「紳士協定」は国家の間で結ばれる約束事として使われることが多いですが、ドラマのセリフや小説などでも登場するハイカラな言葉の一つです。通常の「協定」とは肌色の異なる特徴を持ちますが、正しい意味を把握している人は少ないかもしれません。今回は「紳士協定」の意味や使い方について、解説します。
「紳士協定」とは?
「紳士協定」の意味は”国家や個人の間で結ぶ決まり”
「紳士協定」の意味は、“主に国家や団体、また個人や知りあいなどの間で、正式な書面を交わしたり、公式な手続きを踏まず、お互いの信頼だけをベースに結ばれる約束事や決まり”のことです。
「紳士協定」には法律的な履行義務がないため、法的な効力はありません。当事者の信頼や現在までの信用関係の中で築かれる事柄や約束ごとであるため、時には双方の関係が崩れたり、経済事情の悪化など、さまざまな理由で破られてしまうこともあります。
法に則した決議を話し合う政治の世界でも、書面やサインなどの公式なプロセスを介さず「紳士協定」で終わってしまうことも多々あります。
「紳士協定」はあくまで”非公式協定”
「紳士協定」は「協定」という表現を使いながらも、法的な効力が伴いません。たとえ国家間や国際協定などのシーンで大きな取り決めがあっても「非公式協定」となります。
しかし、あえて書面を交わさず、お互いの了承の中で結ばれるのでしょうか?それは、お互いの間で強い絆や信頼関係、また確固とした歴史があるからです。「紳士協定」は言ってみれば”公式ではないが、双方の心中では公式な協定”であり、法的な効力はないまでも、それに近い主旨があると言えるでしょう。
「紳士協定」はビジネスには不向き
基本的に「紳士協定」は売上や利益、特許などの利害関係が伴うため、大小に関わらずビジネスには不向きです。
ビジネスで契約書にサインをするのは法的な効力が生まれるからであり、公平な取引を行うために必須なプロセスです。たとえ、学生時代の旧友等仲の良い相手であっても、ビジネスにおいては、口約束や握手だけで「紳士協定」を結ぶのはおすすめできません。
「紳士協定」の使い方と例文とは?
「紳士協定」を約束ごとに対して使う
「紳士協定」と聞くと、国家や団体で行なわれる取り決め事のような響きがありますが、書面を介さず、口頭やハンドシェイクなどで交わされる決まりごとであるため、一方でやや軟らかいイメージもあることでしょう。
「紳士協定」が持つニュアンスから、カジュアルに日常生活の約束やルールなどに対して比喩的に使われることもあります。
たとえば、交際中のパートナーに「浮気をしない。紳士協定ね」と言って、互いの理解や了承のもとに強い絆を確認することもあるでしょう。また、職場なら上司と部下で紳士協定を結んで、仕事を公平に分担することもあるかもしれません。
もちろん、あらゆる約束やルールに対して「紳士協定」という言葉を多用するのは適切ではありませんが、「信頼ベースで結ぶ固い口約束」というシーンなら、「紳士協定」という表現を比喩的に使うことも可能です。
「紳士協定」を使った例文
「紳士協定」を使った例文をご紹介しましょう。
- 国家の間では、口約束だけで条件を受け入れる紳士協定がいくつも存在するのだろうか?
- 共同イベントの開催で、A者と同額の寄付金を募る紳士協定を結んだ。
- 職場の同僚である彼氏と紳士協定を結び、社内では結婚まで口外しないことを約束した。
- 妻と私で結んだ紳士協定は「家では互いの悪口を言わない」ことだ。
「紳士協定」の類語とは?
類語①「不文律」とは文章のカタチを取らない決まり
「不文律(ふぶんりつ)」とは、文章というカタチを取らない決まり事のことを言います。正式な文章としては存在しないものの、成文法に準ずる効力を有するルールや規則などを表し、言葉せずとも暗黙の了解事項となる事柄や決まりを指す言葉です。
「紳士協定」は「交わす」ことが前提となりますが、「不文律」の場合は、言葉で明確に表さなくても、習慣的に当たり前のような行為や行動などを示す時に使います。
- 課長が毎朝のように期限が悪いのは不文律の一つだと思って下さい。
- 国会で政治家が野次を飛ばすのは、海外では一種の不文律でもある。
類語②「暗黙の掟」とは互いの心で了解している掟
「暗黙の掟(あんもくのおきて)」とは、互いの心の内でしっかりと了解している掟や決まりを指します。「暗黙」という表現を使っているように、文章や言葉で明言しなくても当事者の間で納得し、理解し合える事柄や決まり事を意味する言葉です。
「紳士協定」は国家単位で結ばれることがほとんどで、双方の信義に基づき結ばれることがほとんどですが、一方で「暗黙の掟」は家族や友人など、ごく一般的な状況で使われます。
また同じ意味で「暗黙の了解」「暗黙の決まり」「暗黙の約束」などと言い換えることもできます。
- 夜の6時までに連絡しなければ、暗黙の掟で家で夕食をとるということになっている。
- 暗黙のルールで料理長が咳を三回した時は、オーダーストップの意味である。
「紳士協定」を結んだ事例とは?
1907年に日米で結ばれた移民制限
1907年に日米間で「紳士協定」として結ばれたのが、日本からアメリカへの移民を制限する「日米新協約」です。
1890年代に日本からアメリカ・カリフォルニア州への労働者移民が急増したため、入国制限をかけるというものでしたが、当時外交の指揮をとっていたルーズベルト大統領と日本の天皇陛下の間で結ばれた「紳士協定」でもありました。
「日米新協約」は日米の良好な友好関係があったからこそ結ばれた「紳士協定」です。お互いの国を尊重し、双方で合意がなければ、このような大きな口約束は生まれなかったでしょう。
「紳士協定」の英語表現とは?
「紳士協定」は英語で”Gentleman’s agreement”
「紳士協定」を英語で表記すると“Gentleman’s agreement”となります。そのまま直訳したシンプルな表記となりますが「Gentleman’s」の「G」をキャピタル(大文字)にすることを忘れないようにしましょう。
まとめ
「紳士協定(しんしきょうてい)」とは、国家や個人の間で公式な書面や契約を交わさず、口約束や握手、また暗黙の了解で双方が同意する決まりごとや事柄を意味します。「紳士協定」は国家や国際協定などの大きな規模から、知人や家族などの小さい規模まで、あらゆる約束やルールに対して使うことができます。
もっとも、国家や団体レベルの間柄で結ばれる「紳士協定」は法的な効力がなくともシリアスな内容が多いですが、ことに金銭が絡むビジネスシーンでは不向きなスタイルとなります。また、個人レベルになると秘密事や隠し事などプライベートな内容に対して使われることがほとんどで、比喩的に遊び心を持って使われることが多いと言えるでしょう。
いずれにしても、お互いに信頼していなければ「紳士協定」は結ばれないため、裏を返せば「信頼の証」とも解釈できるかもしれません。