのことでしょう。
  • 憎まれっ子世に憚るって言うじゃない?わがまま放題の姉が、30代で支店長に就任するなんて信じられないわ。

「憎まれっ子世に憚る」を肯定的に使うことも

「憎まれっ子世に憚る」を肯定的に使うこともあります。たとえば、職場で出世をする人や、上司と上手くやっていける人というのは、多少なりともずる賢い部分があったり、憎たらしいくらい世渡りのコツを心得ていたりするものです。

そういった人を「賢い」「世渡りの仕組みを心得ている」と肯定的に評価する時に、ちょっとした称賛の感情を交えて「憎まれっ子世に憚る」という表現を使うことがあります。

例文
  • 彼は新人の身分で先輩の言うことを聞かない。しかし、憎まれっ子世に憚るという言うように、成績は社内でトップクラスだ。
  • 憎まれっ子世に憚るとは言わないが、頑固者の父が一代で会社を築いたのは尊敬すべきだ。

「憎まれっ子世に憚る」の類語・類義語とは?

「渋柿の長持ち」とは取り柄がない人ほど長生きする

「渋柿の長持ち」とは、「取り柄がない人ほど長生きする」という意味があります。「渋柿」は、たとえ熟しても収穫されず、いつまでも枝に残っています。つまり「渋柿」を「取り柄のない人」または「憎まれ者」、「長持ち」を「長生き」にたとえたことわざが「渋柿の長持ち」です。

「渋柿」は甘くて美味しい柿に比べても、圧倒的に負の条件を多く背負っています。それがかえって長く枝に残る秘訣でもあることから、嫌われ者という悪条件の中でも、実際は上手に世間を渡っていくものだ、という意味で使われます。

「憎まれっ子世に憚る」と近いニュアンスがありますが、多くの場合は相手への嫉妬や皮肉の念を込めて用いられます。

「悪い奴ほどよく眠る」とは悪人ほど罰を受けず淡々と生きる

「悪い奴ほどよく眠る」とは、「真の悪人ほど罪や罰を逃れて、淡々と生きるものである」という意味のことわざです。「正直者は馬鹿を見る」とは逆に、悪い人というのは人をだましたり、嘘をついたりしても、捕まる心配をするどころか、ぐうぐうとよく寝る、ということを皮肉ってたとえています。

つまり、罪や悪いことをしても知らんぷりで、骨太な性質をもつと言った意味で使われるのが「悪い奴ほどよく眠る」となります。

「憎まれっ子世に憚る」と異なるのは、「罪の意識がなく、のうのうとしている」という、根性の座った性格的な部分を主に示している点です。

「雑草は早く伸びる」とは嫌われ者ほど出世する

「雑草は早く伸びる」は「嫌われ者や憎まれ者に限って、早く出世する」という意味を持ちます。「雑草」を「嫌われ者」、「早く伸びる」を「早く出征する」ことにたとえた、皮肉と焼きもちを秘めたことわざです。

たとえば、高学歴を保持している人とそうでない人では、根性や威勢が雲泥の差であることが多いです。学歴で負けている人は持ち前のハングリー精神でエリートを追い越し、早々と出世を決めることもあります。そのような有様を「雑草は早く伸びる」と言います。

「憎まれっ子世に憚る」の英語フレーズとは?

「憎まれっ子世に憚る」は英語で「ill weeds grow fast」

「憎まれっ子世に憚る」は「ill weeds grow fast=邪魔な雑草はよく伸びる」というフレーズで言い表すことができます。

英語圏では嫌われ者や厄介者を「ill weeds」にたとえて表現します。それに「grow fast(早く成長する)」を付ければ「憎まれっ子世に憚る」という意味合いで使うことができます。

例文

He is the one who deserves to be called “ ill weeds grow fast”
彼こそ、憎まれっ子世に憚るに相応しい人物だ。

「The more knave, the better luck」という英語訳も

「憎まれっ子世に憚る」は「The more knave, the better luck」というフレーズでも適切に表現することができます。

「knave(ネイブ)」とは、「悪党」や「信用できない人間」という意味です。つまり「悪党ほど、幸運に恵まれている」という意味になります。

例文

The young generation stand by the gang people. Is this about the more knave, the better luck?
ギャングが若者層からの支持を集めているが、憎まれっ子世に憚るとはこのことなの?

まとめ

「憎まれっ子世に憚る」とは「人に嫌われたり、憎まれるような人ほど、世渡りが上手である」という意味のことわざです。「憎まれっ子世に憚る」の「憚る」は、もともと「ためらう」「遠慮する」という意味を持ちますが、発音が似ていることから「幅を利かす」「蔓延る(はびこる)」と誤用され、そのまま意味が定着した言葉でもあります。