「ライプニッツ」は「微分法」の発見や「モナド(単子論)」によって知られています。数学者でもあり哲学者でもあり、また万能の学者ともいわれたライプニッツの思想には、どのような背景があったのでしょうか?
ここではライプニッツの思想や哲学と、著書などの概要について説明します。
「ライプニッツ」とはどな人物?
まずはじめにゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646年~1716年)について説明します。
「ライプニッツ」は万能の学者
ライプニッツとは、ドイツの哲学者であり、数学者です。哲学や数学の他にも自然科学や人文科学全般に及ぶ功績も残しており、万能の学者でもあるとともに、また政治家でもありました。
「ライプニッツ」は三十年戦争終結の2年前に生まれた
ライプニッツはドイツ・ザクセン地方の中心地であるライプツィヒに生まれ、ライプツィヒ大学に学んだのち、教職の申し出を辞退し、学者の生活よりも公共的活動を求めました。ライプニッツは生涯を通じて宗教や政治や哲学、そして科学の探求を行い、それらが相関する活動を行ったことが特徴的です。
その背景には、母国ドイツの荒廃があったとされます。ライプニッツが生まれたのは三十年戦争が終結する2年前のことであり、この戦争の惨禍はドイツに深刻な荒廃をもたらしていました。経済的な損害とともに、社会秩序の崩壊や宗教の動揺がもたらした社会の解体をどのように復興するのかが、当時の思想家の問題でした。
ライプニッツは宗教と政治の問題を解決する基礎作りを自身の使命として、積極的な活動を展開しました。ライプニッツがヨーロッパ全域の一流の学者や君侯と交際し、千人以上の人々と往復書簡を交わしていたことはよく知られています。
「ライプニッツ」の哲学で重要な「モナド」とは?
次にライプニッツ哲学の代名詞ともなっている「モナド」について説明します。
「モナド」は分解できない単一の実体
「モナド」はギリシャ語の「モナス(単一の)」に由来する言葉で、「単子」と訳されることもあります。
モナドとは単純な実体であり、段階的に次の4つに区別されるとライプニッツは説明します。まず 「裸のモナド」があり、精神を究極的なモナドとして、人間精神から区別した「 動物精神のモナド」があり、その上に人間精神の「 理性的精神のモナド」があります。そして理性的精神より高次なモナドが「神のモナド」であるとされます。
著書『形而上学序説』においては、「モナド」は次の文章のように「個体的実体」の言葉で示されていましたが、やがて「モナド」の言葉にかわってゆきました。
神の作用と被造物の作用とを区別するために、「個体的実体」の概念がどのようなものであるかを明らかにする。
「モナド」は森羅万象の要素
また著書『モナドロジー』(1714年)において、ライプニッツは「モナド」を次のように説明しています。
- モナドとは、複合体を作っている単一な実体のことである。単一とは部分がないという意味である。
- 部分がないところには広がりも形もないし分割することもできない。モナドは、一言でいえば、森羅万象の要素である。
- モナドは、発生も終焉もかならず一挙に行われる。つまり神の行う創造によって生じ、絶滅によってのみ滅びる。
- モナドには、そこを通って出入りできるような窓はない。実体も具有性も、外からモナドの中に入り込むことはできない。
「予定調和論(モナド論)」はライプニッツ思想の核心
ライプニッツは『モナドロジー』において「予定調和」(モナド論)を提示します。ライプニッツの「予定調和」とは、「互いに独立したモナドからなる宇宙が統一的な秩序で保たれているのは、モナド間にあらかじめ調和関係が生じるよう、神によって設定されているからだ」という説です。これはライプニッツ哲学の核心となる考え方です。
ライプニッツは、「神によって定められた世界調和の確証として、自然および社会における個々の悪は、全般的な善によってつぐなわれる」とする予定調和論に基づく楽観論を持っていました。
これに対して、フランスの哲学者ヴォルテールが、ライプニッツの楽観論を批判した『カンディード』(1759年)を発表したことが知られています。個々の悪や苦悩はその時代の自然と社会の法則であり、それに目を閉ざしてはならないとしました。
「ライプニッツ」の「微積分」とは?
次にライプニッツが発明した微積分法について説明します。
ライプニッツは4年間の研究で「微積分法」を発見
ライプニッツはパリに滞在していた1672~1676年の4年間に数学の研究に没頭し、「微積分法」を発見しました。パスカルの論文やデカルトの『解析幾何学』の研究から、特性三角形を利用した曲線と、それに接する図形全体の面積を求める方法を考えだしました。
ライプニッツが「微分積分学」を学問として確立した
微分積分学については古代からそのアイデアは存在し、中世から近代にかけてさまざまな学者が独自に公式を考案していました。ニュートンは微分積分学の手法を用いて、天体の軌道や地球の偏平率など、さまざまな問題を解明しましたが、微分積分学を体系化したわけではありませんでした。
ライプニッツは「微積分法」を体系化して学問として確立し、その計算方法は彼の互いに異質なものの中にある同一なものを発見しようとする思想に結びつき、ライプニッツの形而上学に影響を与えました。
ライプニッツは「ニュートン」と論争?
ライプニッツの「微積分法」は1675年に発明されましたが、ライプニッツと同じ時代の数学者ニュートンもほぼ同時期に独自の微積分法を発明していました。
ライプニッツ、ニュートンの双方が「微積分法」の発見の功績を主張したため論争が起こりましたが、現在は両者の発見は独立していたことがはっきりしており、また現在使用されている記号表記はライプニッツのものとなっています。
「ライプニッツ」の名言
ライプニッツの名言を著書から紹介
最後にライプニッツの名言をその著書から紹介します。
あらゆるもののうちで互いに妨げ合うことの最も少ないものは精神であり、その完成がすなわち徳である。
私は困難にぶつかったとき、ほかの同じような困難を引き合いに出して言い逃れをするよりも、その困難じたいを解決するほうが好きである。
われわれは幸福を手に入れ、永続的な快活の状態を得るために働くのであり、真の快活とは、意識を完成することである。
神本来の力は知性であり、われわれが万物について所有する知識が明晰となればなるほど、また理性的に行為すればするほど、それだけ幸福になるだろう。
きわめて優れた実験であっても、そこから効用を引き出さなければ無益である。
部分を持たない実体は、自然的な仕方では破壊されない。
ライプニッツ著作集
次にライプニッツの主著を2つ紹介します。紹介する書籍以外にも『新しい体系』『弁神論』などがあります。
ライプニッツの著作① 『形而上学序説』
『形而上学序説』はライプニッツ哲学の体系を示したもので、1685年から翌年にかけて書かれ、ライプニッツが39歳の著書です。本書では神と実体の基本的原理を解き明かし、哲学の基本的問題は神と実体に関する規定であることを提示します。
ライプニッツの著作② 『モナドロジー』
『モナドロジー』は本来表題を持たず、1714年の晩年に知人のために書かれたフランス語の論文を、ライプニッツの死後に訳者が表題をつけて出版したものです。「モナドロジー」は「単子論」とも訳されます。内容は、先に説明した「モナド」によって世界が成立しているというライプニッツの形而上学を著したものです。
まとめ
ライプニッツはワグナーに書いた手紙に次のように記しています。「物質のいたるところに生命の原理すなわちモナドが広がっています。モナドは部分を持たず、自然的には生じたり滅びたりすることのないものです。」
モナドを「色即是空、空即是色」の「空」と読み替えてみると、案外わかりやすい概念かもしれません。ライプニッツはモナドの予定調和によって、世界が秩序で保たれている論拠を提示しましたが、仏教は「空」によって森羅万象の理を説明しているからです。