「恐縮です」と答えたり「恐縮ですが」と話を切り出したりする「恐縮」という言葉。ビジネスにおいてはさまざまな意味合いで使われる便利な表現です。
この記事では、「恐縮」をうまく使いこなせるよう、複数の意味とそれぞれの使い方・例文を解説します。言い換え方についても紹介していきます。
「恐縮」の意味とは?
「恐縮」の意味は「申し訳なく思うこと」
「恐縮(きょうしゅく)」とは、相手の思いやりや、その厚意に伴ってかけた迷惑などについて、申し訳なく思うことを意味します。
「恐縮」は「申し訳なく思うこと」という意味であることから「恐縮に思います」とは使わず、「恐縮する」「恐縮です」「恐縮なことです」などと使います。
「恐」は恐れる「縮」は縮まるという意味
「恐縮」の「恐」は「恐れる」、「縮」は「縮まる」という意味を持つ語です。「恐れて縮まる」とのイメージからは、まさに身を低くして恐縮するさまが浮かぶようです。
「恐縮」のビジネスでの使い方と例文
ビジネスでは「クッション言葉」として活用
ビジネスにおいては、「恐縮」はコミュニケーションを円滑にするためのクッション言葉としてしばしば用いられます。
上司や取引先の人に対して何らかの依頼をする場合、単刀直入な物言いは避けて丁寧な表現をしたいものです。たとえば「メールの返信を明日までにもらいたい」ということを伝えたい場合、「返信は明日までにお願いします」と要件のみ伝えたのでは、一方的で上から目線な印象となってしまいます。
そのような場合は、「恐縮ですが」と切り出してから本題に入る形をとります。無理を言って申し訳なく思っているのですが、という意味を表現する「恐縮」を前置きすることで、遠慮の気持ちを伝えます。「恐れ入りますが、明日までに返信をいただけますようお願いいたします」といった形です。
「恐縮」を使って「申し訳ない」気持ちを伝える
他人に迷惑をかけてしまったようなときに、申し訳ないことをしたという気持ちを伝える場合には、「ご迷惑をおかけしてしまい、恐縮しております」と伝えます。
迷惑をかけたことを、申し訳なく思い、身を低くする思いです、という現在の自分の気持ちを伝えることができます。
「恐縮」で「感謝」を伝えるときの使い方
相手が厚意(こうい:思いやりや好意のこと)を寄せてくれた場合、感謝の気持ちを持つとともに、気を遣わせたことに対して申し訳なく思う感情が湧くことがあります。
そのような、申し訳ないという気持ちが混ざった感謝の意を「恐縮」で表現する使い方もあります。
たとえば、同僚からおみやげをもらった際に、「ありがとうございます」という気持ちとして「恐縮です」と言ったりします。「気を使わせて申し訳ありません、ありがとうございます」という気持ちを示す使い方です。
「恐縮」を使った表現
「恐縮」を強調する「恐縮しきり」
「恐縮」している気持ちを強調したいときに使う言い回しに、「恐縮しきり」があります。「恐縮」のあとに「回数が多いさま・たびたび」という意味の「しきり」を付けることにより、強く恐縮しているさまを表現します。
「恐縮の限り」「恐縮の至り」「恐縮の極み」
自分の失敗や落ち度などに対して、非常に申し訳なく思い、身の縮まる思いであることをより強く伝える表現に、「恐縮の限り」「恐縮の至り」「恐縮の極み」といった言い回しがあります。
「限り」とは「限界・果て」という意味で、恐縮が限界まできていることを表します。「至り」「極み」とは「最高の状態に達していること」という意味で、「限り」と同じく、恐縮の値がマックスであることを表現します。
なお、「恐縮の至り・極み」の意味を持つ四字熟語に「恐縮至極(きょうしゅくしごく)」があります。
- 弊社の社員の不祥事につきまして、まことに恐縮の限りでございます
- 目標値を達成できなかったことについて、恐縮の至りです
- 今回の不手際は恐縮の極みであり、まことに恥ずべき事態です
「誠に恐縮ではございますが」は乾杯の音頭でよく使う
結婚式などで乾杯の音頭を取る人が「誠に恐縮ではございますが、乾杯の音頭を取らせていただきます」などと発言することがあります。
控え目であることが美徳とされる日本におけるマナーのようなもので、「このような晴れやかな席で、私のようなふつつかな者が前に出て申し訳ないのですが」と前提となる立場を表明した上で、大きな声で音頭を取るものです。
「恐縮でございますが」ではなく「恐縮では」という表現となるのは、「申し訳なく思いながらも(音頭を取ります)」という「ではあるものの」の意を表しています。この表現は「僭越ながら」に置き換えることもできます。「僭越(せんえつ)」とは、「自分の地位などを超えて出過ぎたことをすること」という意味です。
「恐縮に存じます」「恐縮に思います」は誤用
「恐縮」は、先に説明したとおり「申し訳なく思う」、あるいは「ありがたいとともに申し訳なく思う」という意味で「思う」までが含まれている言葉であるため、「恐縮に存じます」「恐縮に思います」と使うのは、二重表現となるため誤りです。
「恐縮です」をより丁寧に表現したい場合は、「恐縮でございます」「恐縮しております」「恐縮いたしております」など使います。
「恐縮」の言い換え方とは?
「恐縮」の言い換え表現「すみません」「申し訳ない」
「恐縮」していることを伝えたいけれど、もう少しカジュアルでくだけた言い方をしたいと思うときには、「すみません」「申し訳ない」などの言い換え方があります。
あるいは、「反省しています」など、単刀直入に気持ちを伝える言い方もできます。
「恐縮」の類語「恐れ入ります」はやわらかい印象
「恐縮です」「恐縮でございます」の漢語的表現は固い印象を与えるため、やわらかい表現にしたい場合には和語的表現である「恐れ入ります」に言い換えることができます。
相手の厚意に対して「恐縮です(すみません、ありがとうございます)」という意味で「恐れ入ります」と使ったり、「恐縮ですが(すみませんが)」という意味で「恐れ入りますが」と使ったりします。
ただし、自分の失敗などに対して「申し訳なく思うこと」という意味で使う「恐縮」は「お恐れ入ります」に言い換えることはできません。
ご迷惑をおかけしてしまい、恐れ入ります。
「大変畏れ多いことでございます」に言い換えも
目上の人などからの厚意に対して、畏れ多くもありがたいという気持ちを表現する場合には、「大変恐縮でございます」のほかに「大変畏れ多いことでございます」との表現もあります。
「恐縮」の英語表現とは?
申し訳ない気持ちを伝える「恐縮」の英語は「being sorry」
「恐縮」の英語表現はいくつかありますが、一般的なものに「being sorry」があります。「be sorry (for troubling)」とは「恐縮する」という意味です。
I am very sorry for having caused you a lot of troubles.
ご迷惑ばかりおかけし恐縮の限りです。
申し訳なくもありがたい気持ちを伝える「being much obliged」
申し訳ないという気持ちを含む感謝の意味の「恐縮」は、厳密には同じ英語表現はありませんが、近い表現に「being much obliged」や「being grateful」があります。
「be [feel] much obliged to」は、「~に感謝する」という意味がある丁寧な表現です。
I am very much obliged to you for your warm support.
あなたの暖かいご支援、恐縮に存じます。
まとめ
「恐縮」は「恐れて縮まる」という意味の漢字からも類推できるように、「申し訳なく思う」という意味の言葉です。謙譲を美徳とする日本人のメンタリティーに合致する言葉であるため、さまざまなニュアンスで使われています。
特に日本的な使い方が「感謝」の意で「恐縮」が使われることであるといえます。英語圏などにおいては、「感謝」と「恐縮(申し訳なく思う)」が共存する表現はないことからも日本特有の考え方であることがわかります。
彼は度重なるミスを上司に指摘された際、恐縮しきりだった