ときどき耳にする「みなし残業」という言葉。お互いにメリットのある制度でもありますが、残業代の未払いなどの違法行為が隠されていることもあります。今回は、「みなし残業」とは何かと、違法かどうかを確認する計算方法を紹介します。残業時間の上限なども確認して、正しい残業代をもらいましょう。
「みなし残業」とは?
「みなし残業」とは”みなし労働時間制のこと”
「みなし労働時間制」とは、”労働者と会社の合意で決めた時間を1日の労働時間とみなす制度のこと”です。みなし労働時間制は、誰でも使える制度ではなく、使える職種が限られており、事前に労使協定も必要です。
法定労働時間を超えた労働時間が残業になります。例えば、合意で決めた時間が1日9時間であれば、法定労働時間である8時間を超えた1時間分が「みなし残業」です。
「みなし残業」には2種類ある
「みなし残業」は、法律で決められた専門用語ではありません。一般的に会話で「みなし残業」と言う場合には、2つの意味のどちらかになります。
1つ目の意味は、「みなし労働時間制」を使って行った残業を指す「みなし残業」です。もう1つの意味は、「固定残業代」で残業した場合に使う「みなし残業」です。
「固定残業代」の「みなし残業」
「固定残業代」とは、月々の残業代が固定になっている会社の制度です。例えば、固定残業代が月5万円と決まっていれば、残業をしてもしなくても月5万円の残業代をもらうことができます。
「固定残業代」を決めるときには、残業時間の予想と、社員の給料を時給換算した金額で決めることが多いです。例えば、月の残業時間は20時間以内と予想され、社員の給料を時給換算して割増賃金を加えたときに2500円だった場合、20時間と2500円を掛け算して、月5万円の固定残業代になります。
月20時間残業したものとみなして残業代を支払うことから、「みなし残業」と呼ばれています。
「みなし残業」の落とし穴とは?
残業代が支払われているかどうか計算してみましょう。
「みなし残業」で損をしないために!自分の仕事を時給換算する
1時間の残業代がいくらかを把握しなければ、残業代がきちんと支払われているのかを確認することは難しいでしょう。そのために、自分の仕事を「時給」に換算します。
まずは月に何時間働くことになっているのかを確認しましょう。就業規則に書かれていることもありますので確認してください。就業規則に月の労働時間が書かれていない場合は、年間休日日数や、所定労働時間などから平均値を計算します。
- 1ヶ月に働く時間の計算例
年間休日日数122日、所定労働時間8時間の場合
年間出勤する日数243日(1年365日-休日122日)
年間働く時間1944時間(日数243日×1日8時間)
1ヶ月に働く時間162時間(年間1944時間÷12ヶ月)
次に、月に支払われた金額から通勤手当、住居手当、家族手当、臨時で支払われた給料を引きます。この金額を月の労働時間で割った金額が、「時給」です。
- 月給を時給換算する計算例
基本給243,000円、通勤手当1万円、その他手当なし、1ヶ月の勤務時間162時間の場合
243,000円÷162時間=時給1,500円
「みなし残業」よりも実際の残業代の方が高くないか計算
残業時間から、正しい残業代を計算してみましょう。もらっている「みなし残業」の残業代よりも高ければ、違法です。足りない残業代を請求できます。
残業代は、2割5分の割増賃金になります。さらに、月の残業時間が60時間を超えている一定の企業では、60時間を超えた分の割増賃金は5割です。2割5分の場合は、時給に1.25をかけた額が1時間の残業代です。例えば、時給1,500円の割増賃金は1,875円です。残業時間が月10時間であれば、1,875円に10時間をかけて、18,750円です。
- 残業代の計算式
時給×1.25×残業時間 - 月の残業時間が60時間を超えた場合の計算式
時給×1.5×60時間を超えた残業時間 + 時給×1.25×60時間
「みなし残業」の残業代をもとに残業時間の上限を計算する方法
残業時間から残業代を計算するのとは反対に、もらっている固定残業代から、残業時間の上限を計算できます。
- 残業時間の上限、計算例
固定残業代37,500円、時給1,500円の場合
固定残業代37,500円÷割増賃金率1.25÷時給1,500円=20時間
つまり、20時間までは残業代が支払われていますので、残業時間の上限は20時間です。超えた場合には、追加で残業代の支払いが必要です。
「みなし残業」のメリットとは?
会社における「みなし残業」のメリットは給料計算が少し簡単になること
「みなし労働時間制」でも「固定残業代」でも、会社は毎月決まった金額の残業代を支払うため、毎月計算するよりも給料計算が簡単になります。零細企業などでは、事務の人の負担を減らすために「固定残業代」にしていることが多いです。
ただし、正しい残業時間を確認し、残業時間が多い場合や、休日出勤・深夜勤務があった場合には、計算しなおす必要があります。
社員における「みなし残業」のメリットは残業しないと得をすること
「みなし残業」は、残業をしてもしなくても、一定額の残業代をもらうことができるため、仕事を早く終わらすことができれば、実際の残業代よりも多い残業代をもらえます。
例えば、月20時間を「みなし残業」として残業代を支払うことになっている場合、残業しなくても20時間分の残業代をもらうことができます。逆に20時間以上残業をした場合には、会社から追加の残業代をもらうことができますので、社員にとってメリットもある制度です。
「みなし残業」は違法?
「みなし残業」には違法が隠れていることが多い
「みなし残業」は、「みなし」と書かれているため、きちんと残業代を支払っていない違法な行為だと考える方もいらっしゃいますが、必ずしも違法ではありません。社員にとって、実際に働いた残業時間よりも多い残業代をもらえる場合は、合法です。
しかし、「みなし労働時間制」でも「固定残業代」でも、違法な残業が隠されていることが多いのも事実です。
労働時間を把握していないのは違法
「みなし労働時間制」では、決められた残業時間を「みなし残業」としているため、わざわざ本当に働いている時間を記録しなくてもいいと、誤解されていることも多いです。
会社には労働時間を把握する義務がありますので、社員の労働時間を把握しないのは違法です。確かに、残業代の支払いは「みなし残業」の分のみとなりますが、休日出勤や深夜勤務の割増賃金は別に支払う必要があります。
会社が労働時間を把握していないときには、きちんと給料が支払われていない可能性もあるので注意しましょう。
残業代がきちんと支払われていないのは違法
「固定残業代」では、残業代がきちんと支払われていないこともあります。例えば、月の残業時間を20時間以内と予想し、割増賃金を加えた時給が2500円の人に月5万円の固定残業代を支払っていたとします。
この条件で、月の残業時間が20時間を超えたときには、会社は超えた分の残業代を支払わなければなりません。「固定残業代」の方は、もらっている固定残業代が月何時間分のものなのかを把握したおいた方がよいでしょう。
まとめ
「みなし残業」には、「みなし労働時間制」のみなし残業と、「固定残業代」のみなし残業の2種類あります。どちらも、残業したものとみなしてお給料が支払われるという点では同じです。「みなし残業」は違法にはなりませんが、労働時間を把握していない、残業代をきちんと支払っていないなどの違法行為が隠されていることもありますので、注意が必要です。「みなし残業」をしている方は、自分の残業代を計算して、正しい残業代を受け取りましょう。