「唯物論」という言葉を耳にしたことがあるけれど、どの様な意味なのか、曖昧な方も多いのではないでしょうか。今回は、「唯物論」の意味や対義語となる「唯心論」について、また唯物論と似た言葉「観念論」との違いについてもわかりやすく解説します。
「唯物論」とは?
「唯物論」の意味は”存在するものはすべて物質的だとする考え”
「唯物論」の意味は、“存在するものはすべて物質的だとする考え”です。私たちが生きている世界はなにからできているのかと考えていってたどり着いた答えが「物質」だとしたのが「唯物論」です。
現象や感覚として捉えられる精神が世界を作っているわけがなく、私たちの世界は物質によってできているというのが唯物論の主張です。
「唯物論」の”物質”意味は目に見えるもの
「「唯物論」で説かれている「物質」とは「目に見えるもの」のことです。
どの物質で世界ができているのかは哲学者によって違いますが、何か目に見えるものによって世界ができているというのは間違いないという考え方です。
物質に対して精神や心など目に見えないものは、唯物論では物質から生まれてきた現象というように現象学的に考えます。
英語で「唯物論」は”materialism”
「唯物論」は英語で「materialism」(マテリアリズム)です。原語となるのがラテン語の「materia」で「素材」や「質量」といった意味があります。
また「materia」自体もギリシア語の「母」を意味する言葉が由来だとされていて、物事の根源が物質だという考えがこうした言葉の成り立ちからも考えられます。
「唯物論」は18世紀に確立
唯物論の歴史は古く、古代インドや中国、ギリシャ哲学にも唯物論の基礎となる考え方がありました。その後、18世紀に入ってイギリスとフランスで唯物論が発展したのをきっかけに、マルクス主義において弁証法的唯物論として確立されました。
「唯物論」の反論「唯心論・観念論」との違いとは?
「唯物論」の反対の理論として「唯心論」と「観念論」の2つが挙げられます。それぞれの特徴と唯物論との違いを見ていきましょう。
「唯心論」は存在論上の対義語
「唯心論」とは「世界の根源は精神である」という立場を取った考え方で、世界の根源は物質だとする唯物論と対立します。「唯心論」は精神、つまり私たちの心こそすべての存在の源だとしています。
この唯心論の考え方によると、物質はその中でまだ精神が眠っているか無意識的に活動していると考えます。
唯心論の代表者には、プラトンやライプニッツ、ヘーゲルなどがいます。
「観念論」は認識論上の対義語
「観念論」とは物質に対立する「精神がすべての根源だとする考え方」で、認識論上では唯物論に対立する理論になります。
認識論とは私たちがどうして物事の意味を理解できるのかということを研究する哲学の一分野です。
その認識論の立場から「すべての根源は精神だ」という主張に至ったのが「観念論」です。
「観念論」と先に紹介した「唯心論」は混合される場合がよくあります。理由は、どちらとも物事の根源は精神だと主張しているためです。しかし、本質的にいうと、そこに行き着く過程には違いがあります。
「観念論」は精神を現象と捉えるのに対して、「唯心論」は精神をそこにあるという存在論的に説明します。ただ、唯心論が「心がここにある」と言ってもその証明が難しい理論のため、「唯心論」を「観念論」の理論で代用して解釈されることが多いのです。
正確には「観念論」は「唯物論」とは対立しない
観念論が唯物論の対義語だと説明しておきながら、実はそうではないという説明をこれから始めることになるのですが、なぜそのようなことになるかというと、まず一般的に観念論を唯物論の対義語だと捉える見方があるからです。観念論は世界の根源は精神だと主張し、唯物論は根源は物質だとしていて、ちょうど唯心論vs.唯物論と同じように見えるからです。
しかし唯物論の考え方にもう少し迫ってみると、唯物論の主張は「世界に存在するのは物質だけ」という存在論の立場から世界の根源を見出しているのに対して、観念論は存在論的には精神を説明していません。観念論は現象学から生まれた考え方です。そのため、唯物論と観念論を対立させることは本来はできません。
しかしエンゲルスが観念論と唯物論を対立させてからというもの、観念論と唯心論が混合してしまい、観念論も唯物論の対義語として扱われるようになっています。
「唯物論」の論者とは?
代表的な唯物論者はR.ベーコンやJ.ロック
唯物論者とは唯物論的立場に立つ人のことですが、17世紀のイギリスの唯物論者ならR.ベーコンやT.ホッブス、J.ロックや、18世紀のフランス唯物論者はD.ディドロやJ.ラ・メトリなどが挙げられます。
ドイツの唯物論者ではフォイエルバッハが有名
19世紀のドイツではフォイエルバッハが有名です。自然が世界の根源だとする唯物論を展開します。
また同じくドイツでは生理学の発展により、哲学の分野にも生理学的な考えが反映されて、思想も脳の分泌物だと考え方が出てきました。この考え方は「生物学的唯物論」と呼ばれ、K.フォークト、E.ヘッケルなどが代表的な思想家です。
マルクスやエンゲルスも唯物論者
マルクスとエンゲルスも唯物論者の一人で、フォイエルバッハの唯物論を継承しならがも批判し、ヘーゲルの弁証法を融合させた弁証法的唯物論を提唱します。
マルクスの唯物論は、物があるからそれを生み出すために労働があるとして、物質が私たちの世界の根源だと考えます。さらに歴史を唯物論的に理解する弁証法的唯物論により、唯物論の最終形と言われるところにまで発展させました。
まとめ
「唯物論」とは「世界の根源は物質」と説いた哲学的な一考察のことです。その物質が何かは哲学者によって主張が異なります。また精神は物質からの現象だと捉えました。対義語に観念論が挙げられることがありますが、唯心論だと答えておく方が哲学的には正しいです。