「和して同ぜず」は、孔子の言葉を起源とすることわざですが、ビジネスパーソンが備えるべき理想的な対人スキルの要といえるものであるかもしれません。
この記事では、「和して同ぜず」の言葉について、その意味や由来となった原文について解説します。あわせて使い方と例文や対義語・英語表現も解説しています。
「和して同ぜず」の意味や由来とは?
「和して同ぜず」の意味は「人と協調してもむやみに同調することはない」
「和して同ぜず(わしてどうぜず)」とは、人と協調したとしても、道理を外れてまで人に同調することはない、という意味のことわざです。
なごやかに調和された人間関係を持つことは大切だが、馴れ合いの関係はよくないという意味の人生訓として使われます。
「和して同ぜず」の由来は孔子の言葉「和而不同」
「和して同ぜず」の由来は、古代中国の思想家である孔子の言葉をおさめた『論語』の中の一節です。「和して同ぜず」に該当する部分の中国語は「和而不同」となります。
「和而不同」の前後を加えた原文と書き下し文・現代語訳を紹介
「和而不同」は本来は対句の形の一節であり、二つの別の意味の言葉を対比させることによって意味が完成されています。「和して同ぜず」は前半の部分だけを取ったものです。
そのため、孔子がいわんとしていることが、少々わかりにくくなっているといえます。実際の原文と、その書き下し文・現代語訳を確認しておきましょう。
原文:
子曰、君子和而不同、小人同而不和。書き下し文:
子曰く、君子は和して同ぜず。小人は同じて和せず。現代語訳例:
先生はおっしゃいました。「立派な人物は人と調和するが、道理に外れてまで人に合わせたり流されたりはしない。(その一方で)つまらない人物は人にむやみに同調するが、人と調和することはない」と。
以上のように、君子(立派な人物)と、小人(つまらない人物)を対比させて、優れた人物とはどのような人であるのかをわかりやすく説いたものです。
なお、「小人」は日本語では「子ども」の意味がありますが、中国語では子どもの意味はなく、つまらない人間や卑しい人間などといった意味があります。
「和して同ぜず」の使い方と例文
人間関係における「協調や調和への警句」として使える
「和して同ぜず」は、人間関係に大切な協調や調和の精神が違う方向にずれた場合に、警句として使うことができます。日本では「和」を大切にしますが、それが同調圧力につながり、自分の意見を押し殺して大きな声に従ってしまうという傾向があるともいえるため、「和して同ぜず」は肝に銘じておきたいことわざかもしれません。
また、調和を大切にしながらも自らの意見は貫くという精神性を一言で言い表すときにも「和して同せず」を使います。
「和して同ぜず」を使った例文
- 志の高い人は「和して同ぜず」の精神で、人と調和しながらも自分の意見は貫く強さを持っている。
- 「和して同ぜず」というから、ただ慣れ合うだけの関係は発展的とは言えないのではないか
- 個性の強い人間同士がうまくやるには「和して同ぜず」の精神が大切だ
「和して同ぜず」の対義語は?
「和して同ぜず」の対句の「同じて和せず」
「和して同ぜず」の対義語は、対句である「同じて和せず」になります。「つまらない人はむやみに同調するが、人と調和することはない」という意味です。
自分の意見がなく、あるいは自分の意見を押し殺してうわべだけの「和」は、つまらない人間のすることだ、という意味だともいえます。耳が痛い人が多いかもしれません。
他人の意見にすぐに同調するという意味の「付和雷同」
「和して同ぜず」の対義語には「付和雷同(ふわらいどう)」もあります。「自分の意見がなく、すぐに他人の意見に同調する」という意味です。
「不和」とは、気持などがしっくり合わないという意味で、「雷同」とは、わけもなく他の説に同調すること、という意味です。雷が鳴ると他の物がそれに呼応して響くことが起源の言葉です。
「同じて和せず」も「付和雷同」も、自分の考えがないままに周囲に同調しようとする態度を戒める意味合いを込めて使われることが多い言葉です。
「和して同ぜず」の英語表現は?
「和して同ぜず」は英語で「harmonize but not agree」
「和して同ぜず」は英語で「harmonize but not agree」と表現します。
「harmonize」とは「調和する」という意味で、「agree」は「同意する」という意味です。これらを but not でつなげることによって、「調和すれども、同意しない」(和して同ぜず)となります。
まとめ
「和して同ぜず」は、和の精神において陥りがちな盲点をつく重要な視点を説いたことわざだといえます。しかし、「和して」と「同ぜず」が反対のことを言っているため、一見するとわかりにくい表現であり、すぐに使いこなすのが難しい言葉でもあります。
近い意味を持ち、もうすこしわかりやすい表現では、「和すれどもしかも流せず」という言い方もあります。人々と調和を保ちながらも、世間一般の風潮や道理を外れた意見に流されないことが大切だ、という意味です。
周囲の人々との調和を保ちたいがために、他の意見に流されたり、むやみに同調しやすい人が多いともいわれる日本人にとって、肝に銘じたいところかもしれません。