新聞などの政治欄を読んでいると、時々目にする「内憂外患」という言葉。「内憂外患こもごも至る」のように使われることが多いのですが、それはどのような意味で、どのような状況なのでしょうか。
今回は、「内憂外患」の意味や語源、内憂外患と呼ばれた時代のことと併せて、内憂外患の使い方や類語も紹介します。
「内憂外患」とは?
「内憂外患」の意味は”国内と同時に国外からも心配事がもたらされること”
四字熟語「内憂外患」の意味は、“国内の心配事と同時に国外からも心配事がもたらされること”です。読み方は、「ないゆうがいかん」です。
「内憂」とは「国や組織などの心配事」という意味で、「外患」とは「外国や外部からの問題」で特に「圧迫や攻撃などを受ける恐れ」という意味です。
「内憂外患」と表現される状況
「内憂外患」と表現される状況とは、政治ならば「国政問題と外交問題の両方で苦戦している」といった状況です。
現在の日本で例えるならば、消費税増税に与野党の対立という国政と並行して、日韓外交やアメリカとの関税問題などが起きているといった苦境の事態のことを表します。
「内憂外患」の語源は范文子(はんぶんし)の発言
「内憂外患」の語源は中国史の575年、晋と楚の間で起こった「鄢陵(えんりょう)の戦い」でのこと、晋に仕えていた范文子が「外からの問題がなくなれば国政に問題が出てくるので、あえて楚を外の心配事として残しておいて国内の団結に役立てよう」と意味することを語った中で、「内憂外患」の元となる言葉「内外無患」という言葉が使われました。
ただ「内外無患」とは「国内外に問題がない」という意味なのですが、実際は違います。「国内にも外にも問題がある」という状況ですから、後々に「内憂外患」という言葉に変化しました。
尚、その出典元は『春秋左氏伝』(しゅんじゅうさしでん)の成公一六年です。
「内憂外患こもごも至る」とは?「内憂外患」の使い方
「内憂外患こもごも至る」は”国内外で問題があること”という意味
「内憂外患こもごも至る」とは「国内外で心配事が続けざまに起こること」を意味します。
「こもごも」を「交々」と漢字で書くこともあります。
例文:「国政では消費税増税問題があり、また目を外に向ければ日韓関係もあり、内憂外患こもごも至る」
「内憂外患の時代」と言えば今も昔も
江戸時代は徳川家慶が将軍だったころの治世を「内憂外患の時代」などと言いますが、現代も内政と外交が混とんとしている状況ですから「内憂外患の時代」ということができるかもしれません。
政治状況を表す「内憂外患」
国内情勢と海外での問題とが同時に押し寄せてくるような状況を「内憂外患」と言いますので、「内憂外患」はそうした状況で悪戦苦闘している政治家について解説するときによく使われます。
例文:
- 「首相は内憂外患に立ち向かう」
- 「首相は内憂外患で身動きが取れない」
- 「内憂外患の状況に国民の不満が募ると、政治家は隣国批判を始めた」
会社の状況を語る上でも使われる「内憂外患」
会社が社内問題に社外問題の両方に苦しんでいる状況にも「内憂外患」が用いられます。
例文:「社員はどんどん辞めていくし取引きもうまくいかない。まさに内憂外患だ」
家庭の状況にも「内憂外患」
「内憂外患」の「内」を「国内」、「外」を「外国」という意味で扱われること多いですが、その一方で「内」を「家庭」、「外」を「世間や社会」という意味でとらえて「内憂外患」を使うこともできます。
「内憂外患」を「家庭での内輪の心配事と外部からたらされた災難や心配事」という意味で使われます。
例文:「息子はニートで、主人の会社は不景気で給料は上がらない。内憂外患って言うのはこういうことよ」
「内憂外患」の類語と対義語とは?
「内憂外患」の類語は”内患外禍”や”内患外憂”など
- 「内患外禍(ないかんがいか)」・「内患外憂」(ないかんがいゆう)
「内憂外患」と同義で、「国内と国外の災い」という意味です。
「内憂外患」の対義語は”天下泰平”や”内平外成”など
- 天下泰平(てんかたいへい):
世の中が治まり、安泰している状態のこと。
- 地平天成(ちへいてんせい):
世の中が平穏で、万物が栄えて天地が治まっている状態。
- 内平外成(ないへいがいせい):
世の中が平穏の意味ですが、とくに国内情勢がよく、周辺諸国との関係も良好の状態。
日本史に見る「内憂外患の時代」とは?
江戸時代の「内憂外患の時代」
江戸時代は徳川家慶(とくがわいえよし)が治世を納めていた時代を「内憂外患の時代」と呼びます。
江戸時代の後期は、財政は悪化して、武士は困窮し、都市生活の退廃以上に農村も廃れ、米価が高騰して大塩平八郎の乱を招くなど、政治情勢は不安定でした。
そこに黒船の来航など国外から切迫する事態が起き、まさに「内憂外患」といった状態でした。
徳川家慶に宛てた徳川斉昭の手紙
水戸藩主だった徳川斉昭(とくがわなりあき)は家慶に、当時の内憂外患の状況を伝えるために政治意見書「戊戌封事」(ぼじゅつふうじ)を送りました。これを通して斉昭は幕府に改革の必要性を訴えますが、家慶は聞き入れず斉昭に隠居を命じます。
この意見書こそ内憂外患の内憂が記述されていた書と言えます。
天保の改革は一足遅い政治改革だった
徳川家慶は内政を正常化するため「天保の改革」(てんぽうのかいかく)を行います。
質素倹約を指示し、農村の人口を増やすための「人返し」、株仲間を解散して物価の引き下げや印旗沼(いんばぬま)の開発などの対策に講じますが、大名や旗本の抵抗に受けて指揮を執っていた水野忠邦が失脚し、天保の改革は失敗します。
当時の「内憂」を解消するために行われた天保の改革は少々遅すぎた改革だったようです。
「内憂外患」の英語表現とは?
「内憂外患」は英語で”troubles at home and abroad”
英語で「内憂外患」を表現すると、国内外で問題が起きているの直訳となり「troubles at home and abroad」や「internal and external troubles」となります。
例文:“We are faced with troubles at home and abroad.”「私たちは内憂外患に直面している」
まとめ
「内憂外患」とは国の中と外の両方で問題があり、情勢が落ち着いていない状態を指します。国以外にも、家庭などの小さなスケールでも使われます。
現在の日本の情勢を語るうえで欠かせない用語のひとつですから、覚えておきたい四字熟語でしょう。