「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は中国生まれのことわざですが、その意味を正しく理解して使えているでしょうか。「虎の子」にたとえられたものは何か、このことわざの意味を解説します。さらに歴史的背景についても紐解き、類語の四字熟語や反対語、英語表現もご紹介します。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の意味や読み方とは?
意味は「危険を冒さなければ成功しない」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の意味は、「危険を冒さなければ、大きな成果は得られない」です。つまりここでいう「虎の子」とは「成功」を意味します。
虎の子供を得ようとしたら、虎の住む巣穴に入るという危険を冒さなければいけないというたとえから生まれました。
読み方は「こけつにいらずんばこじをえず」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は「こけつにいらずんばこじをえず」と読みます。「虎子」を「こじ」ではなく濁らずに「こし」と読むこともあります。
注意すべきことは、「入らずんば」を「はいらずんば」と誤読することです。「入らずんば」は「いらずんば」と読みますので気を付けてください。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の由来と逸話
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の由来は武将の言葉
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は、中国は漢の武将「班超」が兵士に向けて語った言葉が由来しています。
動揺して士気が下がった部下に、班超は「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と語り勇気づけました。その結果、班超の軍は匈奴の軍に突撃して全滅、勝利を収めたことからこのことわざができました。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の逸話
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」が生まれたエピソードをもう少し掘り下げてみましょう。
中国は漢の時代、日本の後期弥生時代のころ、武将である班超の軍は漢の国から西域に送られてきました。班超たちは西域に着いたころは手厚い歓迎を受けていたのですが、ある時から急にその接待がなくなりました。どうしたのかと探ってみると、漢の敵である北方の匈奴(きょうど)の使者が西域を訪れていたからでした。
それを知った班超軍が不安を覚えたとき、班超は部下を勇気づけようと「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と語り士気を上げます。そして見事匈奴の軍を破り勝利を収めたのでした。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の使い方と例文
成功を収めるための困難な状況で使う
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は、成功を収めるために困難な状況を乗り越えなくてはならないときに使われます。たとえば、大胆な決断や行動が求められるようなハイリスクな場面が考えられるでしょう。
ほかの人では怖気づいてしまうような物事に対しても、「成功のため」と一歩踏み出すようなシーンで使う表現です。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」を使った例文
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」」を使った例文をご紹介しましょう。
- 「虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うし、危険を承知でやってみようか」
- 「商談相手が何を考えているのかわからないままで商談を進めるのはリスクが多い。でもどうしても成功させたい商談だから、このまま進めてみよう。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ」
- 「次のプレゼンで勝ち目はないのならあきらめるか。いや、虎穴に入らずんば虎子を得ずのごとく、難しいこともいろいろがあるが最後まで頑張ってみよう」
- 「大きな業績を上げた人物は、虎穴に入らずんば虎子を得ずを座右の銘にしている人が多いと聞く」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の類語と反対語
四字熟語で言うと「虎穴虎子」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」を四字熟語にすると「虎穴虎子」です。読み方は「こけつこし」で、四字熟語の場合は「こじ」ではなく「こし」と読みます。
意味は「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と同じで、危険を冒さなければ大きな成果は得られないことを表します。
ことわざの類語は「危ない橋も一度は渡れ」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と同義のことわざを紹介しましょう。どのことわざも苦境にあった時に後押しをしてくれることわざばかりです。
- 「危ない橋も一度は渡れ」
- 「危ないところに登らねば熟柿は食えぬ」
- 「枝先に行かねば熟柿は食えぬ」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の対義語
対義語①「石橋を叩いて渡る」は慎重な態度を意味する
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とは反対の意味のことわざを見てみましょう。何かを成し遂げるためには慎重にすべきだという心構えを伝えることわざばかりです。
- 「石橋を叩いて渡る」
- 「君主危うきに近寄らず」
- 「聖人危うきに近寄らず」
- 「賢人は危うきを見ず」
- 「命あっての物種(ものだね)」
- 「命を知る者は巌牆(がんしょう)の下に立たず」
※巌牆とは今にも崩れかかった高い塀のこと。
対義語②「開いた口へ団子」は努力知らずという意味
また「努力をしなくても思いがけずに幸運が訪れる」という意味のことわざも「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の対義語として考えられます。そのことわざを挙げてみましょう。
- 「開いた口へ団子」
- 「開いた口へ牡丹餅」
- 「棚から牡丹餅」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の中国語表現
中国語では「不入虎穴、焉得虎子」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は中国語では「不入虎穴、焉得虎子」と書き表します。『後漢書』の班超伝からの出典です。
「不入虎穴、焉得虎子」の後に続く士気を上げる言葉
原書では「不入虎穴、焉得虎子」の後に、敵を倒す戦略を伝えて、班超側が大きな成果を上げられるはずだと班超は語ります。その部分の現代語訳は、次の通りです。
「計略としては、夜に(敵である匈奴の一支族の)鄯善を火攻めにするだけのことで、こちらの人数が少ないのが分かれば(匈奴の使者は)恐れおののき皆殺しにできるだろう。使者を滅ぼせば鄯善が恐れて、我々が功績を挙げられるだろう」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の英語表現
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の意味を伝える英語表現はいくつかあり、英語圏でも「危険を冒さなくては成功はできない」という考え方はあるようです。それではその英語表現を紹介します。
The meaning of “虎穴に入らずんば虎子を得ず”
- “Nothing venture, nothing have.”
「危険にさらされなくては、何も得らえない」 - “The more denger the more honour.”
「危険が大きくなるほどに、得られる名誉も大きくなる」 - “no risk no reward.”
「危険失くして、報いも得られない」
まとめ
座右の銘としてもよく取り上げられる「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は、何かを成し遂げようという高い志を持たれる方に好まれることわざです。危険を顧みずに成功するための努力を惜しまない姿勢は、チャレンジし続ける人が避けては通れない道かもしれません。