お彼岸の時期にいただく「おはぎ」と「ぼたもち」。とてもよく似たふたつですが、なにが違うのかご存じでしょうか?この記事では、「おはぎ」と「ぼたもち」の違いに関するさまざまな説をはじめ、お彼岸に食べる理由やことわざなどの雑学もご紹介。基本的な作り方もご紹介していますので、参考にしてみてください。
「おはぎ」と「ぼたもち」の違いとは
「おはぎ」と「ぼたもち」の違いは季節に由来する
「おはぎ」と「ぼたもち」は季節によって呼び方が違います。春のお彼岸に食べるものを「ぼたもち」、秋のお彼岸に食べるものを「おはぎ」と呼びます。
「ぼたもち」は漢字では「牡丹餅」。その名の通り、春のお彼岸の時期に花を咲かせる牡丹が名前の由来とされます。華やかで縁起のいい花といわれる牡丹に見立てることにより、魔除けや病除けを期待されていたと考えられます。また、牡丹は女性の血を調える漢方としても古くから知られていました。
「おはぎ」は漢字では「御萩」。秋の七草のひとつである萩の花と、粒あんに使われる小豆の形が似ていることが名前の由来とされています。萩の花も牡丹と同じく濃いピンク色。赤色はかつて魔よけの色とされており、牡丹同様、魔を祓う効果を期待されていたのでしょう。萩も婦人病に効く漢方の生薬として使われていました。
夏は「夜船」、冬は「北窓」とも
「おはぎ」と「ぼたもち」には、夏と冬にはまた別の呼び方があります。夏の別名は「夜船(よふね)」、冬の別名は「北窓(きたまど)」で、どちらの名前も言葉遊びが由来となっています。
「おはぎ」や「ぼたもち」は、もち米とお米を混ぜて炊き、すりこぎでつぶして作るため、餅つきはしません。杵で餅つきをする時の「ペッタン、ペッタン」という音がせず、隣家の人たちもいつ「ついた」のかわからないため、闇に紛れいつ「着いた」のかわからない夜船になぞらえ、「搗(つ)き知らず」が「着き知らず」となり、「夜船」と呼ばれるようになりました。
冬の「北窓」は、「搗き知らず」を「月知らず」になぞらえており、月の見えない北の窓で「北窓」と呼ばれるようになりました。
地域によっては時期が変わっても同じ呼び方の場合も
春夏秋冬で「ぼたもち」「夜船」「おはぎ」「北窓」と呼び分けられる「おはぎ」や「ぼたもち」ですが、今では季節で区別されることはほとんどなくなってきています。
「おはぎ」と「ぼたもち」の定義は地域によってまちまちで、季節に関係なくどちらかの呼び方で通年呼ばれ、親しまれている場合もあります。
また、小豆があまり収穫されない地域では、大豆のきな粉やごまを使ったり、漁村や海の近くの地域などでは青海苔をまぶしたりと、それぞれ地域の特産品で小豆の代用しているところもたくさんあります。
「おはぎ」と「ぼたもち」の違いには諸説あり
「ぼたもち」はこしあん、「おはぎ」はつぶあん
季節により呼び方が変わる「おはぎ」と「ぼたもち」。一般的に「ぼたもち」はこしあん、「おはぎ」はつぶあんとされていますが、これにはあんの材料、小豆の収穫時期が関係しています。
小豆の収穫時期は秋のお彼岸の頃です。そのため、秋のお彼岸に食べる「おはぎ」は、収穫したばかりの柔らかい小豆をあんに使うことができます。収穫したばかりの小豆は皮が柔らかく、香りもよいため、一緒につぶして、つぶあんを作ります。
一方、春のお彼岸に食べる「ぼたもち」は、冬を越し皮が固くなった小豆を使うことに。固くなった皮を使うと食感が悪くなるため、皮を取り除いたこしあんを使います。
ただし、現在は品種改良や保存技術の向上により、春でも皮まで使える小豆があるため、「ぼたもち」はこしあん、「おはぎ」はつぶあんという区別も曖昧になってきています。
「ぼたもち」は大きく丸い、「おはぎ」は俵型
それぞれ花の名前を冠している「おはぎ」と「ぼたもち」は、形もそれぞれの花を模しています。「ぼたもち」は牡丹の花のように大きく丸い形をしており、「おはぎ」は萩の花のように細長く俵型をしています。
あんの種類や形などの細かい違いはあれど、「おはぎ」と「ぼたもち」はもともと同じもの。違いには季節が表れていると考えながらいただくのも風情があります。
「半殺し」と「皆殺し」
「おはぎ」と「ぼたもち」を、「半殺し」と「皆殺し」と呼ぶ地域もあります。「半殺し」と「皆殺し」は、小豆やお米の潰し方を指す言葉です。
「半殺し」とは、小豆やお米を粒が残る状態に潰したもの、「皆殺し」とは、粒が残らない状態まで潰したものを指します。つぶあんを使う「おはぎ」は「半殺し」、こしあんを使う「ぼたもち」は「皆殺し」もしくは「全殺し」「本殺し」といいます。
小豆の状態だけでなく、「おはぎ」はうるち米を使って少し粒が残る状態に潰すことが多いため「半殺し」、「ぼたもち」はもち米をを使ったお餅を使うので「皆殺し」と呼ぶ地域もあります。
「おはぎ」と「ぼたもち」の雑学
お彼岸に食べる理由
お彼岸に「おはぎ」や「ぼたもち」を食べる理由は諸説あります。そのうちのひとつが、小豆の赤い色が邪気を払う縁起物とされてきたから、という説です。災難が身に降りかからないよう、邪気を払い先祖の供養をするため、「おはぎ」や「ぼたもち」をお供えしてきたと考えられています。
また、仏教では「彼岸」とは、「彼の岸(かのきし)」という悟りの境地を指し、苦しみに満ちている「此岸(しがん:現世のこと)」と対になる言葉です。お彼岸は仏道修行に励む期間ですが、日本ではこれが祖霊崇拝の慣習と合わさって、「おはぎ」や「ぼたもち」を捧げて先祖を慰めることで、自分自身の功徳を積めると考えられていました。つまり、本来「おはぎ」や「ぼたもち」は、お供え物であり、自分たちで食べるものではなかったのです。
春のお彼岸は農作業が始まる時期にあたり、秋のお彼岸は収穫の時期にあたります。春には収穫をもたらす神々を迎えるため「ぼたもち」を、秋には収穫に感謝して「おはぎ」を作ったという説もあります。
「ぼたもち」を使ったことわざ
「ぼたもち」を使ったことわざはいくつかあります。最も有名といえることわざが、「たなぼた」と略されるほど広く浸透している「棚からぼたもち」でしょう。棚から落ちたぼたもちが偶然口の中に入るように、思いがけず幸運を得ることを表すことわざです。
同じように、思いがけない幸運が巡ってくることを指す「ぼたもちで腰打つ」や、これらと逆の意味のことわざで、思いがけない幸運が舞い込むことはまずない、という意味の「棚からぼたもちは落ちてこず」ということわざもあります。
「おはぎ」「ぼたもち」の基本の作り方
材料
「おはぎ」や「ぼたもち」は、炊飯器や市販のあんを使えば家庭でも簡単に作ることができます。材料は以下の通りです。
- もち米
- つぶあんかこしあん(お好みのもの)
- 水
作り方
- よく洗ったもち米と水を炊飯器に入れ、炊き上げて少し蒸らす。
- もち米をボウルに移し、濡らしためん棒やすりこ木で粗く潰す。(潰しすぎると粘りが出てしまうので注意する。粒が残る「半殺し」に)
- もち米、あんをそれぞれ手のひらサイズに丸める。
- あんをラップや手のひらにのせて薄く伸ばし、もち米をのせて包む。
まとめ
「おはぎ」と「ぼたもち」は、春のお彼岸に食べるものを「ぼたもち」、秋のお彼岸に食べるものを「おはぎ」と呼びます。夏と冬には、それぞれ「夜船」「北窓」という別名もあり、地域によっては、通年同じ名前で呼ばれている場合もあります。