キリスト教の司祭には「神父」と呼ばれる人と「牧師」と呼ばれる人がいますが、何が違うのでしょうか。この記事では、「神父」と「牧師」の意味や、服装・身分の違いについて解説のほかに、結婚式で司祭を務めてくれるのは「神父」と「牧師」のうち、どちらなのかも説明します。
「神父」とは?
神父とは「カトリック教会や東方正教会の司祭の尊称」
「神父(しんぷ)」とは「カトリック教会や東方正教会の司祭」を意味しています。「カトリック教会(ローマ・カトリック教会)」とはキリスト教三大宗派のひとつで、ローマ教皇を首長とするキリスト教の宗派です。また、「東方正教会」もキリスト教三大宗派のひとつに数えられ、ビザンチン帝国のキリスト教が起源です。
教会で行われるミサを執り行い、信徒に洗礼や告解などの儀式を行います。そのほかに、サクラメントと呼ばれる秘蹟(ひせき)を授けるなど、教会で執り行われる事細かな事柄の責務を負う役目があります。
「神父」は、カトリック教会や東方正教会の「司祭」と「尊称」も兼ねています。つまり、「神父」という職業名があるのではなく、教会の司祭に対して尊敬の意を込めて「神父」と呼ぶのです。
「神父」の代わりに「霊父」と呼ばれていたことも
現在ではカトリック教会や東方正教会の司祭を「神父」と呼ぶことが定着しましたが、かつては「霊父」と呼ばれていたこともありました。
「神父」は中国語訳の言葉ですが、「神父」という言葉から「神の父」という誤解を受けることを嫌い、代わりに「霊父」という言葉が用いられていたことがあったのです。しかし定着することなく、「神父」が引き続き使われました。
「牧師」とは?
牧師とは「プロテスタント教会の教職名」
「牧師(ぼくし)」とは「プロテスタント教会の教職名」です。「プロテスタント教会」とは、カトリック教会から宗教改革によって分かれた宗派で、キリスト教三大宗派のひとつです。カトリック教会のなかにもマルチン・ルターの信仰思想を起源に持つルター派教会、カルバン思想を根拠にした改革派教会などがあります。
教派によって違いはありますが、「按手(あんしゅ)」と呼ばれる頭に手を置き霊的な力を与えられる儀式を受けて牧師となり、教会で説教などを通して聖書の言葉を教え、信徒を導く役割を担っています。
「牧師」の語源は「羊の牧者」
「牧師」という言葉は「羊の牧者」です。つまり「羊の世話をする人」「羊飼い」が語源になります。
キリスト教の教典である聖書のなかで、キリストが自身のことを「羊の牧者」と例えていたことに由来しています。「羊」とは人々のことを指し、牧者は「迷いやすい羊を導く者」であることから、キリストは自らを「羊の牧者」と例えました。
「神父」と「牧師」の違いとは?
【服装】「神父」には平服があり「牧師」にはない
「神父」には平服があり、基本的なデザインは立て襟で、足元まであるゆったりとしたコートのような洋服です。「キャソック」または「カソック」と呼ばれています。
神父は黒いキャソックが着ますが、司教は赤紫、教皇は白など地位によって色が違います。また、儀式に応じて「キャソック」の上にストールのような「ストラ」を肩から掛けたり、特別な儀式では白いキャソックを着用することもあります。
一方、「牧師」には神父のような平服はありません。礼拝や儀式では白シャツのスーツ姿が一般的です。
【地位】「神父」は聖職者「牧師」は教職者
「神父」と「牧師」どちらも教会内で聖書の教えを伝えるなど似たような仕事をしていますが、教会における地位が異なります。
「神父」は教会内の指導者という立場で「聖職者」です。教会の誕生にかかわったキリストの使徒を継ぐ者とされている「司教」の次の地位で、信徒や一般の人よりも高い地位になります。
一方、「牧師」は「教職者」で地位としては信徒と同じです。地位は信徒と変わりませんが、教会で代表者のような立場になります。
【呼び方】神父は「神父様」牧師は「○○先生」
「神父」と「牧師」では教会内での呼ばれ方にも違いがあります。カトリック教会の信徒は神父のことを「神父様」と呼ぶことが多いのに対して、プロテスタント教会の信徒は牧師の氏名を使い「○○先生」や「牧師先生」と呼びます。
「神父」は尊称のため呼ぶときに「神父」を使えるのですが、「牧師」は尊称ではないことから牧師を呼ぶときには教えを乞う相手という意味で「先生」が使われます。
【任命の儀式】「神父」は叙階「牧師」は按手礼を受ける
神父や牧師になるためには、神学校などで学び神父や牧師になるための準備として助祭や伝道師としての経験を積んだ後、ある儀式を受けて神父または牧師になります。
神父になるため儀式は「叙階(じょかい)」と呼ばれ、牧師になるための儀式は「按手礼(あんしゅれい)」と言われています。
【性別・結婚】「神父」は独身男性「牧師」は女性や既婚者も
神父や牧師になる際、「性別や結婚」という点でも条件に違いがあります。まず、カトリック教会には「神父は独身男性しかなれない」という規律があり、現在も「既婚男性」や「女性」は神父にはなれません。そのため、神父であるためには結婚してはいけないということになります。
一方プロテスタント教会では、牧師の性別を問わず独身である必要もないため、「女性」や「既婚者」も牧師になることが可能です。
「神父」と「牧師」結婚式での違いとは?
「神父」はカトリック教徒の結婚式のみ司祭をする
カトリック教会は規律が厳しく、神父はカトリック派の信仰者の結婚にしか立ち会えません。一方、プロテスタント教会は、信仰に関係なく誰でも結婚式を挙げることが許されています。
「牧師」が結婚式で司祭をすることがほとんど
チャペルでキリスト教式の結婚式をする場合は司祭のほとんどが「牧師」です。結婚式場のチャペルはキリスト教徒でなくても結婚式を挙げられて、それを受け入れているのがプロテスタント教会だからです。そのため、キリスト教式の司祭は「牧師」がほとんどだと言えます。
「神父」と「牧師」を英語で言うと?
「神父」は英語で「Father」
「神父」は英語で「Father」です。「父」の意味の言葉として知られる「father」ですが、「father」には「神父」という意味もあります。ポイントは、神父の意味でfatherを使うときは、頭文字を大文字にすることです。
「牧師」は英語で「pastor」
「牧師」は英語で「pastor」です。「Father」と同じように頭文字は大文字にして、「Pastor Smith(スミス牧師)」のように書き表します。ただし「牧師」は教職者であることから、教職者の意味の「minister」が使われることもあります。
もしも相手が神父か牧師かわからないときには、聖職者という意味の「priest」を使うといいでしょう。
Pastor Smith:スミス牧師
まとめ
「神父」と「牧師」はどちらもキリスト教の司祭です。「神父」とはカトリック教会または東方正教会の司祭、「牧師」はプロテスタント教会の司祭を指します。「神父」になれるのは独身男性のみですが、「牧師」は女性や既婚者でもなれるのが特徴です。
また、「神父」と「牧師」では服装や信徒からの呼ばれ方が異なり、英語で表現する際も敬称に違いがあるため気をつけましょう。
Father Smith:スミス神父