古代の信仰形態を「アニミズム」と呼ぶことがありますが、具体的にはどのような意味なのでしょうか?この記事では、アニミズムの意味や英語、考え方を解説し、あわせて「シャーマニズム」との違いも紹介します。さらに、海外や日本および身近におけるアニミズムの例も紹介します。
「アニミズム」とは?
「アニミズム」の意味は”精霊信仰”
「アニミズム」とは、“自然界のすべての現象や事物に霊魂が宿るとする考え方”のことです。日本語訳では「精霊信仰」「地霊信仰」などと訳されます。
イギリスの人類学者で「文化人類学の父」と呼ばれるエドワード・バーネット・タイラー(1832年~1917年)が、『原始文化(Primitive Culture)』 (1871年)において、原始宗教の特徴を示す言葉として「アニミズム」を用い、その概念が広まりました。
「アニミズム」の考え方は”聖なるものは自然に宿る”
アニミズムにおける崇拝の対象は、自然の中に存在するすべての事物・事象で、例えば樹木や岩石、山、水、泉、さらに雷、太陽や月などです。アニミズムは「聖なるものは自然に宿る」という考え方を持ちます。
信仰のわかりやすい事例としては、世界中に見られる巨石崇拝や山岳信仰があります。「人格神」ではない、目に見えない聖なるものが、自然の事物に宿る世界観がアニミズムです。
「アニミズム」は英語で”animism”
「アニミズム」は英語で“animism”と書きます。ラテン語で「魂・霊魂」という意味の「anima(アニマ)」に由来します。「アニマ」は、古代ギリシャの哲学者たちが使った「息・命・魂」という意味の「プシュケー」の語を、中世にラテン語に訳したときにあてられた語です。
ピアジェが提唱した「アニミズム」は精霊信仰とは別の概念
スイスの心理学者であるジャン・ピアジェ(1896年~1980年)は、幼児期の思考形態として、玩具など命のない物を、あたかも命や意思があるかのように擬人化して考える心理のことを「アニミズム」と呼びました。未熟な子どもは、自分の心と外界との区別ができないことにその要因があり、成長とともにアニミズムを卒業してゆくと考えました。
ピアジェが提唱した幼児期の成長過程にみられる現象としての「アニミズム」は、「精霊信仰」の意味でのアニミズムとは別の概念です。
「アニミズム」と「シャーマニズム」の違いとは?
古代の宗教形態として「アニミズム」の他に「シャーマニズム」があります。両者の違いとはどのようなものなのでしょうか?
「シャーマニズム」とは”シャーマン”によって成立している宗教のこと
「シャーマニズム」(英語: Shamanism)とは、「シャーマン」によって成立している宗教のことを言います。シャーマンとは、神や精霊と交流することによって、神託や預言を伝達したり、呪術的な祭祀を行ったりする宗教的職能者です。
シャーマンが祭祀などを行うときは、意識のないトランス状態になることが多く、トランス状態に入ったときが、神や精霊と交流している状態だとされます。
シャーマンを中心とする宗教形態であるシャーマニズムは、全世界に存在する普遍的な宗教形態です。日本では「巫術(ふじゅつ)」などと訳されます。
「アニミズム」は”シャーマン”を介さない
「シャーマニズム」と「アニミズム」は、自然の精霊を崇拝するという意味では共通ですが、信仰の形態を「アニミズム」と呼ぶときは、「シャーマン」を介さない自然崇拝を指します。
しかし、アニミズムの周縁にシャーマンが存在し、個別の祭祀的な役割を持つこともあります。アニミズムとシャーマニズムは、どちらも土着信仰の基底に見られるわかちがたい概念です。
「アニミズム」の例とは?
アニミズムは世界中の古代世界に現れた世界観ですが、その中から、海外と日本、および身近に見られる「アニミズム」の例を1例づつ紹介します。
海外の例:「ケルトの信仰」におけるアニミズム
古代ヨーロッパにおける自然信仰としてよく知られているのが「ケルトの信仰」です。ケルトの信仰は、各地に残るケルト人の習俗や神話・伝説によってうかがい知ることができます。
ケルト人とは、紀元前1世紀前に、中央アジアからヨーロッパに移動した、ケルト語を話した民族の総称です。初めにアイルランド、スコットランド、ウェールズなどに住み、紀元前500年頃にはスペインやポルトガル、イタリアや東ヨーロッパまで広がりました。
ケルト人は、ヨーロッパ文明の基層のひとつとなったケルト文明を築きました。ケルト文明の精神の基底は、「アニミズム」にありました。動物・植物や自然現象を崇拝し、「ドルイド」と呼ばれる神官が儀式を執り行いました。
動物の中でも特に馬や牛は、その力強さや有用性から神聖な動物とされて崇拝されました。植物では、大きく成長するオークの木と、それに寄生するヤドリギなどが聖樹とされました。さらに、水と火も崇敬の対象であり、水のある場所は異界と接する場所だとされました。
崇敬された自然との関わりは、ケルト人が文字を持たなかったため、妖精や魔物などが登場する図像や、神話や伝説となって伝わっています。
日本の例:「神道」におけるアニミズム
現在、「神道」と呼ばれているものは、古代日本に自然発生的に生まれた自然信仰、すなわちアニミズムを根本としています。日本では、有史以前の時代から、山や火などの自然や、自然の中に見出された土着の神々を信仰していました。それらは原始神道(古神道)と呼ばれます。
8世紀初頭に、日本初の歴史書『日本書紀』『古事記』が著され、それが「神道」の聖典となります。その時「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」が日本民族の最高神と規定されました。それに伴い、土着の神を祀っていた神社は、聖典に登場する人格神に多くが変更されました。
天照大御神を祀る伊勢神宮を頂点とする現在の神道は、原始神道からは形を大きく変えていますが、人格神を主体としないアニミズムの精神は、岩や樹木を祀るなどのさまざまな習俗を通して失われていないといえます。
身近な事例:日本の「八百万神」
身近なアニミズムの例は、「八百万神(やおろずのかみ)」に見ることができます。「八百万神」とは、神羅万象に神や神霊の発現を認める、古代からの日本の神概念を表す言葉です。
例えば大きな岩や山をご神体として祀ったり、ある土地の領域を神聖な場所だとして結界を設けたり、神社などにある池や樹木そのものに神霊が宿ると考えたりすることは、身近に多く見られます。
まとめ
「アニミズム」とは、「自然界のすべての現象や事物に霊魂が宿るとする考え方」のことです。日本においては、『古事記』などによって人格神が現れる前の、古代における神道がアニミズムでした。
現代日本においても、アニミズムの精神は失われていないといえます。清涼な自然の中に聖なるものが宿るとの考えは、豊かな自然とともに生きてきた日本人の根底に根付いているものだといえます。
なお、ユダヤ教やキリスト教などの一神教は、砂漠という過酷な自然の中で生きる民族の中で生まれたものです。恐れ、また救いを求める対象である人格神への信仰と、自然の中に形を持たずに宿る八百万神への信仰は、ひとつの俎上に載せることのできない異なる概念であるといえます。
■参考記事
「神道」とは何か?仏教との関係や歴史・起源を3つの視点から解説