「言われた」の敬語表現とは?使い方と言い換え表現を例文で説明

自分が「~さんから〇〇と言われた」ことを誰かに伝えたいとき、もう少しビジネス敬語にふさわしいスマートな表現はないものでしょうか。日本語の助動詞「れる・られる」の用法にはいくつかありますが、ここではそのうちの「受け身」の用法である「言われた」を中心に正しい使い方をまとめます。

「言われた」は敬語として使える?

「言われた」の敬語表現は「おっしゃった」

「言われた」は、敬語で「おしゃった」です。

受け身の「言われた」は印象が悪い

今回紹介するのは、「先生の言われたとおり」のような敬語表現ではなく、「悪口を言われた」「カワイイって言われた」などの受け身をあらわす「言われた」を敬語(謙譲語)に変えるときの注意点です。社会生活の中では、自分の意志ではなく他者からの動作を受けて動くことも多い私たちですが、「〇〇によって~された」状態を表現する「受け身」の用法はやや消極的な印象になりがちです。実際のところ「~された」という表現は、自分が何らかの不快感や迷惑を感じた時に使うことが多いのではないでしょうか。

「れる・られる」の用法は4つ

日本語の助動詞「れる・られる」には、受け身のほかにも可能・自発・尊敬など、あわせて4つの用法があります。可能とは「~することができる」という意味で、「まだ食べられたけど捨てた」「あと5分寝られたのに起こされた」のように用います。「言う」の可能は「言われる」ですが、敬語に「られる」を使用すると受け身や可能と混同されやすいことから、「言った」であれば「言われた」よりも「おっしゃった」などの定型表現を用いるのがよいとされています。

受け身は尊敬語にならない

受け身は他者の動作を受ける「自分」が主体であるため、そのままでは尊敬語に変換することができません。かといって「部長に誘われたので行った」「言われたので書類を整理した」「言われたとおりにやった」という表現からは、いずれも自発性が感じられないだけでなく、ともすればパワハラの告発とも取れるような被害者意識が漂うこともあるため、ビジネスシーンでは別の言い方に変えたり、「言われた」を類語に置きかえる必要があります。類語の選び方は、「言われた」ことがらによって次のように変化します。

「言われた」の敬語としての使い方と例文

「指摘された」場合の言い換えと例文

  • 上司から「服装が乱れている」と注意されました。
  • 取引先の〇〇様より、商品に欠損があったとのご指摘を受けました。

「服装が乱れていると言われた」場合、上司はその人の服装の乱れを問題視して注意したので「指摘された・注意された・助言された」などに言い換えます。「言われた」と同じ受け身の表現ですが、いずれも自分の欠点や間違いを認めているときに使う言葉なので「言われた」のように相手を批判するようなニュアンスを含んでいません。指摘した人を立てる場合は「ご指摘いただいた」「ご指摘を賜りました」のように敬語変換します。

「指示された」場合の言い換えと例文

  • 部長の〇〇より、ご挨拶に伺うよう言いつかってまいりました。
  • 私たちは〇〇さんの指示でここに集まっています。

「上司から残業するように言われた」ときは、「指示された」「指示があった」と表現します。「仰せつかった(おおせつかった)」は指示した人を敬った表現で、取引先などの対外的には「言いつかってまいりました」のような謙譲表現になります。「言う」をさらに謙譲化した「申しつかる」もありますが、現在のところあまり一般的ではないようです。誤用と受け取られることもあるため、使わないのが無難かもしれません。

「依頼された」場合の言い換えと例文

  • 〇〇様より、商品を返品したい旨のご連絡をいただきました。
  • お客さまより、〇〇とのご要望を承りました。商品にご不満があるとのことです。

「お客さんから言われた」ときは「要請があった」「依頼された」「要望があった」「クレームがあった」などです。顧客から言われたことを上司に報告する場合は「ご要望があり」「ご依頼を受け」と顧客を立てる表現になり、課長に言われたことを部長に報告する場合も同じく課長を立てる表現になります。これは立場の違いをわきまえ重んじる態度が、そのまま目の前の相手への敬意を暗示するためです。

「言われた」の敬語表現で注意すること

「助動詞の用法と敬語の区分」を混同しない

先述した助動詞の4つの用法のうち、「尊敬(尊敬語)」と「受け身」の敬語表現はとくに紛らわしいので混同しないよう注意しましょう。尊敬の「れる・られる」はそのままで敬語として成立していますが、受け身の「れる・られる」の場合はそこから敬語変換が必要です。日ごろから敬語に「れる・られる」を使用しないなどの自分ルールがあると便利です。

「二重敬語と目線の混同」に気を付ける

敬語で一番気を付けたいのは、「おっしゃられていた」のように敬語が重複してしまう「二重敬語」と、「申されていた」のように尊敬語と謙譲語が交錯してしまう誤用を避けるという点です。二重敬語に関しては「お見えになる」のように慣例化しているものもありますが、「そのように仰られても(おっしゃる+受け身)」のように二重敬語のように見えてそうでないものもあります。

簡単な構文に変換して誤用を避ける

用法や目線がごちゃごちゃになった結果、つい「おっしゃられていた」「申されていた」のような敬語を口走ってしまうというときは、「自分が〇〇さんに言われた」という少し複雑な構文をそのまま敬語変換するのではなく、「〇〇さんが言った(おっしゃった)」と端折って要点だけを表現してみましょう。

まとめ

敬語は話し手と聞き手、話の主体になる人の関係で幾通りにもパターンが変化する複雑な表現です。自分がある人に「言われた」ことを、別のある人に伝えるという複雑な構文を敬語にするときのコツは、伝えたい内容をできるだけシンプルにすることです。曖昧な敬語を使うより、相手に対して失礼のない確かな敬語を話しましょう。正しい敬語を聞き慣れることや、自分で話して使い慣れることも上達の早道です。