日本酒の銘柄や居酒屋の名前などにもよく使われている「一献」という言葉。お酒にまつわる言葉だと想像できますが、詳しくはどのような意味なのでしょうか。
そこで「一献」の意味や由来のほかに、状況に応じた正しい使い方を例文とともに誤用も解説。また英語で表現する「一献」やお酒を勧めるときの言い回しも紹介します。
「一献」とは?
「一献」の意味は”お酒一杯”
「一献」の意味は、“お酒一杯”です。また「お酒を飲むこと」や「酒をふるまうこと」という意味もあります。
そのためお酒が振舞われる酒宴のことを「一献」と呼ぶこともあります。
ただ一般的には「一献」を「最初にふるまわれる酒」という意味として使われることが多く、特に最初の3杯目までを「一献」と呼びます。
3杯目までを一献とする理由は古式由来の礼法にあり
なぜ最初の3杯目までを「一献」として考えるのかは、室町時代以降の礼法が由来しています。
かつてお酒を客にもてなすときには、お酒と一緒に酒の肴をふるまうというのが風習でした。そして客には酒を三杯すすめたあと、膳を下げるまでのことを「一献」と呼びました。つまり「一献」では客には酒の肴をふるまい、お酒なら3杯まで勧めるのが礼儀だったのです。
その習慣が今でも残り、「一献」とは「最初に勧められたお酒三杯まで」のことを指すようになりました。
尊敬語の意味も含まれる「一献」
「一献」という言葉自体に尊敬語の意味合いが含まれているため、目上の人に酌をするときなどに使うことができます。
宴席で「まずは一献」と言いお酌をして、目上の方にお酒を進めます。
「一献」の使い方とは?
目上の人と相席するお酒の席で使える表現
ここで「一献」と使った様々な言い回しや用例を紹介します。目上の人と相席するお酒の席で使える表現ばかりです。
- 「まずは一献」
「まずは一献」は、宴席などで目上の人に酌をするときによく使われる表現です。
「一献」自体に尊敬語としての意味合いがあるので、「一献」の後にほかの語を使った尊敬表現などを続ける必要はありません。 - 「一献さしあげる」
目上の人にお酒の酌をするときに使われる言い回しです。
「差し上げる」は謙譲表現ですから、「一献さしあげる」は目上の人など敬意を表する相手に使われる表現です。 - 「一献お願いします」
「一献お願いします」とは目の前の相手に対して「お酒を一杯どうぞ召し上がってください」という丁寧な文句です。
「一献お願いします」というと自分が飲みたいとお願いしているように聞こえますが、そうではありません。お酒を勧めるときの表現ですから、使い方には気をつけてください。 - 「一献傾ける」
「一献傾ける」とは「お酒を飲む」という意味です。
「一献傾けますか」と疑問形にして、相手をお酒を飲む席に誘うときなどに使われます。
お酒を飲むときは、お猪口や盃などお酒の入った容器を傾けてお酒を飲むことから、お酒を飲むという意味の「一献傾ける」という表現が生まれました。
ただしお酒の誘い文句としては堅苦しい表現となるので、あまり一般的とは言えないでしょう。 - 「一献を交える」
「一献を交える」は「お酒を一緒に飲む」という意味の丁寧な言い方をした表現です。
お酒に誘うときに「一献を交えましょう」のように使います。 - 「一献おつきあいします」
お酒に誘われた時の丁寧な返答の仕方として使える表現です。
また「一献おつきあい願えませんか」のように疑問形にすれば、お酒の誘い文句としても使えます。
誤用に注意!「一献」の間違った使い方とは?
「一献」を連発するのは間違い
「一献」はお酒の最初の一杯か、古くからの礼法にならって多くても三杯までのことを指します。
そのためお酒を勧めるときに、何度も「一献」を使うのは間違った使い方です。
友人に「一献」を使うのは間違い
「一献」という言葉は、この言葉自体に敬語的な意味合いが含まれています。そのため「一献」を敬語的な表現として使われます。
例えば友人に対して「一献いきましょう」という言い回しはしません。
目上の人などに対してお酒を誘うことがあれば「一献」を使い、「一献交えましょう」のように使います。
「一献」の英語表現とは?
「お酒一杯」の英語表現は”a glass of ~”
「一献」の意味である「お酒一杯」を英語で言うのなら、「a glass of ~」となり、「~」の部分にお酒の種類が入ります。例えばワインなら「a glass of wine」、日本酒なら「a glass of sake」のようになります。
お酒を勧めるときの英語表現
日本のように目上の人にお酒の酌をするという習慣がない英語圏では、「まずは一献」のような常套句はありません。
そのため目上の人にお酒を勧めるときには「お酒はいかがですか」のように丁寧な言葉遣いをします。
ただ欧米では敬意を表して女性が男性に酌をするとか、目下の人が目上の人に酌をするという習慣がありません。ですからもしも目上の人が自分でお酒を注いでいたとしてもそれは当たり前の行為ですから、特に気にする必要はないでしょう。
例文:
“Would you like a glass of beer?”「ビールはいかがですか」
まとめ
「一献」とは「お酒一杯」の意味で、お酒の席に誘ったり、お酌をするときなどに使われます。「一献」という言葉自体に敬語的な意味合いがあるため、目上の人に対して使われます。「一献」を使ったフレーズも多いので、目上の人に酌をしたりするときに使ってみてはいかがでしょうか。