メールや書面で「まことに略儀ながら…をもって」と文末に記されているのを目にしたこともあるかと思います。難しい言葉なので使いこなすのも難しそう、と思ってしまいますが、実はビジネス文書を格上げするのにシンプルで便利な表現です。すぐに使えるよう解説します。
「略儀ながら」の意味・読み方
「略儀」の意味は「~ではありますが」
「略儀ながら」の意味は、「~ではありますが」です。「ながら」をつけた「踏むべき手続きを簡略化したものではありますが」という意味となります。
「略儀(りゃくぎ)」の意味は「踏むべき手続き(=儀)を簡略化したもの。略式。」です。「略儀ながら書面をもって申し上げます」のように使います。
読み方は「りゃくぎ」
「略儀」の読み方は「りゃくぎ」です。
「略儀ながら」の使い方
「略儀ながら」は直接会えない時に使う
「略儀ながら」は相手先に実際に訪問してお礼やお詫びを伝えたいのだが、行くことができないのでまずは手紙でご挨拶を、という場面で従来から用いられてきた表現です。「略儀ながら書中にてご挨拶申し上げます。」のように使います。近年はメールでもよく用いられる表現です。シチュエーションとしては、季節の挨拶、年末年始の挨拶、お礼、お詫び、報告、お悔やみ、お祝い、などの場面で使用します。
「まずは略儀ながらメールにてご挨拶申し上げます。」と「まずは」と添えて「取り急ぎ連絡しました」という気持ちを表すこともあります。このように書くと、まずはメールで連絡し、その次のアクションとして実際に訪問しなければならない気がしますが、メールだけの挨拶でも失礼になることはありません。略儀の挨拶のあとに実際に訪問できるのがもちろんベストではありますので、状況に応じて責任を持って行動しましょう。
「略儀ながら」は結びの言葉
書簡の結びの表現のため、文頭や文中ではなく文末に用います。「略儀ながらメールでご挨拶させていただきます。このたびは…」などとはじめの挨拶で用いるのは間違いですので気を付けましょう。
お礼やお詫びの時の使い方
お礼やお詫びの時に「略儀ながら…」を使用するのは問題ありません。というより、挨拶に直接行けない時に使用するので、お礼やお詫びの場面でよく用いられます。
お礼の気持ちを深く表したい時や、お詫びの気持ちをより丁寧に伝えたい時などは、
「甚だ略儀ではございますが、まずは書面にてお礼申し上げます/お詫び申し上げます」
と丁寧なクッション言葉を添えて使用するとよいでしょう。
また特にお詫びの場合は、状況に応じてさらに丁寧に書く方がよいこともあります。「本来であれば直接伺うべきところ、甚だ略儀ではございますが、まずは書面にてお詫び申し上げます」などと書きます。
「略儀ながら」の類語とは?
類語は「無作法ながら」「失礼ながら」など
「略儀ながら」は「踏むべき手続きを簡略化したものではありますが」という意味であるとともに、「礼儀を欠いてしまいますが」という気持ちを表す表現でもあります。「礼儀を欠く」という意味の類語と例文は次のとおりになります。
- 無作法ながら ⇒ 無作法ながら書面にてお詫び申し上げます
- 失礼ながら ⇒ 失礼ながらメールにてご挨拶申し上げます
- 非礼ながら ⇒ 非礼ながら書面にてご連絡申し上げます
以上は間違いではないですが、どの言葉もネガティブな印象の漢字である「無・失・非」が用いられているため、結びの言葉としてはあまり印象が良くありません。ここはやはり格式の感じられる定型文としての「略儀ながら」を使いこなしたいものです。
「略式」とは違う?
踏むべき手続きを略するのに「略儀」という普段見慣れない言葉ではなく、馴染みのある「略式」を使った方が安心できる、と思う人もいるかもしれません。それでは「略式ではありますが…」と結んでも問題ないのでしょうか?
「略式」の意味は「正式な手続き・形式の一部を省いて手軽にしたやり方」であるため、意味としては間違いないのですが、「略儀」に比べると軽い印象になってしまいます。「略式」という言葉は「簡単なやり方」「手軽な方法」という意味で日常のシーンで頻繁に用いられるので、「礼儀を欠いてしまい申し訳ない」という深い気持ちを表すのには適切とは言えないでしょう。「略儀ながら」を自信を持って使ってみてください。
「儀」は伝統のある言葉
「儀」のつく言葉は「律儀」「流儀」など
「儀」という言葉には「踏むべき手続き」という意味があり、作法を重んじる日本の伝統を表す言葉に「儀」のつく言葉がたくさんあります。【律儀】・【流儀】・【礼儀】・【行儀】・【儀式】などです。
本来直接お会いしてご挨拶したいが、ままならず申し訳ない、という気持ちを表す「略儀ながら…」という言葉は、日本人の相手を思いやる繊細な気持ちをよく表す言葉と言えます。
まとめ
「略儀ながら」は「踏むべき手続きを簡略化したものではありますが」という意味で、お礼やお詫びに伺うべきところを書面やメールで挨拶する時の結びの言葉でした。「礼儀を欠いて申し訳ありません」という気持ちを丁寧に表す定型文として是非とも覚えておきましょう。