「セレンディピティ」の意味と語源は?シンクロニシティとの違いも

「セレンディピティ」はノーベル賞の受賞者がインタビューなどでよく使うことで知られている言葉です。多くの科学者や芸術家たちが好んで使う「セレンディピティ」とはどのような意味なのでしょうか?ここではセレンディピティの意味や語源と、使い方などを紹介します。あわせてシンクロニシティとの違いも説明します。

「セレンディピティ」の意味とは?

「セレンディピティ」の意味は”幸運な偶然を手に入れる力”

「セレンディピティ」の意味は、”予測していなかった偶然によってもたらされた幸運幸運な偶然を手に入れる力“です。2つの意味を含んで用いられることもあります。

特に科学の世界において、大きな発見が偶然からもたらされることが多いため、科学者がよく用いる表現です。科学者が使う時のセレンディピティは、「予測していなかった偶然の幸運」という意味で使われますが、その根底に「幸運な偶然を手に入れる力」があることが暗黙知されているといえます。

一般的には「幸運を捕まえる能力」という「能力」に焦点をあてた意味で使われ、自己啓発やビジネス書などのテーマになることもあります。

セレンディピティの語源は『セレンディップの3人の王子たち』

セレンディピティは英語「serendipity」が語源のカタカナ語です。「serendipity」の語は、18世紀のイギリスの小説家であるホレース・ウォルポールが、『セレンディップの3人の王子たち(The Three Princes of Serendip)』というおとぎ話を読んで生み出した造語だということは、あまり知られていないかもしれません。

『セレンディップの3人の王子たち』の物語は、セレンディップ(スリランカの旧名)の王子たちが旅に出た先で、彼らの優れた能力や才気によって、有益なものを偶然に発見するお話しです。5世紀頃に作られたおとぎ話で、16世紀頃にヨーロッパに伝わり、お話しの中のエピソードが小説に引用されるなど、知識階級に知られた作品だったようです。

「迷子のラクダ」のエピソードでは、迷子のラクダを見てもいないのに、道端の草が左側だけ食べられていることから右目が見えないことを推理するなど、次々と知恵によって推理を行い、王子たちは皇帝の賓客となり幸運を手に入れました。

自らの英知によって、他の人が気づかないことに目を向け、有益なことを発見する能力としてセレンディピティは定義されています。単なる偶然の発見ではなく、王子たちが持っていた能力が前提にあることがポイントだといえます。

「セレンディピティ」の使い方とは?

セレンディピティの概念が使われている事例を紹介します。

イノベーションを起こすための概念「セレンディピティ」

新たな創造により社会に価値をもたらしたり、大きな変化を起こすことを「イノベーション」といいます。そのようなイノベーションを起こすために必要な概念として「セレンディピティ」が挙げられます。イノベーションには偶然の発見やひらめきが必要だという文脈で用いられます。

ビジネスでのセレンディピティは「能力」として捉える

ビジネスでのセレンディピティは「能力」として捉えられています。なぜなら、セレンディピティが起こった時に、それが重要で有益なことだと認識して、活かすことができなければ成果につながらないからです。

マーケティング用語の「セレンディピティ消費」

マーケティング用語に「セレンディピティ消費」があります。「予測できない素敵な出会い」を求め、楽しむ消費者の行動を指す言葉です。再現性がなく、一度きりの予想外の体験を楽しみたいという消費者のニーズが生まれてきたことで造られたキーワードです。

消費者に対して偶然による発見を疑似的に誘導し、商品の購入を促しますが、偶然から幸福を招きよせたという満足感も同時に与えることも意図しています。

「セレンディピティ」に関する作品例

セレンディピティの概念には偶然手に入る幸福というロマン的な側面や、幸福をつかみ取って人生に活かすという行動哲学的な面もあるため、映画や書籍のタイトルやテーマとしても用いられます。

映画『セレンディピティ(原題:Serendipity)』

アメリカの映画では『セレンディピティ』(原題:Serendipity)というタイトルの映画が2001年に公開されました。クリスマス前のニューヨークのデパートで、残り一つの商品に同時に手をふれる形で偶然に出会った二人の恋の物語です。

書籍『乱読のセレンディピティ』

書籍では大学名誉教授の外山滋比古氏の『乱読のセレンディピティ』があります。乱読の思考方法によってセレンディピティが起こり、アイデアを得る知的生産術が提唱されています。

「セレンディピティ」と「シンクロニシティ」の違いとは?

セレンディピティとシンクロニシティの違いを確認してみましょう。

シンクロニシティの意味は「意味のある偶然の一致」

セレンディピティとよく比較される言葉が「シンクロニシティ」です。シンクロニシティとは、心理学者のカール・グスタフ・ユング(1875年~1961年)提唱した概念で「意味のある偶然の一致」という意味です。

日本語では「共時性」と訳され、因果関係のない複数の出来事が関連した意味を持ちながら同時に起こる現象のことをいいます。例えば、ある人に電話をしようとしたらその人から電話がきたとか、夢で見た出来事が翌日起こったなどです。ユングは、精神世界と知覚による現象世界との間にあるものとしてシンクロニシティの概念を説明しました。

シンクロニシティは「現象」であり、意味が異なる

セレンディピティは「偶然の幸運を手に入れる」という意味で「成果」の意味も含まれます。これに対し、シンクロニシティは「意味のある偶然の一致」という「現象」であり、何かをなすことで得られた成果ではありません。よって、両者の意味は異なります。

「無意識の作用が働く」という側面では一致している

セレンディピティとシンクロニシティの意味は異なりますが、共通する点もあります。それは、無意識の作用が働いて起こるものだということです。つまり、人間の意思の力だけで、こうすれば必ず起こせるというものではなく、「無意識の作用によって偶然的に立ち上がる出来事や現象である」ということです。

セレンディピティの言葉を造ったホレース・ウォルポール自身も、自分が探している物を見つけ出す探索能力を「セレンディピティと私が名づけた不思議な力によるもの」だと友人への手紙に書き記しています。

但し、セレンディピティには起こる前提として知識や経験の積み重ねの行動があります。ノーベル化学賞の受賞者の言葉に「何もやらない人にはセレンディピティが起こらない。一生懸命に真剣に新しいものを見つけようと行動している人には顔を出す」というものがあります。

まとめ

セレンディピティは「幸運な偶然を手に入れる力」という意味で一般的に使われます。そこでの「手に入れる力」には、行動する力、価値に気づく力、成果につなげる力、という3つの力が必要だという意味合いが含まれています。

棚から牡丹餅のように単なる偶然で手に入る幸運ではないということがポイントです。だからこそノーベル賞の受賞者が、偉業につながる過程をセレンディピティによるものだと説明することが多いのだといえるでしょう。