「ゲシュタルト」の意味とは?語源や使い方の例文も解説

「ゲシュタルト崩壊」という表現を耳にしたことがある方は多いと思いますが、そもそもの「ゲシュタルト」の意味をご存じでしょうか?この記事ではゲシュタルトの語源や意味と、ゲシュタルト心理学におけるゲシュタルト崩壊の意味や使い方などについて解説します。

「ゲシュタルト」の意味と語源とは?

ゲシュタルトの意味は「全体的なまとまり」

ゲシュタルトの意味は、「全体的なまとまりの構造のこと」です。人間の精神や心理を部分で捉えるのではなく、統一的な全体の構造に重点を置いて捉えるのがゲシュタルト心理学の基本概念です。

ゲシュタルトの語源はドイツ語の「Gestalt」

ゲシュタルトの語源は「形」「形態」の意味であるドイツ語の「Gestalt」です。カタカナ語で「ゲシュタルト」と言う時は、単なる要素のまとまりとしての意味ではなく、心理学の用語として使われるのが一般的です。

「ゲシュタルト」の使い方と例文とは?

「ゲシュタルト崩壊」とは”まとまりの認識が崩壊すること”

「ゲシュタルト崩壊」とは、”形が崩れ、全体のまとまりが崩壊して知覚される現象のこと”です。ゲシュタルト心理学の用語です。幾何学図形や文字など視覚的なものの他に聴覚においても生じます。

よく例として示されるのが「漢字のゲシュタルト崩壊」です。一つの漢字、あるいは一つの漢字を連続して並べたものを長い間見続けていると、漢字の形態のまとまりが崩れ、各部分がバラバラに知覚される現象を漢字のゲシュタルト崩壊といいます。

この現象は疲労によって生じるのではなく、部分を統合して全体の形態を把握するパターン認知の機能低下が原因と考えられています。

「ゲシュタルトの法則」とは”視覚認知の法則のこと”

視覚認知においては、7つのゲシュタルトの法則があります。

「近接」「類同」「連続」「閉合」「共通運命」「面積」「対称性」の7つの法則で、近くにあるものを同じグループに属するとみなしたり、一部が欠けていても記憶にある全体の構造にあてはめて認識したりすます。この人の知覚における性質を「ゲシュタルトの法則」と呼ぶのです。

思い込みや目の錯覚を理論化したものであるため、現在はデザインやグラフ作成などの際に、視覚効果を調整する目的でも用いられています。

「ゲシュタルト」を使った例文

普段の生活やビジネスの場で「ゲシュタルト」の言葉を使う機会はあまりないといえますが、「ゲシュタルト崩壊」の言葉は一般的な場面でも使われているようです。

視覚や聴覚の認知において、全体のまとまりが崩れて崩壊する状態を表す時に次のように使われます。

例文
  • ゲシュタルト崩壊しないようにデザインを調整する。
  • くり返しの音がゲシュタルト崩壊している。

また、心や精神の状態のバランスが崩れ、まとまりがなくなってばらばらに感じることもゲシュタルト崩壊と表現することがあります。

例文
  • 提案を何度も否定され続けたため、ゲシュタルト崩壊して何も考えられなくなった。
  • 苦手な上司の顔がゲシュタルト崩壊してきた。

「ゲシュタルト心理学」とは?

ゲシュタルト心理学は20世紀初頭に創始された

ゲシュタルト心理学は、マックス・ヴェルトハイマー(1880年~1943年)、ヴォルフガング・ケーラー(1887年~1967年)、クルト・コフカ(1886年~1941年)らのドイツ人の心理学者によって20世紀初頭に創始されました。

共同研究の著書『運動視の実験的研究』(1912年)によりゲシュタルト心理学が発表され、その後コフカは『ゲシュタルト心理学の原理』(1935年)においてゲシュタルト理論の体系化を行いました。

ゲシュタルト心理学の原理は「部分の総和は全体とは異なる」

ゲシュタルト心理学では、心理現象の全体性を取り扱い、「部分の総和は全体とは異なる」という原理が基本です。人間の知覚は個別の感覚の総合からなるのではなく、全体的な枠組みであるゲシュタルトのもとに成立しているとするものです。

ゲシュタルト心理学の考え方は知覚心理学、認知心理学、社会心理学などに受け継がれ、現代の心理学にも影響を与えています。具体的には、コーチング、フォーカシング、アートセラピーなどへの影響があります。

「ゲシュタルト療法(ゲシュタルトセラピー)」とは?

「ゲシュタルト療法」とはゲシュタルト心理学をベースにした心理療法

ゲシュタルト療法(ゲシュタルトセラピー)とは、ベルリンに生まれたユダヤ人の精神科医フレデリック・パールズ(1893年~1970年)によって創始された心理療法です。

ゲシュタルト療法は、人間は世界を意味のある全体性(ゲシュタルト)として知覚するというゲシュタルト心理学の視点を取り入れたセラピーの手法です。パールズは訪日した際に座禅体験をするなど東洋思想にも通じており、ゲシュタルト療法には瞑想や東洋思想の影響も盛り込まれています。

「今ここでの気づきを得る」実存主義哲学がベースにある

ゲシュタルト療法の哲学には実存主義が取り入れられています。パールズはゲシュタルトセラピーは実存主義セラピーであるとも述べています。実存主義とは、「他の誰でもない、今ここに私がいる」ことを尊重する哲学です。

ゲシュタルト療法の目的は「今ここでの気づきを得る」ことです。普段は意識されていない感情や体の声に注意を傾け、表面に浮かび上がらせることによって抑圧を解消するためのワークショップなどを行います。

ゲシュタルト療法の思想:「ゲシュタルトの祈り」

ゲシュタルト療法の思想をパールズは「ゲシュタルトの祈り」という詩で著しました。ワークショップでパールズ自身が朗読したもので、現在でもゲシュタルト療法のワークショップなどで朗読されています。

私は私のことをする、あなたはあなたのことをする。
私はあなたのために生きているわけではないし、
あなたも私のために生きているわけではない。
あなたはあなた、私は私。
もしも、お互い出会うことができたら、それはすばらしいこと。
もし出会えなくても、それはしかたのないこと。

まとめ

「ゲシュタルト」はドイツ語を語源とする言葉で、ゲシュタルト心理学の心理学用語として使われています。ゲシュタルト心理学における「ゲシュタルト」の意味は、「全体的なまとまり」です。全体的なまとまりの認知が崩れることを「ゲシュタルト崩壊」といいます。

漢字を見つめていると構成がばらばらに見えてくることを漢字のゲシュタルト崩壊と言いますが、精神的に不安定になって気持ちがまとまらないような場合にも「ゲシュタルト崩壊」と表現することがあります。