「逃げるが勝ち」はよく知られたことわざですが、人生の教訓としても使える深い意味がこめられていることをご存知ですか?この記事では「逃げるが勝ち」の意味や由来を詳しく解説し、あわせて具体的な使い方と例文も紹介します。加えて類語の「負けるが勝ち」や、英語表現も紹介しますので参考にしてください。
「逃げるが勝ち」の意味と由来とは?
「逃げるが勝ち」の意味は”無駄な争いは避けるのが得策”
「逃げるが勝ち」の意味は、“無駄な争いは避けるほうが得策だということ”です。ただ考えもなく逃げることを推奨するのではなく、消耗するばかりで意味のない争いはしないのが合理的な選択であるという意味で、感情に流されずに冷静に判断することの大切さを説く慣用句です。「逃げれば勝ち」は誤りです。
「三十六計逃げるに如かず」が由来となったという説
「逃げるが勝ち」の出典は不明ですが、南斉の歴史書である『南斉書』に収められた「王敬則伝」を出典とする故事成語に、「三十六計逃げるに如かず(さんじゅうろっけいにげるにしかず)」があり、これが由来だとする説があります。
「三十六計」とは、古代中国の三十六種類の兵法のことで、「逃げるに如かず」とは、逃げるにこしたことはない、逃げるのが最も良いという意味です。
「三十六計逃げるに如かず」とは、兵法の計略には、さまざまなものがあるが、形勢が不利になったときは、あれこれと策を練るより、逃げて身を守るのが最良の策であるという意味です。
転じて、逃げるべきときは逃げるのが得策だという意味で一般的に使われます。逃げることが身を守ることになるという意味も含まれ、「逃げるが勝ち」と同じ意味の教訓的なことわざです。
『孫子』の「戦わずして勝つ」も同じ意味
『孫子(そんし)』に書かれた「孫子の兵法」の基本となる考え方に「戦わずして勝つ」があります。『孫子』とは、古代中国の兵法書で、具体的な戦術とともに、合理的な勝ち方や戦略論が書かれています。
「戦わずして勝つ」とは、実際の戦闘に持ち込まずに戦略的に勝つことが、自軍の被害を抑え、征服した相手からも最大の利益を得ることができるとする合理的な戦略論です。
「戦わずして勝つ」の戦略的勝利の考え方は、「逃げるが勝ち」にも含まれているといえます。
「逃げるが勝ち」の使い方と例文とは?
「逃げるが勝ち」を人生の教訓とする使い方
「逃げるが勝ち」の考え方は、人生や職場、あるいは仕事の仕方の教訓として使うことができます。例えば、精神的や肉体的に極めて厳しい仕事を前に、究めても得るものがないと考えるなら、早い段階で退職する決断を下すことが、最悪の場合の過労死などを防ぐ手だてになります。
また、「逃げるが勝ち」は、限りある人生の中で、時間とエネルギーを何に注ぐのかを選択するときに、振り返りたい教訓です。よりよい人生を送るためには、今目の前にあることに対して、戦うべきか、撤退するべきか、選択する力が求められるからです。
「逃げるが勝ち」は「撤退する勇気」という武器があることを思い起こさせる教訓であるともいえます。
「逃げるが勝ち」を教訓として使う例文
「逃げるが勝ち」を教訓として使う例文をいくつかご紹介しましょう。
- 人生逃げるが勝ちとは、無駄な戦いをせず、自分の好きなことや大切なことに時間や労力を注ぐのが有意義な人生だという意味である。
- 理不尽な上司からは、逃げるが勝ちの姿勢でいることにより自分を守ることができる。
- 何の利益も得られない争いからは、さっさと逃げるが勝ちだ。
- 逃げるが勝ちは、破滅の道から撤退する勇気である。
「逃げるが勝ち」の類語とは?
「逃げるが勝ち」に共通する教訓的な意味を持つことわざを紹介します。
「負けるが勝ち」の意味は”勝ちを譲れば結局は自分が勝つ”
「負けるが勝ち」とは、あえて争うことをやめて相手に勝ちを譲ると、自分にとって有利な結果となって、結局は勝ちにつながることから生まれたことわざです。
「負けるが勝ち」は、「江戸いろはかるた」の「ま」の句です。「負けるが勝ち」のかるたには、「韓信の股くぐり」という中国の故事を表した絵が書かれていたようで、この故事は「負けるが勝ち」の精神をよく表しています。
「韓信の股くぐり」とは、韓信が若いとき、町の無頼の徒に股をくぐれと辱められたが、剣で切ることをせず従った。その韓信は、のちに大成したという故事です。そのとき韓信は、ここで殺生をしても何の得もないと冷静に判断したということです。「逃げるが勝ち」にも共通する精神であるといえます。
「君子危うきに近寄らず」の意味は”教養をそなえた人は、むやみに危険へ近づかない”
「君子危うきに近寄らず(くんしあやうきにちかよらず)」とは、教養や見識を備えた人は、むやみに危険に近づかないという意味のことわざです。教養のある人は争いを好まないという意味もあり、「逃げるが勝ち」の、争わないのが合理的な選択であるという意味と共通しているといえます。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」は、取り繕いたい気持ちから”逃げるが勝ち”という意味
「聞くは一時(いっとき)の恥、聞かぬは一生の恥」とは、知らないことを聞くのが恥ずかしいからと聞かなければ、一生知ることができずその方が恥ずかしいという意味で、知ったかぶりをしたりごまかしたりせずに、知らないことは積極的に質問して学ぶべきだという教えです。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」は、無知を取り繕いたいという気持ちから「逃げるが勝ち」とも説明できます。
「逃げるが勝ち」の英語表現とは?
「逃げるが勝ち」の英語表現を紹介します。
「逃げるが勝ち」は英語で”Discretion is the better part of valor.”
「逃げるが勝ち」と同じ意味の英語のことわざに“Discretion is the better part of valor.”があります。
直訳すると「思慮分別が勇気の大部分」という意味で、”逃げるが勝ち・君子危うきに近寄らず”に相当することわざです。「discretion」は”思慮分別、慎重さ”、「valor」は”(戦場などにおける)勇気”という意味です。
「He that fights and runs away lives to fight another day.」(戦って逃げる者が、生き延びてまたいつの日か戦う)という欧米の古いことわざも、”逃げるが勝ち・負けるが勝ち”と同じ意味を持ちます。
まとめ
「逃げるが勝ち」は、単なる敵前逃亡や、負け犬の遠吠えを表すのではなく、「無駄な争いは避けるのが得策」という合理的な考え方を教えることわざです。
「逃げるが勝ち」をそのままタイトルにした自己啓発本や、「逃げる勇気」「逃げ出す勇気」「逃げる力」といった類似の表現のタイトルの本もたくさん刊行されています。「逃げるが勝ち」は、生き方や考え方の指針として説得力を持ち、ふと立ち止まって考えたくなる言葉なのではないでしょうか。