目上の人に話してほしいとお願いするときに「お話ください」という表現がよく使われますが、「お話しください」と書かれることもあります。どちらが正しいのでしょうか。
この記事では「お話ください」の意味と「お話しください」との違いの他に、敬語として正しいかどうかを説明して、使い方や類語、英語表現も紹介します。
「お話ください」の意味と正しい表記
「お話ください」の意味は「話してほしい」
「お話ください」とは「話してほしい」という意味で、目上の人に話すことを頼むときに使われる丁寧な表現です。目の前にいる目上の人から聞きたい話がある場合に使われます。
「お話しください」が正しい表記の仕方
「お話ください」と書かれていることが多いのですが、実は間違っており正しくは「お話しください」と書きます。「お話」の後に「し」をつけた「お話し」のほうが正しい表記です。
話される内容を指し名詞として「おはなし」が使われるときは、送り仮名の「し」をつけずに「お話」と書きます。しかし「お話ください」の「お話」は話す内容を指している名詞ではなく、話すという動作に着目しています。
「お話ください」の「お話」は、動詞「話す」の活用形として考えられるため、送り仮名の「し」をつけて「話し」と書き表します。したがって「お話ください」の正しい表記法は「お話しください」です。
「お話ください」が「し」抜けになった理由
間違った表記「お話ください」ですが、実際にはよく使われています。理由は、昭和48年から「話」と「話し」を使い分けるようになったことです。
「話」を名詞として使ったときに送り仮名はつけないというルールができたのは、昭和48年6月18日の表記法から。以前は、名詞として使う場合は送り仮名をつけてもつけなくても正しいということになっていました。
「お話ください」いう表記が見られるのは、新しい表記法ができる前の慣習が現在でも残っているためです。
「お話ください」は敬語として正しい?
「お話ください」は正しい敬語表現
「お話ください」は敬語として正しい表現です。「お話ください」は「お話しになってください」を短くした言い方で、「お話になる」という「話す」の尊敬語に、「与える」という意味の動詞「与える」または「くれる」の尊敬語の命令形が、「て」を介して連結しています。「て」によって二つの尊敬語が続いているため、正しい敬語表現になります。
「お話ください」は二重敬語ではない
「お話ください」は、2つの尊敬語が続いていると二重敬語となり間違った敬語ではないかと思われるかもしれません。
「二重敬語」とは、尊敬語と尊敬語のように同じ種類の敬語が重複して使われていることを指します。例えば「お話になられる」のように「お話になる」と「れる」の2つの敬語が重複していると二重敬語になり、間違った使い方です。
しかし「お話になってください」は「て」によって敬語が連結する「敬語連結」が用いられていて、文法的に間違いではありません。したがって「お話ください」は二重敬語ではない正しい敬語表現です。
「お話ください」の使い方と例文
目上の人に話をしてもらいたい時に使う
「お話ください」という表現は、相手に話すことをお願いするときに使います。目上の人にも使える尊敬表現です。
ただし、「お話ください」の「ください」が尊敬語ではあるものの命令形のため、相手に威圧的に聞こえてしまうこともあります。「お話ください」を目上の人に使うときは、「お話しいただけますか」と謙譲表現を使うとより丁寧な表現になるでしょう。
キャンセル理由を聞くときにも使われる
「お話ください」はある契約をキャンセルをした際、キャンセルされた側が理由を尋ねる時によく使います。「キャンセルされる理由をお話ください」や、「お話ください」をさらに丁寧にして「キャンセルされる理由をお話しいただけますでしょうか」のように相手に尋ねます。
キャンセルされた側としては簡単に契約を解消したくないものですから、「お話ください」を使って相手にその理由を問い詰めます。聞かれる側としては少し強引な印象を受けることもあるでしょう。
「お話くださいました」は第三者への報告に
「お話くださいました」とは、目上の人が話をしたことを第三者に伝えるときに使う表現です。「○○先生がお話くださいました」のように使います。
「くださいました」は尊敬語の「くださる」の連用形に助動詞の「ました」が連結されています。「くださりました」が元の表現ですが、いつしか「り」が音便化されて「くださいました」と変わっていきました。
「お話ください」は目上の人に話すことを促す表現なのに対して、「お話くださいました」は話したことを伝えるための表現なので、その話したことを知りたい人に対して使われます。
「お話ください」の間違えやすい使い方
「お話ししてください」は文法的に間違い
「お話してください」は動詞「お話しする」のすぐ後に「する」の連用形が続いているために、日本語の文法的に間違った表現です。正しくは「お話ください」になります。
「お話になられてください」は二重敬語
「お話になられてください」とは、「お話になられる」という言葉に「ください」が連結した表現です。しかし「お話になられる」という表現は二重敬語となり間違った表現です。「お話」と「られる」の両方が尊敬語で重複しているため二重敬語になります。
「お話になられる」の正しい表現は「お話になる」なので、相手に話すことをお願いするときには、「お話になってください」または「お話ください」を使いましょう。
「お話ください」の類語と言い換え表現
「お聞かせください」とは「聞かせてほしい」
「お聞かせください」は「聞く」の謙譲表現を使って相手に話を聞かせてほしいとお願いするときに使う表現です。聞き手が主語になっている点が「お話ください」とは違いますが、謙譲表現を使っているため目上の人にも使えます。
「おっしゃってください」は「言う」ことがポイント
「おっしゃってください」は動詞「言う」の尊敬語「おっしゃる」を使った尊敬表現で、相手に話すことを促すときに使われます。
「お話ください」との違いは、「お話しください」はある程度まとまった話を相手に話をしてほしいとお願いするときに使い、「おっしゃってください」は「言う」ことに焦点が当てられています。そのため、まとまった話でもいいですし、たった一言でも相手に話してほしいという場合にも使われます。
「お話ください」の英語表現
「お話ください」は英語で「please tell me」など
「お話ください」は「please tell me」と英訳します。「話す」という意味の動詞「tell」に目的語として「自分」の意味の「me」、そして相手に丁寧に頼むときに使う「please」を使います。
より丁寧な表現の場合は「Could you please tell me」
「please tell me」だと簡素的で丁寧さに欠ける印象があるならば、「Could you please tell me」と言うとより丁寧な表現になります。また「tell」の代わりに「talk to」を使うと、相手が話しをするという意味に加えて、話し合うという意味合いが含まれてきます。
“Could you talk to me, please?”
「お話ください」
まとめ
「お話ください」は相手に話をしてほしいとお願いするときの表現です。敬語表現として目上の人にも使えます。ただし「お話しください」のように「お話し」が正しい表記になります。メールや書類では「お話しください」と書いたほうがよいでしょう。また、類語として「お聞かせください」や「おっしゃってください」という表現もあります。
先ほどご旅行について、お話ください。