「推敲」という言葉の意味を知っていますか?今回は「推敲」の意味や読み方、使い方や例文などについて解説します。由来となった故事の漢文訳や「推敲の敲とは何なのか?」という疑問にもお答えします。類語や「推敲する」「推敲を重ねる」という言葉にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
「推敲」の読み方と意味
「推敲」の意味は”文章を作り直す”
「推敲」の意味は、“文章を作り直す”です。「推敲」という言葉は、文章や詩を作る場面に多く使われます。
主には出版業界や、文章を書くことを生業としている人々の間で使われる言葉ですが、ビジネスシーンでも使われることはあります。
契約書や企画書など、オフィシャルな場に提出する書類や、上司への報告書など身近な書面を正すことにも「推敲」が使われることはあるようです。
「推敲」の読み方は”すいこう”
「推敲」という漢字は「敲」の字に馴染みが薄いという方が多いようです。そのため、読み方に迷いやすいのですが、「推敲」は「すいこう」と読みます。
何かを前に押し出すという意味の「推」に、物に衝撃を与える「たたく(敲く)」で「推敲(すいこう)」です。
「推敲のこう」の意味は”たたく”
「推敲」という言葉を見たときに、「敲」の字の意味が気になるという人は多いかもしれません。この「敲」には、「手や棒を使って、何かに衝撃を与える」という意味があります。
一般的に「たたく」は「叩く」と書かれることが多いですが、どちらも「たたく」という意味では同じです。
ちなみに「叩く」は「たたく」の他に「はたく」とも読み、服についたホコリを叩く、有り金を叩く、などとも使いますが、「敲く」にはこのような使い方はありません。
「推敲」の由来・語源とは?
由来は中国の故事・逸話を集めた書
中国の唐の時代の故事や逸話を集めた「唐詩紀事(とうしきじ)」という書があります。この中に収められた、詩人「賈島(かとう)」の逸話が「推敲」の由来と言われています。
詩人である賈島は、自分が書いた詩の中にある「僧は推す、月下の門」という部分を、「推す」より「敲く」の方が良いのではないか、と迷いながら歩いていました。すると前方を歩いていた「韓愈(かんゆ)」という、有名な詩人にぶつかってしまいます。賈島は韓愈に「推」と「敲」について相談し、韓愈から「敲が良い」と言われました。
この逸話のタイトルが「推敲」であり、逸話の内容から「文章をより良くしようと考え続けること」を「推敲」というようになったそうです。
「推敲」の漢文訳
「推敲」は漢文で書かれている文章です。
この漢文を現代語に訳すと以下のようになります。
しかし、「推」より「敲」という文字の方が良いのではないかと悩んだ。手を動かして、推す動作と敲く動作をしてみたもののまだ決まらない。すると韓愈の列に突っ込んでしまった。
列に突っ込んでしまった理由を説明すると、韓愈は、「敲が良い。」と言った。そのまま二人は並んで詩についてしばらく論じた。」
「推敲」の使い方と例文・短文とは?
動詞と合わせて「推敲する」と使う
「推敲」は名詞です。そのため「する」という動詞と合わせて使うことで、推敲の動作を表すことができます。
- 「彼の書いた文章を推敲するのは本当に大変だ」
- 「自分で書いた文書を推敲したが、問題点が見つけられない」
- 「課長が推敲する文章は、とても読みやすくてわかりやすい」
「推敲する」の他にも「推敲している」で現在進行形、「推敲した」で過去形」、「推敲したい」で要望を表す、などさまざまな使い方をすることができます。
「推敲中・推敲力」で状態や素質を表す
「推敲」という言葉は名詞なので、「する」「した」などの動詞と合わせなければ意味が通じません。しかし「推敲中」「推敲力」など、「中」や「力」と一緒に使うことで、別の言葉として独立させることができます。
- 「例の文章は今推敲中だよ」
- 「彼が推敲中の文章は、どんな出来上がりになりそうですか」
- 「あなたの推敲力なら、素晴らしい文章になると確信しています」
- 「私の推敲力では及ばないかもしれませんが、精一杯取り組みます」
何度も練り直すことは「推敲を重ねる」
「推敲」という言葉は、それだけで「文章を何度も練り直す」という意味があります。しかし、その上で「推敲」よりも、もっと多くの練り直しを行った、または回数ではなく、大変苦心して文章を良くしようと努力した、という状況を表したい場合には「推敲を重ねる」という言い方をします。
- 「彼は推敲を重ねて、ここまで仕上げてきました」
- 「私は納得がいくまで、推敲を重ねました」
- 「クライアントに納得してもらえるまで、推敲を重ねるつもりです」
「推敲」の類語とは?
「推敲」の類語は”添削”や”修正”
「推敲」と似た意味を持つ言葉はたくさんあります。中でも、日常で使いやすいのは「添削」「修正」などでしょう。
「添削(てんさく)」とは「他人が書いた文章や回答などを加筆・修正すること」です。「推敲」は自分で書いた文章についても行えますが、「添削」は自分が書いた文章については使いません。しかし、文章を良くしようと練り直す、という意味では「推敲」と似た意味として使うことができます。
「修正」は、日常でも比較的身近な言葉です。文章だけでなく、物体や映像・画像などさまざまな対象について、手直しをする様子を表します。「推敲」や「添削」に比べると、大枠での手直しを指すことが多く、不十分な要素を大きく取り込んだり、不要な部分を取り除いたりすることも「修正」に含まれます。
「推敲」と”校正・校閲”の違い
「推敲」と似たシーンで使われる言葉に「校正(こうせい)」「校閲(こうえつ)」があります。どちらも出版関係で使われる言葉で、文章を良くするための行動です。
「校正」とは、文章の中の文字の誤りや、脱字などをチェックして、修正することです。どんな文章も、誤字脱字があると読み手が内容を正しく把握することができません。そのため、文章が出来上がった後、まず最初に「校正」を行って、最低限の誤りを除き、書いてかることがきちんとわかる状態にします。
「校閲」とは、文章の内容に誤りがないかを確認する作業です。内容の事実確認を行ったり、書いてあることに誤りや誤解されやすい表現がないかを探して修正します。「推敲」に比べると、論理的な作業で、言葉の誤りや文章力などに注目することはありません。あくまでも、その文章が「読者に読まれて問題がないものか」という視点で確認をします。
「推敲」の英語表現とは?
「推敲」は英語で”polish the wording”
「推敲」を英語で表すには、”rewrite(改めて再度書く)”を使うこともできますが、「推敲」が持つニュアンスとは多少異なります。
「推敲」の意味をできるだけ英語に近づけたい場合は「polish the wording」が良いかもしれません。「polish」とは「磨く」という意味で、「polish the wording」は直訳すると「文章を磨く」となります。
文章を磨くように、何度も練り上げるという意味で「polish the wording」を使うと、結果的に「推敲」と同じ意味を伝えることができます。
まとめ
「推敲」という言葉は、日頃文章を書かない方や、出版関係に携わっていない方にとっては、意味がわかりにくい言葉かもしれません。「推」と「敲」でなぜ「推敲」なのか、という由来の部分に目を向けると、「推敲」の意味や使い方がしっくりきやすいでしょう。ぜひこの機会に「推敲」を語彙に取り入れて、文章を書くときに思い出してみてください。
不覚衝大尹韓愈。乃具言。愈曰、「敲字佳矣。」遂並轡論詩久之。