「情けは人の為ならず」ということわざは誰もが一度は聞いたことのある有名なフレーズです。そしてその意味を間違えている人が多いことわざとしても有名です。
意味を間違えてしまうことの原因や、その言葉の由来について解説しますので、このことわざを聞いてもやもやする気持ちのある人は参考にしていただければ幸いです。
「情けは人の為ならず」の意味・誤用とは?
「情けは人の為ならず」は「情けは人のためならず」とも書き、よく知られたことわざです。落語のモチーフや、時代劇のセリフなどで耳にすることも多いフレーズです。
意味は「人にかけた情けは、巡って結局は自分のためになる」
「情けは人の為ならず」の意味は、「人にかけた情けは、巡って結局は自分のためになる」です。「人のためならず」とは、「人のためにならない」ということではなく、「人のためではなく自分のためになる」という意味で、この部分が間違いやすいポイントとなります。
古語「ならず」は打ち消しの意味
そのような誤解が生じる原因として、現代の日本人の価値観や人との付き合い方などが変化してきたことも考えられますが、古語としての「ならず」の意味が正しく理解されていないことが大きな原因と考えられます。
古語「ならず」の意味は「…でない」「…ではない」という打消しの意味です。断定の助動詞「なり」+打消しの助動詞「ず」の連語となります。
「ならず」が「人のためではない」という打消しの意味という理解がないため、間違った解釈となってしまうのです。
古語「情け」は情愛・思いやりの意味
「情け」を辞書で引くと「利害や打算を離れ、困っている人や弱い人に同情して、援助や激励をする親切心」という意味が載っています。
一方で、古語の「情け」は「情愛・思いやり」という意味があります「情けを掛ける」と聞くと、「同情する」というイメージもありますが、古い時代には「思いやる」という意味合いが強かったのかもしれません。
そのように考えると、「情けは人の為ならず」は「思いやりをもって人と接すれば、その思いやりがいつか自分に帰ってくる」という暖かい意味の言葉であるといえます。
「情けは人の為ならず」の誤用例
平成22年度に文化庁が行った調査によれば、間違った意味で理解している人が半数近くにのぼるという結果が出ました。
その誤った意味は「人に情けを掛けて助けてやることは、結局はその人のためにならない」というものです。
「情けは人の為ならず」の語源は?
それでは「情けは人の為ならず」の出典はどこにあるのでしょうか?
語源は曽我物語にあるという説
定説ではありませんが、鎌倉時代の軍記物語である「曽我物語」にその記述が初めて登場したとする説があります。その後、数多くの物語や謡曲などに「情けは人の為ならず」という言い回しが登場しています。
「情けは人の為ならず」に続く言葉がある
「情けは人のためならず巡り巡って己がため」というフレーズもあるようですが、この言い回しも出典は定かではありません。おそらく、意味を伝えやすくするため、後ろに言葉を付け加えて広がったものと思われます。
「情けは人の為ならず」の類語
全く同じ意味ではありませんが、近い意味を含むことわざを紹介します。
類語①「因果応報」の意味
「情けは人の為ならず」の類語に「因果応報(いんがおうほう)」があります。「良い行いをすれば良い報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがある」という意味です。「因果」の「因」は原因のことで、「果」は果報の意味のもとは仏教用語です。
行いの善と悪に応じた報いがあるという意味ですが、現在は悪い報いの方に用いられることが多く、ネガティブなイメージが強調されているという意味では誤用例が多いことわざといえるかもしれません。
そのため、「情けは人の為ならず」の反対語として、「悪い行いは自分に返ってくる」という意味で「因果応報」が紹介されることもあります。
類語②「善因善果」の意味
善いことをすればそれがもととなって善い報いがあるという意味の「善因善果(ぜんいんぜんか)」という仏教用語があります。
類語③「陰徳あれば陽報あり」の意味
中国の前漢時代の思想書「淮南子(えなんじ)」に「陰徳あれば陽報あり」という言葉があります。「人知れず善行を積めばよい報いがあらわれる」という意味です。
「情けは人の為ならず」の反対語
反対語①「悪因悪果」の意味
「善因善果」の反対の意味に「悪因悪果(あくいんあっか)」があります。悪いおこないをすれば、それがもととなって悪い結果が生ずることという意味の仏教用語です。
反対語②「身から出た錆」の意味
自分の行いが巡ってやがて自分に帰ってくるという意味の悪い意味として「身から出た錆」ということわさがあります。刀の錆は刀身から生じるということからできた言葉です。
自分がおこなった悪いことの報いを自分の身に受けるという意味の「自業自得」と同じ意味です。
「情けは人の為ならず」を英語で言うと?
英語ではさまざまな表現がある
「情け」はいろいろな英語に解釈が可能なため、英語の言い方は色々ありますが、簡潔な表現を紹介します。
He who gives to another bestows on himself.
「他人に施すものは自らに施すことになる」という意味です。
まとめ
「情けは人の為ならず」は「人にかけた情けは、巡って自分のためになる」という意味のおそらくは鎌倉時代を起源とする古いことわざです。戦国時代の物語に多く登場する言葉であるとすれば、その時代の「情け」とは「武士の情け」であったのかもしれません。
ことわざの背景にも、思いを巡らせることによって世界観が広がり、ビジネスの新しい視点を得ることができるのではないでしょうか。