「質実剛健」という四字熟語があります。一般的には真面目でたくましい人に対して使われますが、正しい意味や使い方を把握している人は意外に少ないかもしれません。また男性のみならず、女性に対して使うのは適切なのでしょうか?
ここでは「質実剛健」の意味や読み方の他、語源や使い方また類語や英語を紹介します。
「質実剛健」の意味とは?
「質実剛健」の意味は「素朴で強く真面目なこと」
「質実剛健」とは「人柄が素朴で真面目、そしてたくましく強いこと」を意味する四字熟語です。芯がしっかりとしていながらも、気取った素振りがないさま、また飾り気がなく誠実なさまを表す言葉となります。つまり、人から好まれ親しまれる人柄を表す四字熟語の一つでもあります。
「質実剛健」は「質実」と「剛健」の2つの言葉で組み立てられた言葉です。そして、それぞれの意味が全体の意味を表す四字熟語となっています。
まず「質」は「質素」、「実」は「誠実」などを表し、「質実」は「さっぱりとして飾り気がなく、真面目で誠実であること」を意味します。一方「剛健」は「健康的でたくましく、力強いさま」を表します。そして「質実剛健」で「気取らず真面目であり、強くたくましいこと」となります。
「質実剛健」の読み方は「しつじつごうけん」
「質実剛健」の正しい読み方は「しつじつごうけん」です。「質実剛健」の「質実」を「しつみ」と誤読してしまわないように気を付けてください。
「質実剛健」の語源は「戊申詔書」
「質実剛健」は明治時代に政府が発行した「戊申詔書(ぼしんしょうしょ)」の一説が語源とされています。「戊申詔書」とは、日露戦争の終結後の1908年に明治天皇が発布した天皇直々の公文書です。戦後の社会情勢への不安を解消するため国民に向けて発布されました。
「戊申詔書」は、主に「国民が一致団結し、国の発展に貢献すること」を中心として掲げたものです。「国民は仕事に励み勤勉に倹約をすること」「質実を重んじ自らを励ましていくこと」などを求めた内容であることから、「質実剛健」という言葉が生まれたと言われています。
戦後の不安定な情勢に加え、明治維新や鎖国は日本国家に大きな影響を与えました。欧米諸国に比べて遅れをとっていることを知った日本は、産業・経済において改革を目指します。そういった国家発展へ意気込みから「質実剛健」という姿勢が確立していったのです。
「質実剛健」の使い方と例文
「質実剛健」を社訓や校訓・座右の銘として使う
「質実剛健」とは、人から好まれるロールモデル的な姿勢を表す四字熟語でもあります。そのため、社訓や校訓、また個人が掲げる座右の銘として選ばれることが多くあります。
「質実剛健」は、日本があらゆる分野で改革を試みた時代に生まれた言葉です。欧米諸国から多くを学び、異種な技術を取り入れ、試行錯誤をした激動期に確立した精神とも言えるでしょう。
「質実剛健」は男性に対して使うことが多い表現
「質実剛健」とは「気取らず勤勉に働き、学業に励み、そしてたくましく強いこと」を表す言葉です。ここで注目したいのが「剛健」という言葉の意味です。
「剛健」とは「男性的で頑丈なさま」を表すため、通常は男性に対して使われる熟語表現です。現代では力強くしっかりとした女性も多くいますが、言葉が生まれた明治時代の日本社会には、そのような気風はあまりありませんでした。現在も「質実剛健」を女性に対して使うことはあまりなく、男性に対して使われるのが一般的です。
「質実剛健」を使った例文
- 彼は質実剛健を絵に描いたような人である
- 私の通う高校は質実剛健の精神を重んじる校風がある
- 我が家では質実剛健をモットーとし、子供たちを育てている
「質実剛健」の類語とは?
「剛健素朴」は「心身が頼もしく飾り気のないさま」
「剛健素朴(ごうけんそぼく)」とは「心も体も強く、飾り気のない素朴なこと」という意味の四字熟語です。「剛健素朴」は「剛健」と「素朴」の2つの言葉が示す通り、「強くたくましいさま、気取らず偉ぶらない謙虚なさま」を表します。
「質実剛健」の類語の中でも、極めて近い意味を持つ四字熟語であるとも言えます。
「剛毅木訥」は「たくましく気取らないこと」
「剛毅朴訥(ごうきぼくとつ)」とは「心身共にたくましく気取らないこと」という意味です。芯が強く頑丈で偉ぶらないさま、そして、何事にも動じず謙虚にものごとに励む精神を表します。企業が掲げる社訓や求める社風などに「剛毅朴訥」が選ばれることもあります。
「志操堅固」は「何があっても主義主張を変えないこと」
「志操堅固(しそうけんご)」とは「意思や主義・主張を断固として守り、自分の考えを変えないこと」を意味します。他人や周囲に影響されることなく、自分の意見をかたくなに守り通す芯の強さを強調する四字熟語です。
「志操堅固」には「頑固」と似たニュアンスがありますが、どちらかと言うと「自身の思いや思想などを最後まで貫く」という強い意志が感じられる表現でしょう。
「質実剛健」の対義語とは?
「華美柔弱」は「華やかさが勝り心身が弱いこと」
「華美柔弱(かびにゅうじゃく)」とは、「華やかさや煌びやかさが勝り、心身が弱々しいこと」を意味します。つまり、質素や素朴なこととは逆に、晴れ晴れしく華やかさだけに集中し気力や身体が軟弱なことを表す言葉です。
「奢侈文弱」は「贅沢で文事ばかりに没頭すること」
「奢侈文弱(しゃしぶんじゃく)」とは、我慢をせずに贅沢を好み、芸術や学問だけに没頭することを意味する表現です。
「奢侈文弱」の「奢侈」とは「度を越えたおごりや、身分の丈以上の贅沢な暮らしをすること」、また「文弱」は「学問や芸事だけにふけること」を表しています。我慢や努力をせずに好きなことだけをして、大金を使ったり派手な生活を送ることを「奢侈文弱」と呼んでいます。
「質実剛健」を英語で表すと?
「質実」「剛健」の英語訳を組み合わせる
「質実剛健」は日本語特有の言い回しを使った四字熟語です。そのため、英語でストレートに言い表すフレーズはありません。
しかし、「質実」と「剛健」のそれぞれの意味を表す単語は存在します。それらを組み合わせて上手くつなげていけば、「質実剛健」が意味するニュアンスを伝えることができます。
「質実剛健」の英語表現の例
さっそく「質実」と「剛健」のそれぞれを意味する単語を挙げてみます。
- 質実:humble,modest, frugal, simple
- 剛健:tough, strong, durable, resilient, rugged
これらの単語を組み合わせて「質実剛健」を表していきましょう。
- You are humble, simple and very tough.
あなたは質実剛健ですね - Being humble and durable are what we need
質実剛健であることが必要です
まとめ
「質実剛健(しつじつごうけん)」は、「気取らず真面目で、強くたくましくこと」を意味し、語源は明治天皇か発布した「戊申詔書」となります。
また「質実剛健」は「男らしい」という意味を持つ「剛健」を使っていることから、女性ではなく男性に対して使うのが適切だとされています。使う相手や使い方には注意しましょう。